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    わはなかご

    @wahanagoi

    主にさねぎゆのお話をアップしたりしたいと思っています。(色々お試し期間中です‥)

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    わはなかご

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    さねぎゆのケルベロス×死i神のカワイクナイ関係の二人のお話です。
    まだ、前半の半分くらいなので‥
    続き、読みたい方いるかなあ??

    mon ami 可愛らしい仔犬のぬいぐるみを拾った。
    手のひらに乗るくらいの大きさで、グレーと白の毛並み。首に「参」という札を下げている。誰か落とし主がいるかと、周りを見渡したが人影はない。
     空を見上げると、どんよりとした雲から間もなく雨が降りそうで、このままここに置いておくには忍びないと、そっとスーツのポケットにしまった。
     明日、天気が晴れたら、ここに戻しに来よう。
    腕時計で時間を確認し、俺は、目的の場所へ向かう。

     薄暗い街の奥にある、背の低いビル。
    並んだ郵便受けは、どれも入りきらなかった手紙やチラシが溢れて床を汚している。
     今夜の目的は、このビルの最上階にいる。
    ナントカ組とかいう、コワモテの集団の頭だそうだ。人間世界のそういった仕組みには関心が持てないから、詳しくは知らないが、はっきりしていることは、この頭とその幹部たちが、不正に他者の寿命を受け取って、長生きしている者だということだ。

     俺は踵を返して、向かいのビルの屋上に登り、煙草を吸いながら奴等を確認する。
    眼鏡を外して、じっと見つめると窓も分厚いカーテンも超えて、部屋の様子が見える。黒に灰色の混じった煙幕が漂う室内は、異様だ。
     人‥として見えるが、アレらはもうほとんど人ではない。
     金を貸しては、法外な利息を付け、返せない者たちから寿命を得て生きながらえている。
    本当なら、とっくに地獄の住人たちだ。

    「何の用だ、宇髄」
    《生存確認の電話》
    ポケットから出したスマホを耳に当てると、笑った同僚の声が聞こえた。
    「まだ生きている。じゃあな」
    《ちょっと待て。用件もあるから!》
    お前はせっかちなんだよ‥とぶつくさと宇髄が言う。スマホを肩で挟みながら、咥えていた煙草を携帯灰皿で揉み消し、宇髄に話の先を促す。
    「で、用件は?」
    《迷子の捜索依頼》
    「管轄外だ」
    《そう言うなよ。これも大事だ。今、そっちで動けるのはお前だけなんだよ、冨岡》
    「宇髄もこちらに来ればいい」
    《そうしたいんだけどね‥門が危なくてね》
    よく耳を澄ますと、背後で銃撃戦が勃発しているようだ。
    「何があった?」
    自然と俺の眉間に皺が寄る。
    門が危ない?
    アイツがいるだろ。
    地獄最強と呼ばれる門番が。
    「ケルベロスはどうした?」
    《不死川か?ヤラレタ。三等分に斬られてな》
    宇髄の話によると、敵の急襲に対して、ただ一頭で門を死守すべく立ちはだかっていたが、宇髄たちが到着して早々に、特殊な刃で頭を其々斬られた。
     本体である「壱」の頭と身体は、救い出して今接合中。魂だけの存在である「弐」と「参」は、「壱」がなんとか姿を留めさせたところまでは確認したが、その後行方不明に。

    《それで、伊黒が言うには、そっちへ逃したんじゃないかって‥アッブねぇなぁ!!吹き飛べ、雑魚ども!!》
    宇髄の背後で、ド派手な爆発音がした。
    「それで、ケルベロスの分身たちの特徴は?」
    《わからん》
    「は?」
    《この状況で確認しきれてないの。わかるだろ?冨岡の死神としての勘と経験値で探してくれ》
    文句を言い返す前に、通話は切れた。

     最近、地獄を狙う輩がいる。
    俺の目的である、不正に寿命を伸ばした者たち‥‥『不生者』も、この連中に関係していると考えられていた。
     だから、死神がわざわざ人のフリして人間界へ赴き、狩りをする。俺たちは、身体から抜け出た魂を導くのが本来の仕事だが、不生者の魂はほぼ蝕まれていて、身体から出てこられない。
     つまり、身体から強制的に切り離さないといけない。特殊な武器によって、自然に魂が抜け出た状態にさせる‥物理的に。
     そのためには、死神も人と同じ身体を持つ必要がある。だが、擬似人間体の製作には時間がかかるし、上手く使いこなすまでにも鍛錬がいる。だから、成り手が少ない。俺はその一人というわけだ。
     ちなみに、寿命を差し出した方の魂も穴あき状態になってしまい、天国にも地獄にも行けずに、閻魔殿中を漂っている。不生者から抜き出した魂から、元の持ち主の魂を集めて、戻さないといけないからだ。

