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    kumo72783924

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    kumo72783924

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    前回の続き。少し手直し。流心ドイツ編のプロローグ的な位置づけ。ちなみに楓吾はじいちゃんがドイツ人、ばあちゃんが日本人のクォーターという設定です。

    #一次創作
    Original Creation
    #BL
    #オリジナル
    original

    流心〜ドイツ編〜楓吾1
     川岸に立つ電波塔のライトは、午後六時を示している。塔の側面に灯る明かりが十進法時計になっていて、辺りが暗くなると、小さな光の明滅でさりげなく時刻を教えてくれるのだ。雄大な川の流れを眺めていると時間が経つのを忘れてしまいそうになるけど、ここは基本的に東京よりも気温が低いので、十一月ともなれば上着が無いとかなり寒い。隣に座る魁は、僕のアドバイス通りに持ち込んだダウンジャケットを羽織っている。長旅で疲れていないかと尋ねたら、ずっと座りっぱなしだったからむしろ少し歩きたいと言うので二人で散歩に出ることにした。久しぶりに会う恋人は、少し痩せたようにも見える。だけどそれはやつれたというわけではなく、引き締まったと言った方が良いだろう。僕がドイツに来て以来、いくらメッセージやビデオ通話でコミュニケーションを取ってきたとしても、こうやって直接会って触れられる喜びは何にも替えられない。空港で挨拶代わりのハグをしただけではどうしても我慢出来なくて、駐車場で車に乗り込んですぐ、一度だけキスをした。
     ドイツ西部に位置するこの都市は、大きな川を少しだけ跨ぐように広がっていて、この辺の経済の中心を担っている。僕の祖父が会社を立ち上げ、そして祖母と出会ったのもこの町だった。日系企業の進出が目覚ましく、もともと日本人が多い地域だったことが二人の出会いを助けた部分もあるだろう。若い二人は懸命に働き、子供を二人もうけた。そのうちの一人が学びのために日本へ渡り、そこで自分の父親と同じく一人の日本人女性に恋をして、僕が生まれたというわけだ。祖父は長男である父に会社を継がせたかったようだけど、父は日本で僕を育てると決めていたから、二人はそれが原因で少し仲違いをしてしまった。以来ドイツの実家とは微妙な距離感が保たれていて、僕がこっちへ来たことでその均衡が崩れつつあるというのが現状だ。魁が来てくれたからには僕の家族を紹介したいと思っているけど、おじいちゃんがどんな反応をするのかだけは、正直言って少し怖い。
    「そういえば、親父さんが空港まで来てくれたよ」
    「父さんが?何か言ってた?」
    「お前のじいさんに何か言われても気にするなってさ」
    「ああ……なるほどね」
    「仲悪いんだっけ?」
    「まあ、色々あったから」
     魁と僕の両親とは、僕がドイツに発つ前に一度会ってもらっている。父は、自分が親から色々と押し付けられることに反抗して育ったせいか、基本的に僕の意志を尊重する育て方をしてくれた。魁を恋人として紹介したときはさすがに驚いていたようだけど、それも最初だけで、僕がドイツに来てからはたまに二人で飲みに行っていたくらいだから、二人目の息子が出来たみたいで嬉しかったのかもしれない。詳しいことはわからないけど、僕には弟か妹が出来る予定だったと聞いている。生まれてくるはずのわが子を腕に抱くことが出来なかった落胆と悲しみは想像に難くない。特に母は、魁をまるでその子の生まれ変わりのように扱い、甲斐甲斐しく世話を焼きたがる。僕も魁ももういい大人なんだからと一度母を窘めたことがあったんだけど、魁は静かに笑って「親孝行だと思えばいいだろ」と言うだけだった。
    「写真でも送ってあげたら良いんじゃないか」
    「写真って何の?」
    「俺たちのだよ」
     魁がスマホを取り出してカメラを起動させた。身体をこちらに寄せて、四角い画面に僕たちの顔を収めようとしている。少し疲れた表情の魁と、戸惑っている僕。画面越しじゃなく、今確かに僕の隣に恋人が居ることへの喜びで思わず口角が上がったのを、魁は見逃さなかった。カシャ、と思いの外大きな音をたてて撮影された僕らの写真は、すぐに僕の父へと送信された。母が父の手からスマホを奪って覗き込む様子が容易に想像できる。魁が僕の両親に対してこんなにも自然に振舞ってくれることが、なんだかとても嬉しかった。
    「夕飯は?お腹空いてる?」
    「食事というより、ビールが飲みたい」
    「ここから地下鉄で二駅行ったところに、良い店があるんだ。ビールとかソーセージみたいな定番の他に昔ながらのドイツ料理も食べられるし、値段もそんなに高くないから、行ってみようか」
    「うん。専属ツアーガイドに任せるよ」
     腰をおろしていたベンチから立ち上がり、二人並んで歩き出す。前にもこんなふうに二人で川を眺めたことがあったっけ。あのとき話してくれた夢を、魁はその後も見ているんだろうか。少し心配になって横を盗み見たとき、当の本人は大きなあくびをしていた。十二時間を超えるフライトの後でビールなんて飲んだら、きっと夜はぐっすり眠ってしまうだろう。少なくとも今夜は魁が深い眠りに就いてくれることを祈りながら、僕は冬が始まりつつある街角を歩いていた。
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    kumo72783924

