半ロナワンライ「春」「兄貴ならさ…もしデートするとしたらどこに行く?」
弟がそんなことを言い出したのは、彼が高校に入学して少しあと、5月のゴールデンウィーク前のことだった。
「そうじゃな〜兄ちゃんなら……」
まずは海辺にある話題のカジュアルめなカフェ。次に景色でも楽しみつつ買い物でもして、日が暮れる頃にダイニングバーを予約しておく。三軒目はもう少しお酒が飲める店で、そのあとは……。といういつものデートプランは高校生にはまだ早い。
「もしお前くらいの歳だったら、遊園地か映画館じゃろうか」
夏になればお祭りなんかも定番かもしれんな。と、付け加えると幼さを残す口元に笑顔が浮かぶ。
「どっちも楽しそうで迷うな〜」
「まだ親しくない子なら、映画館で共通の話題を見つけるのもありじゃ。その子が好きそうな映画があればなおいいぞ」
「うーん…あいつの好きな映画ってなんだろう…?」
「その子の好きなものは?」
「お母さんとセロリ……と、俺」
これは意外にも自信満々のようだ。と、思ったところで彼は首をかしげて続けた。
「……の、格好悪いところ?」
いったいその子は、大丈夫なのか?
「どんな子なんじゃ……?」
同級生で友達のダンピール。ロナルドというあだ名をくれた子。吸対志望で俺より勉強はできるけど、一緒にバカやってくれるやつ。
目を輝かせて楽しそうに生き生きと語る弟を目にすると、そんなおかしなヤツやめとけという気持ちは自然と消えていった。
「11時までには絶対に帰ってくるんじゃぞ。日が暮れたら吸血鬼にも気をつけてな」
「うん!行ってきます!」
5月の連休初日、高校生なりにめいっぱいめかしこんで、弟はデートにでかけていった。
「ただいま!映画館と遊園地も行ってきた!」
「おかえり〜どうじゃった!ちゅーくらいできたか?」
案外早く帰ってきた弟にからかい半分で声をかけてみると、彼は耳まで真っ赤にして目を逸らした。
「ヒデオにも春がきたようじゃな〜」
季節は芽吹きの春が終わり、青葉繁る夏へと続いていく。年若い弟の濃い桃色の頬にヒヨシはそっと目を細めた。