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    kumo72783924

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    魁のパート。ビール飲んでる。

    #創作BL
    creationOfBl
    #BL
    #オリジナル
    original
    #一次創作
    Original Creation

    流心〜ドイツ編〜魁1
     十一月のドイツは想像以上に寒く、訝しがりながら持ってきたダウンが大活躍だった。見るもの全てが痛いほど新鮮に映る中、隣で穏やかに微笑む恋人が旅の緊張を解してくれる。距離も時差も超えて、こうして二人並んで歩くだけでも、思い切ってここまで来て良かったと思うには十分だった。
     ターミナル駅からほど近いその店は、入口の様子からは想像出来ないほどに中は広く、何人もの客が酒とおしゃべりに興じていた。柱や梁は艶のあるダークブラウンで、木製のテーブルや椅子が落ち着いた雰囲気を醸し出している。ぐるりと店内を見渡したときに目を引くのは、なんと言っても大きなビール樽だろう。その樽から直接ビールが注がれたグラスをびっしりと乗せて、店員がお盆を手に店内を動き回っている。その様子に目を奪われていると、店員の一人から“ハロー”と声をかけられた。こちらもひとまず“ハロー”と返すと、何か質問を投げかけられたようだったが、生憎俺は返す言葉を持ち合わせていない。助けを求める間もなく楓吾が最初の注文を済ませ、席に着くなりビールが二つ運ばれてくると、ドイツに来て初めての食事が始まろうとしていた。ふと向かいに目をやれば、赤銅色に染まるグラスの向こうで楓吾が再び店員と何やら話している。ガヤガヤと騒がしい店内で異国の言葉を話す恋人は、まるで別人のようだ。ひょっとして、話す言語によって人格も多少は変わるのだろうか。俺の知らない楓吾の一面があるのだろうか……そんなことを考えながら二人のやり取りをぼんやり眺めていると、楓吾がこちらに向き直って言った。
    「一品一品の量が多いから、シェアして食べよう」
    「おう」
    「それじゃ、乾杯」
     コツン、とグラスを合わせてから、赤く輝く液体を口に含む。まろやかな口当たりで、ホップのコクや苦味が強く感じられた。周りのテーブルに出ている料理を観察するに、ああいう味の濃いものと相性が良いのかもしれない。日本でもアルトビールを飲めないわけではないが、こうして現地で楓吾と一緒に飲む方が何倍も美味いのは間違いない。一口一口味を確かめながら飲み干すと、すぐに二杯目のグラスと交換された。店員はコースターに一つ線を引き、また別のテーブルへと急ぐ。ここではわんこそばの要領でビールを飲むらしい。
    「コースターが伝票代わりなんだよ。お代わりがいらないときは、コースターをグラスの上に乗せてね」
     そう言う楓吾もまた、二杯目に口を付けている。こんなふうに二人向き合って食事をするなんて随分と久しぶりだ。先に頼んでいたソーセージをつまみに二杯目のビールを飲み干すと、言いようの無い嬉しさで思わず頬が緩む。
    「なに?ニヤニヤして」
    「こういうの久しぶりだなと思ってさ」
     緩んだ顔を特に誤魔化さずそう言うと、少し驚いたような表情で楓吾も頷いた。その日仕事を終えてから空港へやって来た俺の恋人は、スーツ姿ではあるもののネクタイは外していて、二つほどボタンを開けたシャツの隙間から健康的な喉仏が覗いていた。日本に居た頃から大事に着ていたコートに身を包み、俺の姿を探してキョロキョロと辺りを見回しているのを見たとき、今以上にだらしのない顔になってしまったところは見られていないと信じたい。
    「飲み屋を兼ねてる醸造所は他にもあるから、飲み歩いて味を比べるのも楽しいよ」
    「凄く魅力的なプランだけど、今日はやめとくよ。疲れもあるし、あんまり飲んだらひっくり返りそうだ。それに、まだ時間はあるしな」
     休暇は二週間。往復の飛行機代は決して安くはないが、楓吾の家に滞在するから宿代は気にしなくていいし、その分二人の時間がゆっくり取れるはずだ。ここへ来る前、スーツケースを置きに寄ったとき、東京のあの部屋と同じ匂いで満たされた空気に思わずため息が出た。シンプルで統一感のあるインテリアの中で、俺が買った文庫本が我が物顔でくつろいでいるのには笑ってしまう。日本から遠く離れたこの地で、その本の中の言葉たちが少しでも楓吾の心を癒してくれることを祈るばかりだ。そして今回の旅の目的は、恋人との久々の再会を喜び合うのはもちろん、楓吾の家族と会うことだった。俺にとって一番大切な人のルーツを、自分の目で確かめてみたいと思ったから。
    「じいさんって今幾つだっけ?」
    「アルノおじいちゃんは、御年八十七歳。会社をフランツおじさんに託してからは、ゴルフしたりDIYしたりガーデニングしたり……もともと大工だったから、手先を動かしてる方が良いみたい」
    「大工やってて、防断熱材とか内装工事関係の会社起こしたってことだよな?すごいな、お前のじいさん」
    「仕事中に怪我しちゃってさ、現場に出られなくなっちゃったから、軌道修正したんだって。いずれにせよ、そのバイタリティには驚かされるよね」
    「お前のばあさんとは、どういう経緯で結婚することになったんだ?」
    「確か、おばあちゃんが観光だか短期留学だかでこっちに来ていて、道を聞かれたとかなんとかって言ってた。おじいちゃんの一目惚れだったみたい。すんなりとは決まらなかったらしいけど、二人とも頑固だからちょっと強引に結婚したんだよね」
     楓吾のばあさんであるマリコさんは、俺たちが出会うより前に亡くなっている。思いがけず異国で恋に落ち、その後一生をその国で生きると決めた意志の強さと愛の深さに、家族の誰もが尊敬の念を抱いているようだった。直接会って話が出来ないのは残念だが、後で墓参りをさせてもらおうと思っている。
    「フランツおじさんってのが怜雄さんの弟?」
    「そう。僕をドイツに呼び寄せた張本人だね。朗らかで陽気な人だよ。お調子者に見えるけど、実際はとても堅実で、上手く会社を回してる」
     楓吾の親父さんはレオという名前で、日本で暮らすにあたって漢字の名前を作ったそうだ。ドイツと日本のハーフだから、クオーターである楓吾よりもヨーロッパの血は強いらしく、彫りも深い。とてもハンサムで知的な人だった。弟に会社を押し付けるような形になってしまったことを気にしているようだったが、兄弟仲は良好だと聞いている。フランツおじさんがアルノじいさんから会社を引き継ぎ、アジア圏へ販路を広げるべく楓吾を呼び出すことにしたらしい。既存の商品のマニュアルを日本語訳したりアジア向けの製品開発をしたりするのが今の楓吾の主な仕事だが、今後ドイツでの業務がどれだけ続くのか、はっきりとはわからない。もし万が一このまま楓吾が日本へ戻らないとしたら、俺はマリコさんのような決断が出来るのかどうか、正直言って自信が無かった。
    「どこか行きたいところはある?」
    「昔世界史の資料集で見た大聖堂が見たい」
    「いいね。ちょっと早いけど、あと数日でクリスマスマーケットも始まるから、一緒に行こう」
     数年先の未来は見えなくても、数日後の楽しみなら今はっきりと感じられる。ただでさえ不安の多い遠距離恋愛の合間、せっかくこうして会えたのなら楽しまなければ損というものだろう。そう自分に言い聞かせ、いつの間にか運ばれていた三杯目のビールを手に取ったとき、俺たちのテーブルに近づいてくる人影が見えた。
    「Guten Abend(グーテン・アーベント\こんばんは)」
     その言葉と共に突然現れたのは、青い目をした若い男だった。日本の飲み屋でもたまにあるような、偶然席が近かったのをきっかけに世間話をするという流れかと思ったがどうやら違うらしい。整った顔をしたブロンドヘアの男を前に、楓吾が明らかに動揺していたのだ。男はそれに構う様子もなく、俺の方をチラリと一瞥するとそのまま楓吾の隣に座った。身体の向きを完全に楓吾の方に向け、男が楓吾の肩に腕を回そうとした、そのときだった。
    「魁、ごめん。ちょっと待ってて」
     強引に男を立たせ、楓吾が店を後にする。テーブルの横を通り過ぎるとき、勝ち誇ったような顔で、男は俺にウインクをした。
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    kumo72783924