     今回、門を襲撃した者達は、こちらで何か企んでいるのかもしれない。
     擬似人間体に適合して動ける者は、それなりに実力のある者だ。それらを地獄に留め置いて、人間界を手薄にする‥
    これは、考えすぎだろうか‥?

     今回負傷したケルベロス‥俺は、ほとんど口をきいたことが無い。
     名前が、不死川実弥であることは知っている。
    しかし、アイツは俺の名前を知っているにも関わらず、「おい、死神ィ」「澄ました死神さんよォ」などと、決して名前で呼ばない。
     だから、俺も絶対に名前で呼ばない。
    「二人ともくだらん」‥そう同僚の伊黒には言われるが、俺だけ折れるなど、腹が立つじゃないか。
     その、ケルベロスが重症‥何をやっているんだ。姿が見えなくても、腹の立つヤツだ。

     もう一本煙草に火を点けたところで、雨が降ってきた。屋上の扉の庇の下へと移る。扉に寄りかかり、ふっと息を吐く。
     ケルベロスの分身達‥確か、何か首輪にぶら下げてたよな‥?
     なんだっけ?とその姿を思い出そうとするが、人型の時も、ケルベロス姿の時も、俺は極力視界に入れない、入らないようにしていて、全体像が思い出せない。
     ただ、アイツの目は印象的だ。ずっと睨まれていたからだろう。

    《もしもーし、冨岡さん》
    「‥‥聞こえている」
    今度は、医療局に勤める胡蝶からの入電だ。
    なぜだ、煙草を吸うと電話がかかってくる‥そんなギミックでもあるのか‥
    《聞いてます?》
    「聞いている。俺の指が焦げる前に、手短に頼む」
    《冨岡さん、煙草は体に悪いですよ》
    向こうはスピーカーで話しているのか、甘露寺の声も聞こえる。
    「そんなに吸ってない」
    《擬似体と言っても、大事に扱ってくださいね。台数少ないのですから。さて、本題ですが‥》
    また胡蝶が話し始めた。

     この擬似人間体は、【非常によくできていて】、五感はもちろん、疲労も感じるし、睡眠欲、食欲などもある。そして、痛覚があり、刃物で切れば血は出るし、打撲も骨折もする。通常の人間より治りは早いが、怪我をすればそれなりに痛い。
     なぜ、痛覚まであるのかというと、それはリミッターだそうだ。痛覚は、死への恐怖へと通ずる。痛覚が耐え切れない程になった場合、我々は自動的に擬似体から離れるようになっている。
    俺は未経験だが、擬似体の心臓が止まると、抜け出るのが困難になるらしい。

    《ほんとうに、聞いてます?》
    「聞いている」
    俺は、煙草を壁に押しつけて火を消した。指が焦げる寸前だ。
     雨足が強くなってきた。扉を潜り、ビル内に戻る。階段の一番上は、蛍光灯が切れかけてて、外よりも陰鬱な雰囲気だった。
    《じゃあ、後で送った資料読んでくださいね。それから‥不死川さんの接合完了しましたよ。まだ意識は戻りませんけど》
    「そうか‥分身の情報はあるか?」
    《どんな姿になっているかは、わからないのですが、おそらく冨岡さんの近辺にいる可能性は高いと思います》
    「俺を座標にしたということか?」
    《はい、そうだと思います。‥‥不死川さん、ご自身の右腕と左脚を切って、分身たちの依代にしたようなのです》
    なんとまあ、とんでもないことをするヤツだ。自分の手足を依代にしたということは、分身を見つけ出さないと、手足が戻らない‥ということになる。
    「探し出さないとな‥」
    呟いた言葉に、胡蝶がうなずいている気配がした。
    「そうだ‥ケルベロスの写真を‥」
    《胡蝶!甘露寺!急患だ!》
    《宇髄さん!‥蜜璃ちゃん、手を貸してあげて!冨岡さん、それでは、また連絡します》
    ガチャッと通話が切れた。
     門での戦闘が激しいようだ。俺も戻って加勢したいと思うが、不生者の対処ができる者が他にいない。
     俺は、いつもみんなと離れているな‥一人が嫌いなわけではないが‥
     改めて煙草を吸おうかと思うが止めて、さっき消した吸殻を携帯灰皿に押し込んで、階段を下りた。

