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    kumo72783924

    @kumo72783924
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    kumo72783924

    PROGRESS魁のパート。ビール飲んでる。
    流心〜ドイツ編〜魁1
     十一月のドイツは想像以上に寒く、訝しがりながら持ってきたダウンが大活躍だった。見るもの全てが痛いほど新鮮に映る中、隣で穏やかに微笑む恋人が旅の緊張を解してくれる。距離も時差も超えて、こうして二人並んで歩くだけでも、思い切ってここまで来て良かったと思うには十分だった。
     ターミナル駅からほど近いその店は、入口の様子からは想像出来ないほどに中は広く、何人もの客が酒とおしゃべりに興じていた。柱や梁は艶のあるダークブラウンで、木製のテーブルや椅子が落ち着いた雰囲気を醸し出している。ぐるりと店内を見渡したときに目を引くのは、なんと言っても大きなビール樽だろう。その樽から直接ビールが注がれたグラスをびっしりと乗せて、店員がお盆を手に店内を動き回っている。その様子に目を奪われていると、店員の一人から“ハロー”と声をかけられた。こちらもひとまず“ハロー”と返すと、何か質問を投げかけられたようだったが、生憎俺は返す言葉を持ち合わせていない。助けを求める間もなく楓吾が最初の注文を済ませ、席に着くなりビールが二つ運ばれてくると、ドイツに来て初めての食事が始まろうとしていた。ふと向かいに目をやれば、赤銅色に染まるグラスの向こうで楓吾が再び店員と何やら話している。ガヤガヤと騒がしい店内で異国の言葉を話す恋人は、まるで別人のようだ。ひょっとして、話す言語によって人格も多少は変わるのだろうか。俺の知らない楓吾の一面があるのだろうか……そんなことを考えながら二人のやり取りをぼんやり眺めていると、楓吾がこちらに向き直って言った。
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    PROGRESS前回の続き。少し手直し。流心ドイツ編のプロローグ的な位置づけ。ちなみに楓吾はじいちゃんがドイツ人、ばあちゃんが日本人のクォーターという設定です。
    流心〜ドイツ編〜楓吾1
     川岸に立つ電波塔のライトは、午後六時を示している。塔の側面に灯る明かりが十進法時計になっていて、辺りが暗くなると、小さな光の明滅でさりげなく時刻を教えてくれるのだ。雄大な川の流れを眺めていると時間が経つのを忘れてしまいそうになるけど、ここは基本的に東京よりも気温が低いので、十一月ともなれば上着が無いとかなり寒い。隣に座る魁は、僕のアドバイス通りに持ち込んだダウンジャケットを羽織っている。長旅で疲れていないかと尋ねたら、ずっと座りっぱなしだったからむしろ少し歩きたいと言うので二人で散歩に出ることにした。久しぶりに会う恋人は、少し痩せたようにも見える。だけどそれはやつれたというわけではなく、引き締まったと言った方が良いだろう。僕がドイツに来て以来、いくらメッセージやビデオ通話でコミュニケーションを取ってきたとしても、こうやって直接会って触れられる喜びは何にも替えられない。空港で挨拶代わりのハグをしただけではどうしても我慢出来なくて、駐車場で車に乗り込んですぐ、一度だけキスをした。
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    PROGRESS流心の続編。書き出しは今のところこんな感じ。遠距離恋愛になった二人がドイツで再会してなんやかんやある話。一応デュッセルドルフをモデルに考えています。
    流心〜ドイツ編〜楓吾1
     川岸に立つ電波塔のライトは、午後六時を示している。塔の側面に灯る明かりが十進法時計になっていて、辺りが暗くなると小さな光の明滅でさりげなく時刻を教えてくれるのだ。雄大な川の流れを眺めていると時間が経つのを忘れてしまいそうになるけど、ここは基本的に東京よりも気温が低いので、十一月ともなれば上着が無いとかなり寒い。隣に座る魁は、僕のアドバイス通りに持ち込んだダウンジャケットを羽織っている。長時間のフライトで疲れていないかと尋ねたら、ずっと座りっぱなしだったからむしろ少し歩きたいと言うので二人で散歩に出た。久しぶりに会う恋人は、少し痩せたようにも見える。だけどそれはやつれたというわけではなく、引き締まったと言った方が良いだろう。僕がドイツに来て以来、いくらメッセージやビデオ通話でコミュニケーションを取ってきたとしても、こうやって直接会って触れられる喜びは何にも替えられない。空港で挨拶代わりのハグをしただけではどうしても我慢出来なくて、駐車場で車に乗り込んですぐ、一度だけキスをした。
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    PROGRESS俺→魁(カイ)、僕→楓吾(フーゴ)
    出だしと、キャラに名前を付けたことにより所々訂正。この後の分も変わってます。
    今日も同じ夢を見た。今まで何度も見た夢だ。俺は、流れの緩やかな川で二人乗りの小舟に乗っている。目の前のオールを漕がなければならないと分かっているのに、身体が動かない。もう一人の乗り手の顔は逆光でよく見えないが、その人は俺に代わってゆっくりとした動作でオールを漕ぎ始める。ホッとしたのもつかの間、いつの間にか川の流れは速くなり、目の前で川が分岐しようとしている。どちらに進めば良いのか分からないまま、激しい流れに飲み込まれる寸前、その人が俺の名前を呼ぶ――
     夢はいつもそこで終わる。その人の声は、初めて聞くような気もするし、とても馴染みのある声のような気もする。夢の世界から現実に戻ったことを確かめるために目を開けると、細く開かれたカーテンの隙間から、陽の光が筋になって寝室へ流れ込んでいた。何度も経験した朝なはずなのに、ここが自宅ではないと理解するまでいつも数秒かかる。
     俺も、恋人の楓吾も、休日はアラームを設定しない。二度寝三度寝を繰り返す俺とは違って、あいつはさっさと起きて散歩に行ってしまう。目が覚めて、隣に残された微かな体温と空洞を確認するとき、俺はいつも言いようのない不安に襲われる。実 2332