    PROGRESS魁のパート。ビール飲んでる。
    流心〜ドイツ編〜魁1
     十一月のドイツは想像以上に寒く、訝しがりながら持ってきたダウンが大活躍だった。見るもの全てが痛いほど新鮮に映る中、隣で穏やかに微笑む恋人が旅の緊張を解してくれる。距離も時差も超えて、こうして二人並んで歩くだけでも、思い切ってここまで来て良かったと思うには十分だった。
     ターミナル駅からほど近いその店は、入口の様子からは想像出来ないほどに中は広く、何人もの客が酒とおしゃべりに興じていた。柱や梁は艶のあるダークブラウンで、木製のテーブルや椅子が落ち着いた雰囲気を醸し出している。ぐるりと店内を見渡したときに目を引くのは、なんと言っても大きなビール樽だろう。その樽から直接ビールが注がれたグラスをびっしりと乗せて、店員がお盆を手に店内を動き回っている。その様子に目を奪われていると、店員の一人から“ハロー”と声をかけられた。こちらもひとまず“ハロー”と返すと、何か質問を投げかけられたようだったが、生憎俺は返す言葉を持ち合わせていない。助けを求める間もなく楓吾が最初の注文を済ませ、席に着くなりビールが二つ運ばれてくると、ドイツに来て初めての食事が始まろうとしていた。ふと向かいに目をやれば、赤銅色に染まるグラスの向こうで楓吾が再び店員と何やら話している。ガヤガヤと騒がしい店内で異国の言葉を話す恋人は、まるで別人のようだ。ひょっとして、話す言語によって人格も多少は変わるのだろうか。俺の知らない楓吾の一面があるのだろうか……そんなことを考えながら二人のやり取りをぼんやり眺めていると、楓吾がこちらに向き直って言った。
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    kumo72783924