     雨を避けながら着いた駅のロッカーを開け、ビジネスバッグを取り出すと、ファスナーを開けて、中をさっと確認する。
    ノートパソコンの他、幾つかの武器が入っている。人間の世界では、刀だの短銃だのおおっぴらに持てない。出番が来るまでは、この中に入れておく。
     万が一、人間がこの武器を手にしても、鞘から刀を抜くことはできないし、引き金を引くこともできない。俺の【気】に反応するようになっている。

     駅構内にあるカフェで、コーヒーを飲みながらパソコンを開く。さっき、胡蝶が話していた資料が届いている。
     開いた途端、気持ちが落ち込む。『出張延長について』とのタイトル‥俺は一体いつ地獄に帰れるんだ?‥‥もういい、明日見よう。
     ネットを開き、門の一件について読む。
    敵襲は退けたようだ。しかし、添えられた写真では、門の辺りは酷い壊れようだ。
     幾つか読むうちに、ケルベロスの写真が出てきた。まじまじと見る。そうか、こんな顔だったっけ‥やはり首に札を下げている。
    ‥‥ん?ということは‥ポケットから拾った仔犬のぬいぐるみを取り出して、もう一回よく見る。
    これか?
    この可愛いのが、分身??
    しかし、気配が無さすぎる。何か条件が足りないのかわからないが‥
     ふと、周りの視線が自分に集まっていると気がついた。そちらの方に目を向けると、小さなさざなみのような声を上げながら、女性たちが目を逸らしていく。よくわからない事象だな‥と思い、またポケットにぬいぐるみをしまった。
     明日、このぬいぐるみを拾った辺りを探索してみよう。

     さて、〈アポイント〉まで、まだ時間はあるが、事後を思うと夕飯を取る気にもならない。
     カフェを出て、一駅隣の書店まで足を伸ばす。
    随分と古参の書店は、中央が吹き抜けの四階建て。ゆっくりと階段を上がり、四階奥の海外文学の棚へ。人が多くても、この書店の中では話し声もほとんど聞こえず、ゆるい人と人の距離感が心地いい。
     適当に抜き出して、パラパラとめくる。
    白黒の写真が載っている。
    百年ほど昔に出版された恋愛物語だ。
     俺にはピンと来ない話で、そもそも恋愛には疎いし、こんな仕事してたら、恋愛から更に縁遠くなっても仕方ない。
     ぱたんと本を閉じて、棚に戻す。
    腕時計をちらりと見ると半端な時刻だったが、早めに移動しようと思う。

     店内の所々にある背の高い窓が、鏡のように自分の姿を映し出す。俺の後ろを通る、初老の男性の姿も映る。生きた人は、映るのだ。
     ほら、その背後の女性は映らない。彼女はどこから来たのか。俺が気がついたことを、彼女に気がつかれないように、そっとその場を離れる。
    あとで、他の死神に連絡だ。

     雨足は変わらない。件のビルの入口に並ぶ郵便受けの様子も変わらない。人の出入りは、不思議なほど無い。
     ビジネスバッグから、サイレンサー付きの銃を取り出して、左胸脇のホルスターへ。
     折り畳み型の刀は、使用できる形態にして専用ベルトで腰に下げる。インカムのスイッチを入れつつ、黒い手袋をはめた。ノートパソコンだけが残ったバッグは、郵便受けの一番上へ置いておく。
    《冨岡、少し早いな》
    「村田、今夜もか?働きすぎじゃないか?」
    《それは、お互いさまだろ。門であの騒ぎじゃ、こちらに出てこれる人数も限られるからな》
    村田は同期だ。死神として、今夜俺が狩る不生者の魂を回収する。
    「すごい騒ぎだったようだな‥」
    《あぁ、不死川がやられるとは思わなかったよ》
    不死川‥ケルベロスの名前が出て、少しだけ胸が騒つく。
    「‥あ、話変わるんだけど‥」
    俺は、さっき書店で見かけた女性について村田へ伝えた。あとは、ちゃんとしてくれるだろう。
    《了解。‥で、そろそろか?》
    「そうだな」
    俺は、眼鏡を外して胸ポケットへ収める。
    一度、目を閉じて開く。
     薄暗く、汚れ切ったビルのガラス扉に、燃えるような青い目の死神が映っていた。
    「参る」
    《OK》