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    PROGRESSつづき。キャラの名前を考えてみたんだけど、どのタイミングで出そうか迷い中。仕事で君の職場に行くのは、いつも決まって水曜日だった。だけど今週は行っていない。先週も行かなかった。別件で時間をとられているという事情もあるけど、ドイツ行きの話をして以来メッセージのやりとりすらしていない恋人の顔を見るのが怖いというのが本音だった。君は真面目だから、何事も無かったような態度で僕に接するなんて出来ないんだろう。いつもそうだよね。僕たちが険悪な雰囲気になったとき――それらは本当に些細なことが原因だったけど――曖昧な笑顔で誤魔化して形ばかりの仲直りを仕立て上げるのは、僕の方だった。
     だけど今回は少し話が大きすぎる。もっと慎重になるべきだった。僕は心のどこかで君を試そうとしていたのかもしれない。自分の欲の深さと浅はかさを痛感することになるとも知らずに。
    『最近仕事は忙しいの?』
    『久しぶりに食事でもどう?』
    『行ってみたいバーがあるんだけど、付き合ってくれない?』
     言い訳じみた言葉を打ち込んでは消してを繰り返し、もう30分は経っただろうか。ランチの後のコーヒーはすっかり冷め、一番伝えたい言葉を吐き出せないまま昼休みは過ぎて行った。会いたい。声が聞きたい。たったそれだけを伝え 1713

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    PROGRESS「僕」目線。「俺」は独白調なのに対し、「僕」は『君』へ語りかけるスタイルにしてみた。月曜の朝は、いつも少し気が重い。これから退屈な一週間が始まるのかという思いと、また君に触れられなかったという後悔でいっぱいだからだろう。週末には狭い位だったこのベッドも、君が居ないと広く感じられて仕方がない。わざと大きく伸びをして、やっとのことで身体を引きずり出す。
    『すごいな。ヘッドハンティングってやつか』
     そう言って煙草に火を着ける横顔に、動揺の色を探してしまう自分が居た。一言でいい。行くなと言って欲しかった。君には僕が必要だと言って欲しかった。ただそれだけだったんだ。
     君が僕という人間を認識するずっと前から、僕は君を見ていた。艶のある黒髪の短髪に、切れ長な奥二重の目。その目がこちらに向くことを願うようになったのは、いつからだろう。
     君はいつも煙草の香りをまとっている。出会ったばかりの頃は、かなり年季の入った孤独と疲労の香りも一緒に。不器用な人なのかと思っていたけど、それは僕の思い違いだったみたいだ。仕事は滞りなく進めていたし、むしろ他人の分までこなす勢いだった。これは僕の憶測だけど、そうやって自分のキャパシティを意図的に埋めて行き、他者が入る空間を空けないようにしていたんじ 1857