    PROGRESS魁のパート。ビール飲んでる。
    流心〜ドイツ編〜魁1
     十一月のドイツは想像以上に寒く、訝しがりながら持ってきたダウンが大活躍だった。見るもの全てが痛いほど新鮮に映る中、隣で穏やかに微笑む恋人が旅の緊張を解してくれる。距離も時差も超えて、こうして二人並んで歩くだけでも、思い切ってここまで来て良かったと思うには十分だった。
     ターミナル駅からほど近いその店は、入口の様子からは想像出来ないほどに中は広く、何人もの客が酒とおしゃべりに興じていた。柱や梁は艶のあるダークブラウンで、木製のテーブルや椅子が落ち着いた雰囲気を醸し出している。ぐるりと店内を見渡したときに目を引くのは、なんと言っても大きなビール樽だろう。その樽から直接ビールが注がれたグラスをびっしりと乗せて、店員がお盆を手に店内を動き回っている。その様子に目を奪われていると、店員の一人から“ハロー”と声をかけられた。こちらもひとまず“ハロー”と返すと、何か質問を投げかけられたようだったが、生憎俺は返す言葉を持ち合わせていない。助けを求める間もなく楓吾が最初の注文を済ませ、席に着くなりビールが二つ運ばれてくると、ドイツに来て初めての食事が始まろうとしていた。ふと向かいに目をやれば、赤銅色に染まるグラスの向こうで楓吾が再び店員と何やら話している。ガヤガヤと騒がしい店内で異国の言葉を話す恋人は、まるで別人のようだ。ひょっとして、話す言語によって人格も多少は変わるのだろうか。俺の知らない楓吾の一面があるのだろうか……そんなことを考えながら二人のやり取りをぼんやり眺めていると、楓吾がこちらに向き直って言った。
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    kumo72783924

    PROGRESS前回の続き。少し手直し。流心ドイツ編のプロローグ的な位置づけ。ちなみに楓吾はじいちゃんがドイツ人、ばあちゃんが日本人のクォーターという設定です。
    流心〜ドイツ編〜楓吾1
     川岸に立つ電波塔のライトは、午後六時を示している。塔の側面に灯る明かりが十進法時計になっていて、辺りが暗くなると、小さな光の明滅でさりげなく時刻を教えてくれるのだ。雄大な川の流れを眺めていると時間が経つのを忘れてしまいそうになるけど、ここは基本的に東京よりも気温が低いので、十一月ともなれば上着が無いとかなり寒い。隣に座る魁は、僕のアドバイス通りに持ち込んだダウンジャケットを羽織っている。長旅で疲れていないかと尋ねたら、ずっと座りっぱなしだったからむしろ少し歩きたいと言うので二人で散歩に出ることにした。久しぶりに会う恋人は、少し痩せたようにも見える。だけどそれはやつれたというわけではなく、引き締まったと言った方が良いだろう。僕がドイツに来て以来、いくらメッセージやビデオ通話でコミュニケーションを取ってきたとしても、こうやって直接会って触れられる喜びは何にも替えられない。空港で挨拶代わりのハグをしただけではどうしても我慢出来なくて、駐車場で車に乗り込んですぐ、一度だけキスをした。
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    kumo72783924

    PROGRESS流心の続編。書き出しは今のところこんな感じ。遠距離恋愛になった二人がドイツで再会してなんやかんやある話。一応デュッセルドルフをモデルに考えています。
    流心〜ドイツ編〜楓吾1
     川岸に立つ電波塔のライトは、午後六時を示している。塔の側面に灯る明かりが十進法時計になっていて、辺りが暗くなると小さな光の明滅でさりげなく時刻を教えてくれるのだ。雄大な川の流れを眺めていると時間が経つのを忘れてしまいそうになるけど、ここは基本的に東京よりも気温が低いので、十一月ともなれば上着が無いとかなり寒い。隣に座る魁は、僕のアドバイス通りに持ち込んだダウンジャケットを羽織っている。長時間のフライトで疲れていないかと尋ねたら、ずっと座りっぱなしだったからむしろ少し歩きたいと言うので二人で散歩に出た。久しぶりに会う恋人は、少し痩せたようにも見える。だけどそれはやつれたというわけではなく、引き締まったと言った方が良いだろう。僕がドイツに来て以来、いくらメッセージやビデオ通話でコミュニケーションを取ってきたとしても、こうやって直接会って触れられる喜びは何にも替えられない。空港で挨拶代わりのハグをしただけではどうしても我慢出来なくて、駐車場で車に乗り込んですぐ、一度だけキスをした。
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