     死神の眼は、生者と死者を見分ける。
     ビルの階段を駆け上がっていくと、徐々に凶悪そうな男たちが増えてきた。俺は、生者は気を失わせ、不生者は銃で仕留めていく。
     人間には見えない、赤黒い煙を上げて、倒れた身体から抜け出た魂は、逝き場所がわからず、天井辺りを漂う。
     何しやがるだの、ふざけるななど、物騒な台詞が飛び交うが、耳を傾けることはしない。
    《最上階、ヤバいぐらいにドス黒いぞ》
    「承知」
    まったく人の身体とは不便だ。
    階を上がるごとに息を整えなければならない。
    何人の気を失わせ、何体の魂を抜き出したかなど数えたりしない。

    「この死神が‥!」
    最上階の、所謂ラスボス的な男が、憎々しげに言う。
    「その通り。説明は要らないな」
    背後から切り掛かってくる部下その1を撃ち抜き、銃を左手に持ちかえ、刀を抜く。
    この後は、刀の方が早い。
    部屋の天井は案外高く、刀を振り回しても支障はない。
     支障があるとすれば、それは臭いだ。
    魂が抜けた後の身体は、急速に朽ちていく。
    無理に伸ばした寿命に身体はついていかない。
    朽ちていく際の腐敗臭には、毎度反吐を吐きたくなる。
     疲れる、危険、悪臭がつきまとう‥これでは、不生者対応する人材が増えないわけだ。
     じゃあ、なぜ俺はこんな仕事を続けてるんだ?と考えても「他にやる奴がいない」「やめるタイミングを失した」くらいしか思いつかない。
     考え事をしながらも、刀を振るって不生者たちの魂を狩っていく。
     不生者が想定より多い。やはりこちらでも何か起きている。
    《おかしい‥事前情報より人数が多いぞ‥》
    「そのようだな」
    《おい、配置をBに変更!あと、周囲の警戒!誰かが監視している可能性があるぞ!》
    村田の緊張した声がインカムから聞こえる。後方支援の的確さは、村田が1番だと俺は思っている。
    「もうすぐ終わるぞ‥」
    《了解》

    「(答えないと思うが、)お前たちの背後にいるものは誰だ?」
    「シラナイネ‥」
    「そうか」
    最後に残したラスボス的な男に、俺は一応問う。しかし、回答は無い。今までもそうだった。
    不生者になる方法など、人間は通常は知らない。
    【なら、誰がそれを教えたのか?】
    俺は、静かに刀を振るって、目の前の男の首を斬った。
    倒れた姿は、ただの自然死をした老人だ。

    「村田!終わった。窓割るぞ。怪しい奴はいないか?」
    《近くにはいないようだ。遠方から見ているかもな‥取り敢えず回収作業に入る。オイ!準備いいか?!》
    村田が他の死神たちに確認する声を聞いてから、俺は回し蹴りで、手近な窓を割っていく。
    ガチャン!ガチャン!ガチャン!!
    《来るぞ!》
    窓を開けると、死神の気配が入ってきた。それを嗅ぎつけ、逝き先がわかった魂たちが下の階から一斉に登ってくる。
     俺は窓から空を見上げ、鎖鎌を持って、魂を回収していく死神達をちらりと見てから、ハンカチで口と鼻を押さえて階段を下りていく。

     途中の階で気を失っている男たちは、舞い上がる魂の起こす風と腐敗臭にも目を覚ますことなく、呻いている。それらを跨いで避け、俺は一階まで一気に駆け降りた。
     ふっと息を吐いてから、郵便受けの上に置いておいたバッグに、銃と刀を放り込む。刀は勝手に折り畳まれる。インカムも外し、手袋と一緒にバッグへ。
    それから、眼鏡をかけて、ビルを後にした。
     今夜は、雨が証拠隠滅をしてくれる。
    まあ、騒ぎになるのは明日のことだろう。
     村田は近くには怪しい奴はいないと言っていたが、必ずどこかで見ていたはずだ。帰り道を狙われるかと警戒するが、特に何も起こらず、俺は宿泊先のビジネスホテルへと戻った。

     今回の出張の宿は、小さなビジネスホテルで、朝ごはんが美味しい。ベッドメイキングもピシリとやってくれるし、クリーニングも完璧で、狭い部屋とベッドだが、おおむね満足だ。
    「疲れた‥」
    ベッドに座る前に、スーツとワイシャツを脱いでクリーニングの袋に入れる。
     ポケットに入れておいたスマホや仔犬のぬいぐるみはサイドテーブルに置いておく。
     シャワーを浴びることにして、ついでだから、仔犬のぬいぐるみも洗ってやろうと思う。道路で拾ったから、汚れているかもしれないし。
    よくわからないが、洗っても乾かせば大丈夫だろう?

