本丸に顕現したら二振り目だったのは構わないが一振り目の長谷部が主に甘え上手すぎるだろう!?俺はこの本丸にとって二振り目のへし切長谷部だ。
当然に習合か鍛結、あるいは解刀されるものだと思ったが、主は俺を二振り目として本丸に置くことを選んだ。
一振り目とはわずかな顕現の時間差とはいえ、身に余る光栄であるとは思う。
だが、しかし。これはどうだ。
「主♡」
己と同じとは思えぬ甘い声で主を呼んで、腰を屈めて上目遣いに主に目配せするのはへし切長谷部。
そう、一振り目のへし切長谷部だ。
主は執務中でお忙しいというのに、手を止めて一振り目の方を向く。
「長谷部、撫でてもいい?」
「はい♡もちろんです♡」
一振り目がうれしそうに頬を緩めて頭を差し出すと、主も鈍色の髪を撫でながら目を細める。
出来上がったばかりの政府への報告書に主の捺印を求めようとしていた俺は、その様子をただ見ているだけだ。
一振り目が主にする甘え方が、俺には出来ない。
同じ刀なのに変な話だが、個体差があるのだと薬研藤四郎は言っていた。
なるほど確かに演練で会う他所の本丸の刀は見慣れた刀と見た目は同じだが、立ち振る舞いや言葉遣いがどこか違っていることがある。
「報告書は終わったのか?」
「ああ」
主に撫でられ終わった一振り目が首を傾げて俺の方を向く。
「お前はよく働くな」
一振り目の手が俺の手を掴む。なんのことはない俺と同じ大きさの、同じ白手袋に包まれた手だ。
その手の指がするりと指の間に入り込んで、手を組むようにして俺の手をギュッと握った。
にこりと笑った同じ紫をしているはずの瞳に、引き込まれるかと思った。
屈託のない笑顔を浮かべる彼を、可愛いと思わずにはいられなかった。
白手袋越しに伝わる体温が心地良い。ゆっくりとその手を握り返した俺は、いつのまにか目の前の刀と微笑み合っていた。