(起きたらお土産話聞かせてねー?) ◆
「ねぇ九郎先生ー、実は冷蔵庫におやつがあるんだけど気付いて――」
「すぅ……」
「…………寝てる」
僕の口から小さく零れた言葉がそれだった。
……先にお風呂を済ませていた恋人は、僕がお風呂に入っている間ソファに腰かけたまま夢の世界へと向かっていたらしい。
(お風呂にはもう入ったんだし……まだ寝かせてあげてもいいよねー?)
「うぅ……ん……」
いまのはもしかして返事だろうか。本当にそうでもそうでなくても、あまりにもタイミングが良過ぎてくすりと笑ってしまった。
(……先に夜のおやつ食べちゃおうかな)
冷蔵庫に眠っている美味しいお宝を求めて僕はソファの横を離れて台所へ向かった。
◆
(起きてたら反応もいま見れたんだけどねー)
ソファで眠り続けている九郎先生の隣に座り、もともと好きな方ではあったけど最近は買うことが増えてきたような気がする抹茶スイーツを堪能する。本日ご用意したのは抹茶プリンです。
(……すぐそばに抹茶スイーツがあっても流石に起きないか)
視線を隣の九郎先生に向ける。眠っていても九郎先生は綺麗でこのまま眺め続けているというのも悪くないかもしれない。
それにしても、九郎先生が布団に入らずに寝落ちしているとは……移動中に仮眠とかはあるのかもしれないけど、僕の家にいる九郎先生は布団に入り部屋の明かりを消して寝る時間まで僕と日常会話とかしてるから、すぐ隣にいるのに「北村さん、北村さん」って僕を呼んでくれるあの声が聞こえてこないのは不思議に感じる。
数時間前にしてくれた話を聞いてた感じだと、今日あった収録のお仕事が大変だったみたいだもんねー。そんな1日の中でも、一度鎌倉に帰ってからお泊まりセットを持って僕の家に泊まりに来てくれるのはかなり大変なんじゃないかと心配してしまうし、九郎先生のことだから「このくらいへっちゃらです」とか僕の目を見てまっすぐに答えてきそうだ。……いまは目閉じてるけど。
「…………」
(髪は乾かしてあったけど念の為……)
立ち上がって向こうにある椅子にかけてあったある物を手に取り再びソファへ戻る。すやすやと眠っている九郎先生を起こさないように、風邪を引かないように、薄緑の優しい色をしたブランケットを九郎先生の肩にそっとかけてあげた。
「う…………」
いまの行動で起こしてしまっただろうかと一瞬どきりとした、けど起きる気配は……なさそう。
「ん……まっちゃぱふぇ……をひとつ……」
「…………ふっ、ふふふっ」
いまは夢の世界にあるカフェとかにいるのだろうか。その九郎先生の寝言を聞いて、夢の中でも幸せそうだねって微笑ましくなる。
(――お疲れ様、九郎先生)
明日は一緒に抹茶パフェでも食べに行こうかと考えながら、九郎先生がこちらに戻ってくるまで僕は隣にいることにした。
◆