上を向いて歩こう「うえーを向ーいて、歩こーうぅー」
「明智君、あまり上を見るものじゃないよ」
瓦礫の上に座った明智は、私を見て手と足をぶらぶらするのを止めた。何だか惜しいような表情で、口をへの字に曲げた。
「どうしてですか、こんなに綺麗な夜空じゃありませんか」
「まだ君の身体は地上に慣れていないんだ、信号に弱いんだよ」
明智は、私が着せた気圧適応型の棒縞着物をぱたぱたと手で動かした。そしてピョンと瓦礫から飛び上がって、念入りに計器を調べている私にくっ付いた。
「何をなさっているのです」
「座標を調べてるんだ、次の都市に行くにはどうするか―もう食料も少ないから、明日からは携帯珈琲を半分こしなきゃいけないよ」
明智はそれを聞いて頬を少し膨らませた。
「大変ですね」
「大変なんだ。明智君は休んでていいから…もう少しで都市側と接続できそうなんだ。入国許可が下りさえすれば、僕達も受け入れてもらえるよ」
そう言いつつ、計器から放つ回線を探りながら奮闘していると、明智は少し離れたところに座って、また上を向いた。そしてぼうっと瞬く星空を眺め、嘆息した。
「こんなに広い宇宙の中で、君と僕は遭難しているのですねえ」
「君は怖くないのかい?」
「怖くありませんよ。君が居れば、僕はどこだって構わないのですよ」
にこり。明智が笑うと、心寂しい私はいつだって元気が溢れてくる。
「ヨシ、僕もガンバって交信してみるからね。都市に着いたら、明智君に新しい光学迷彩の下駄も買ってあげるよ」
「では、僕は場を盛り上げましょう。また歌いますから、聞いてて下さいな」
うえーを向ーいて、歩こーうぅー
明智の透き通るような声色は、綻びた大地と瓦礫の上で、電波と一体になってハーモニーを奏でていた。
(おわり)