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    PROGRESSつづき。キャラに名前が無いのは、そういうふうに書いてみよう、という意図が半分、キャラ作りが上手く行っていないのが半分。食事の後は、恋人が洗い物をする隣でキッチンスツールに腰を掛け、煙草を吸いながら読書をするのがお決まりになっている。俺が息を吐き出す度、白い煙が文庫本のページをかすめて、頭上の換気扇に吸い込まれていく。ごうごうと鳴る換気扇と、カチャカチャと皿を洗う音をBGMにして、食後の読書タイムは続く。
    「コーヒーいれようか」
     二件目の殺人が起き、なんだか犯人っぽい怪しい奴が出てきた辺りで洗い物は終わったらしい。だいたい最初に怪しいと思った奴は犯人じゃないんだよな、と思っていると、コーヒーのいい香りがこちらに流れてきた。換気扇を切り、煙草を消して、代わりにコーヒーカップを手に取る。ビールとはまた違った苦味が広がるのを感じていると、白いカップの中の茶色い液体を見つめたまま、あいつが言った。
    「促音便って、知ってる?」
    「そく……何?」
    「促音便。『切手』の小さい『つ』みたいに、書くけど読まない音のこと。英語でも、"night"の"gh"は書くけど読まないじゃない。ああいうの、英文法では黙字って言うんだって。他の言語にもあるのかな」
     明らかに唐突で脈絡のない話題だが、何か意図があって話し始めたのは確か 1464

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    PROGRESSつづき。この後でちょっと行き詰まってる。俺は本が好きだ。それも、図書館や古本屋に並ぶような、表紙が少し汚れていたり、ページの合間にささやかな落書きが残っているような本が。
     俺が好んで本を読むようになったのは、中学生の頃、読書感想文を書く為の本を探しに図書館へ行ってからだ。そしてそこで一人の女性と出会った。所謂初恋というやつだ。
     どんな本を選べばいいのかわからず館内をうろうろしている俺に気づいて、彼女は声をかけてくれた。勧められるまま借りて読んだ本が面白くて、それ以来俺は頻繁に図書館に通うようになり、彼女との会話も自ずと増えていった。図書館司書と利用者という関係は俺が高校を卒業するまで続いたものの、俺にも当時一応「カノジョ」が居て、友達がキスまで済ませたなら自分はその先まで進めたい、なんてことしか考えていなかったから、彼女に対して自分が抱えている感情に気がついたのは、彼女の左手薬指に光るものを見つけてからだった。
     この世に、彼女に触れる男が居る。その事実が、俺の心に暗い影を落としていた。高校生の自分だって経験しているのだから、二人はキスもその先も当然済ませているだろう。見知った女性と見知らぬ男の影が重なるのを思わず想像し 2061

    kumo72783924

    MAIKINGオリジナル小説に挑戦します。ジャンルとしては一応BLということになるのかな。大体のオチとタイトル案に浮かんでいるものはありますが、まだ決まっていません。大人(社会人)の、平和で穏やかな中に時折チラつく不安に気持ちが揺れるような、静かなお話になると思います、が、どうなることやら。俺も俺の恋人も、休日はアラームを設定しない。二度寝三度寝を繰り返す俺とは違って、あいつはさっさと起きて散歩に行ってしまう。目が覚めて、隣に残された微かな体温と空洞を確認するとき、俺はいつも言いようのない不安に襲われる。実際は数十分もすればちゃんと帰って来るし、近所のパン屋で焼きたてのクロワッサンを買ってきてくれる。バターとコーヒーの香りに誘われてリビングへ出れば、いつもと同じようにあいつが出迎えてくれる。それが分かっていても、この不安は律儀にやって来る。
    「おはよう。顔洗っといで。今日はチョココロネもあるよ」
     ヨーロッパ系の血が入ったクォーターであるこいつは、背が高く、着痩せはするけど案外骨太で、いつも穏やかな微笑みを絶やさない男だ。平日は仕事の合間にメッセージのやりとりをして、金曜の夜には俺がこの部屋にやって来る。食事をして、風呂に入り、おやすみのキスをして眠る。それ以上のことはしない。こいつは、俺がそれを望んでいないことを理解していて、強要するようなことは絶対にしないのだ。
     洗面所で顔を洗うと、ぼやけた頭に少しだけ芯が入る感覚がする。こいつと付き合うまで、俺は特に意味もなく残業 1930