    PROGRESS前回の続き。少し手直し。流心ドイツ編のプロローグ的な位置づけ。ちなみに楓吾はじいちゃんがドイツ人、ばあちゃんが日本人のクォーターという設定です。
    流心〜ドイツ編〜楓吾1
     川岸に立つ電波塔のライトは、午後六時を示している。塔の側面に灯る明かりが十進法時計になっていて、辺りが暗くなると、小さな光の明滅でさりげなく時刻を教えてくれるのだ。雄大な川の流れを眺めていると時間が経つのを忘れてしまいそうになるけど、ここは基本的に東京よりも気温が低いので、十一月ともなれば上着が無いとかなり寒い。隣に座る魁は、僕のアドバイス通りに持ち込んだダウンジャケットを羽織っている。長旅で疲れていないかと尋ねたら、ずっと座りっぱなしだったからむしろ少し歩きたいと言うので二人で散歩に出ることにした。久しぶりに会う恋人は、少し痩せたようにも見える。だけどそれはやつれたというわけではなく、引き締まったと言った方が良いだろう。僕がドイツに来て以来、いくらメッセージやビデオ通話でコミュニケーションを取ってきたとしても、こうやって直接会って触れられる喜びは何にも替えられない。空港で挨拶代わりのハグをしただけではどうしても我慢出来なくて、駐車場で車に乗り込んですぐ、一度だけキスをした。
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    kumo72783924

    PROGRESS流心の続編。書き出しは今のところこんな感じ。遠距離恋愛になった二人がドイツで再会してなんやかんやある話。一応デュッセルドルフをモデルに考えています。
    流心〜ドイツ編〜楓吾1
     川岸に立つ電波塔のライトは、午後六時を示している。塔の側面に灯る明かりが十進法時計になっていて、辺りが暗くなると小さな光の明滅でさりげなく時刻を教えてくれるのだ。雄大な川の流れを眺めていると時間が経つのを忘れてしまいそうになるけど、ここは基本的に東京よりも気温が低いので、十一月ともなれば上着が無いとかなり寒い。隣に座る魁は、僕のアドバイス通りに持ち込んだダウンジャケットを羽織っている。長時間のフライトで疲れていないかと尋ねたら、ずっと座りっぱなしだったからむしろ少し歩きたいと言うので二人で散歩に出た。久しぶりに会う恋人は、少し痩せたようにも見える。だけどそれはやつれたというわけではなく、引き締まったと言った方が良いだろう。僕がドイツに来て以来、いくらメッセージやビデオ通話でコミュニケーションを取ってきたとしても、こうやって直接会って触れられる喜びは何にも替えられない。空港で挨拶代わりのハグをしただけではどうしても我慢出来なくて、駐車場で車に乗り込んですぐ、一度だけキスをした。
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