     バスタブの足元にぬいぐるみを転がしておいて、まず自分の髪や体をしっかり洗う。
     それから、ボディソープを手で泡立てて、ぬいぐるみをもしゃもしゃと洗うのだが、心なしか、仔犬の頬が赤くなったような‥濡れたから色移りでもしたかなと思う。
     シャワーから出て、パジャマを着る。俺は、寝るときはパジャマを着ないと眠りにくいんだ。
     ドライヤーを使って、自分の髪を乾かした後、仔犬も乾かしてやる。タオルで大まかに水気を拭ってドライヤーを当てる。そのうち、毛がふんわりとしてきて、仔犬も気持ちよさそうに見えてくる。
    「よしよし、きれいになったな‥」
    仔犬の頭を撫でた後、なんだか可愛らしく見えて、おでこのあたりにちゅっとしてしまった。
    いい歳した男が恥ずかしいな‥とも思うが、ここには俺しかいないから、まあ‥いいだろう。

     その後、スマホの画面が光ったので、取り上げると村田からのメッセージだった。
     不生者の魂をすべて地獄へ連れていったこと。書店にいた女性について、こちらも無事に魂を連れていったとある。やはり、村田に頼んだよかったな‥
     それから、俺が地獄に戻ったら、一緒に飲もうとあって、単純にうれしかった。早く出張を終えたい‥とこういう時に思う。村田に、お礼と俺も楽しみにしていると返信した。
     酷く疲れていたが、簡単に任務完了を関係各職に送信する。その際、想定外の不生者がいたこと、黒幕が監視していた可能性についても記載した。
    「あーやっと終わった」
    そのまま、スマホを枕元に放って、ベッドに潜り込む。きれいになった仔犬も枕元へ。
    それから、あっという間に俺は眠ってしまった。


     翌日はオフと決めていたが、朝一の入電で起こされた。秋の中頃の日の出は、午前6時過ぎ。その日の出より早い時間に、煉獄の声は‥少々ツライ。いいヤツなのはわかってるいるけど‥
     起き上がらないまま応答すると、朝から元気な‥頭に響く声で挨拶をされる。
    《おはよう!!冨岡!元気か?!》
    「‥‥‥おはよう‥元気かだと‥?まあ、元気だろう‥とても‥ねむいの‥だが‥」
    《君は、変わらず寝起きが悪いな!》
    「そうかも‥」
    電話の向こうで、煉獄が快活に笑っている。
    《不死川が、目を覚ましたぞ》
    「そうか‥」
    俺は寝返りを打ちながら、返事をする。
    《冨岡、ほかの返事はないのか?》
    「‥ねむいんだよ‥番犬が目を覚ましてよかったじゃないか」
    俺の返事の後、一呼吸してから、煉獄が問う。
    《君、不死川に何かしたか?》
    「‥‥は?」
    《いや、不死川が目を開けるなり『あの死神ィ、許さねェ!』と、顔を赤くして叫んだからな》
    煉獄が、番犬のモノマネをしながら言う。
    さすがに、俺は起き上がった。顔の前に垂れ下がってきた髪をかきあげつつ、ため息をついた。
    「まったく、心当たりはない」
    《そうか!》
    「そうだ」
    煉獄は承知したらしく、その後は門の一件や諸々の対応などをひとしきり話して、《冨岡、帰ってきたら飲もう。それから、そちらも不穏な感じがする。くれぐれも無理はするな》と言って、電話を終えた。

     朝寝を決めようと思っていたが、すっかり目が覚めたので、そのまま起きて朝ごはんを食べに行く。
     スーツケースを開けて、宇髄と伊黒が見立ててくれた服に袖を通す。こちらに来る前、服を買いに行こうとした俺に2人が同行してくれた。
    「お前、顔はいいのに、地味が過ぎるんだよ」と宇髄は言ったが、大柄で元から華やかなアイツの選ぶ服は、俺には少し派手だ。そこのところを伊黒が取り持ってくれて、なかなか気に入った服を揃えることができたと思う。
     財布とスマホとライター、それと仔犬のぬいぐるみをポケットに入れた。昨日、これを拾った場所に行ってみるつもりだ。もう一つの分身が見つかるかもしれない。

     このホテルのレストランで出される朝食は、和食か洋食が選べて、和食には日替わりで塩鮭や鯖の味醂干し、鯵の開きなどがつき、焼きたての熱々が美味しい。俺はいつも和食ばかり選んでしまう。
     今朝は、鯖の塩焼きで、箸を入れると皮がパリッと音を立てて、湯気を上げる身を解して口に入れるとじゅわっとした旨味が広がった。炊き立てのご飯と青菜と油揚げの味噌汁‥心ゆくまで満足のいく朝ごはんをいただき、食後に熱い茶をゆっくり飲んでから、レストランを後にする。

     ぷらぷらと歩きながら、ポケットの仔犬を拾った場所に向かう。
     雨上がりの朝は気持ちがいい。水溜りの反射が眩しい。暑すぎず、寒さにはまだ遠くて、なんともいい季節だ。
     歩いているうちに、少し遠くで、サイレンが複数聞こえた。昨日のあのビルに向かうのかもしれない。

     目的地について、周りを見渡す。
    狭い路地だから、何か落ちていたらわかるだろうと思うが、特にケルベロスの分身らしきものは落ちていない。ポケットに手を入れて、仔犬のぬいぐるみを触るが、こちらもやはり何の気配も感じられない。
     うーん、俺を座標にしたのなら、この近辺に形跡があるはずなのだが‥
    見落としたかな?と思って、もう一度塀の上や道路の脇を見ても何もいない。
     これは、誰かに持っていかれた可能性があるな‥と思う。スマホを手にして、ちょっと迷って俺は伊黒にかけた。
    《何の用だ。お前、今日オフだろ》
    もしもしも何もなく、伊黒は話し始めるが、いつものことなので、俺は気にしない。
    「ケルベロスの分身のことで、頼みたいことがあるんだ」
    《‥‥ふん。言ってみろ》
    俺は、分身らしき仔犬のぬいぐるみを一体拾ったこと、今、それを拾った場所に来ているが、もう一体が見つからないこと。勘だが、誰かに持っていかれている気がすること‥などを説明した。
    《今、手元にある犬のぬいぐるみの写真を送れ》
    「わかった」
    俺は仔犬をポケットから出し、手のひらに乗せて写真を撮り、伊黒に送った。
    《解析して、また連絡する》
    「よろしく頼む」
    《‥‥ところで、お前、不死川に何をした?》
    煉獄と同じことを伊黒が訊いてきた。
    「何もしてない。煉獄も言っていたが、なんなんだそれ」
    距離も離れているのに、一体俺が何をするって言うんだ。
    《今朝も、お前のこと許さん‥的なことを言っていたぞ。死神は、夢魔にでもなれるのか?》
    「なれないな。それ、後遺症じゃないのか?」
    伊黒と会話しながら、不意に気配が近づいたと感じた。すっと体を避けて相手を見やる。認識のない男だった。
     死神の目を使うわけにはいかないが、気配がおかしい。不生者のようだ。初めて向こうから接触してきた。
    「何かご用ですか?」
    通話は切らずに、男に声をかけてみる。察しのいい伊黒なら、気がついてくれるだろう。
    「‥‥‥‥」
    返事はなく、腕を俺に向かって伸ばしてきたから、それを避けて、俺は走り出した。
     この路地は人通りが無さ過ぎる。他に潜んでいたら、面倒だ。今は丸腰だが、体術で伸すことはできる。しかし、俺が人間離れしたことを知られるのはよくないと思う。
    「伊黒!不生者が接触してきたようだ」
    《‥‥冨岡の顔が割れたか?》
    「わからない‥目は使っていない。もしかすると、ただの物取りかもしれない」
    眼鏡をかけている間は、死神の目は使わないから、地獄から誰か来ていても俺の目には写らないし、無論、死者や不生者の判断もつかない。
    側から見たら、俺はただの人間の男だろう。
    《お前の位置情報から、不生者情報を割り出す。
    ‥‥ああ、甘露寺、よいところに‥‥》
    通話が遠くなり、伊黒が通りかかった甘露寺に指示する声と、甘露寺の驚いたような声、走り出す足音などが、かすかに聞こえた。
    《情報は後で送るから、お前はもうそこを離れろ。間違っても、深追いするなよ》
    「承知した」
    《‥‥今、正直そちらへ送れる人員がいない。無理はダメだ。わかっているだろうな。その疑似体を破損するなよ。胡蝶が、破損分は給料天引きにするそうだ》
    「‥‥ひどくないか、それ‥‥」
    疑似体破損分を給料天引きって、胡蝶ならやりかねない。いや、すでにやっているのだろう。だから、こちらに来たがるヤツがいなくなるんだ‥
    《まあ、そういうこと‥だ‥不死川!‥おい!》
    《よォ、死神ィ》
    「‥‥ケルベロスか、もう動き回れるのか?」
    《けっ!義手と義足を絡繰小僧が用意してくれたからな》
    そうか、起き上がって動き回り、俺に悪態をつくくらいに回復したのなら、まあいいじゃないかと思う。
    「‥‥で、何の用だ?俺は伊黒と話をしていたのだが」
    話をしながら、人通りの多い方へと足を向ける。背後を気にするが、先程の男は追ってきていないようだ。
    《‥‥かわいくねェ物言いしやがって‥‥まあ、俺の分身を探させて‥手間かけさせて、わるかっ‥》
    《伊黒さぁん!!大変よ!さっき、冨岡さんに接触した人物は、やっぱり不生者だったわ!》
    ケルベロスの話を遮るように、甘露寺の声が飛び込んできた。伊黒の《甘露寺!落ち着いてくれ!》という声と《テメェ!まだ俺が話してるだろうが!》というケルベロスの声が混ざる。
    《冨岡さん!》
    俺はスマホを少し耳から離した。
    「甘露寺、もう聞こえた。あと、少し声のボリューム落としてくれ」
    《きゃあ!ごめんなさい。さっき言ったとおり、冨岡さんに接触した人物は不生者よ。範囲を拡げて調べたら、彼だけじゃないの。その街に、少しずつ不生者が集まってきているわ》
    甘露寺の話に、電話の向こう側がざわつき始めたようだ。
    《おかしいのよ。いつもは不生者であることを隠そうとするから、調査に手間取るのに、逆にこちらに存在を知らせるみたい》
    伊黒が通話をスピーカーに切り替えたようで、色々な声が聞こえてきた。
    《その街に、死神以外に動けるヤツはいねェのか?》
    苛立ったようなケルベロスの声だ。
    《いません。今、疑似体で人間界にいるのは、冨岡さんだけです》
    「‥‥じゃあ、狙いは俺だな」
    通話の向こう側が、一瞬静まる。
    《‥‥ふっざけんなよ‥!今すぐ戻ってきやがれェ!!》
    「断る。戻れるわけないだろ。お前の分身もまだ見つかっていない」
    《‥‥バカヤロゥ!!》
    なぜ、コイツがこんなに苛立つのか。
    《不死川、うるさい!下がれ!!‥‥‥確かに狙いはお前かもしれないが、情報が少ない。勝手に動くな。待機だ。陽が沈む前に宿へ戻れ。常時武器携帯。わかったな?》
    伊黒の冷静な声に、俺はうなずく。
     また連絡する‥と告げられて、通話は終了した。
     不穏な話に似合わず、足を止めた駅前の広場は、人々でさんざめき、とても明るかった。

     オープンテラスのカフェでカフェオレを飲むながら、スマホのメッセージ画面を開く。宇髄や煉獄、村田から届いている。もう騒ぎを知ったのだろう。心配をしてくれていて、不謹慎かもしれないが、うれしかった。
     しかし、宇髄のメッセージにあった『番犬が荒れていて、手がつけられない』の一文に困惑してしまう。なぜ、アイツがそんなに怒るのか?
    ‥‥もしかして、俺はそれほど嫌われていない?心配はされる程度に。

     夕刻になる前に、通りにいたキッチンカーで夕ご飯用に弁当を購入し、ホテルへと戻った。
     部屋に入りテレビをつけると、件のビルで多数の死者が出たとニュースになっていた。入居者がほぼその筋ばかりだったので、抗争ではないのか‥と解説がされている。
     俺はカーテンを閉めて、バッグから銃を取り出し手入れをする。刀も同じく丁寧に拭う。
    今夜は、おそらく何も無いと思う反面、気が張る。

     アジア風の目玉焼きが乗った丼風弁当は美味かった。一人黙々と食べる。そもそも、俺は物を食べながら話すのが苦手だ。
     食べ終わり、片付けをして、シャワーを浴びる。スマホやパソコンが通知を知らせることもなく、夜は更けていく。
     枕元に置いた仔犬のぬいぐるみが、不安そうに見えて、手の平に乗せて頭を撫でた。そして、ケルベロスのことを思い出した。
     初めて会ったのは、死神の職に就いた時。
    向こうから、やってきた。アイツも門番に就いたばかりだった。だから、「初めまして」と挨拶したら、そうだ、急に怒り出して‥それから、今まで変わらずのあの態度だ。
    俺の何が悪かったんだろう?
    何回か考えて、周りにも聞いてみたが、よくわからなかった‥

     真夜中にスマホが鳴る。ベッドに腰掛けて、通話をオンにする。
    《もしもし、生きてるか?》
    「宇髄、何かあったのか?」
    《ん?生存確認》
    いつもと変わらない軽口で、宇髄が答える。
    「ちゃんと生きてる。‥‥ところで、アイツどうした?」
    《番犬くん?大変よ‥なんでお前を戻さないんだって、食って掛かって手がつけられなかったんだから。最終的に、怒った胡蝶が麻酔銃打ち込んで、今檻の中》
    冗談まじりに言っているが、胡蝶が怒ったのは、本当のことだろうな。麻酔銃は‥判断がつかない。
    「そうか‥なんでそんなに怒ってるんだろう‥」
    《冨岡、わかんない?》
    「うん」
    宇髄が小さく笑っている。
    《いやだねぇ。片方が不器用で、片方が鈍過ぎるって》
    「そう思うなら、ちゃんと理由教えてくれ」
    《ダメ。そんな野暮天、俺様がするかよ》
    宇髄がくくく‥と楽しそうに笑っている。
    《‥‥で、こっから真面目な話な》
    「‥‥わかった」
    《不生者が、集まっているのはマジな話だった。2桁じゃねえ、3桁越えの集まりだ。しかも、老若男女問わずだ》
    「目的は?」
    《わからねえ。こっそり村田がそっち渡って調べているんだが‥ただ、指示があって集まっているようだってさ》
    「村田、単独か?」
    おそらく、上は許可していない。宇髄のこの連絡も非公式だろう。
    《まあな。上の指示を待ってられないってさ》
    「罰則喰らうぞ」
    《減給されなきゃいいって、言ってたぜ》
    「無茶しなければいいけど」
    コンコンコン、窓ガラスを叩く音がする。
    ん?と思い、眼鏡を外して見ると、窓の向こうに村田がいた。俺の目が捉えているとわかったようで、すぅーっと窓を擦り抜けて入ってきた。
    「宇髄、村田が来た」
    俺はスマホをスピーカーに切り替える。
    「よ!夜分遅くに、すまんな」
    「いいよ。村田‥大丈夫か?」
    《村田、お疲れさん。何か掴めたか?》
    「俺は大丈夫だよ。宇髄さん、お疲れ様です。幾つかわかりました」

     サイドテーブルの椅子に座った村田が、一枚のハガキを取り出して、渡してきた。そこには、ハロウィンイベントへの招待と書いてある。
    「何人かの不生者のところを確認したら、みんなそのハガキを持っていたんだ」
    《イベントの招待状ね‥不生者とは言っても普通に生活しているヤツらも多いから、急に集まれって言っても動けないヤツもいるだろう》
    「ええ。このハガキが届いたからって言えば、周囲の人達にも怪しまれにくくなりますから」
    俺は、ハガキをゆっくりと読んだ。さっき村田が写真データを宇髄と煉獄に送ったから、全員で同じ物を見ている。
    《冨岡、宇髄、村田さん、遅くなった!》
    煉獄の声が入ってきた。宇髄の部屋に来たらしい。
    「煉獄くん、お疲れさま」
    村田がにこっと挨拶を返す。
    「村田‥この景品って、なんだ?」
    ハガキには会場でゲームを行うとして、その景品のシルエット写真が載っているが、その姿は、枕元で座っている仔犬のぬいぐるみに似ている。
    「ああ、それはこれ」
    村田に見せてもらった写真には、ガラスケースに収められた、首に「弐」と札を下げた、「参」にそっくりな仔犬のぬいぐるみだった。

    つづく‥か‥??
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