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    hn314

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    hn314

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    遠征四十八時間前に一泊二日のかけおち温泉旅行に出かける太刀川と二宮の話が見たいよね。

    かけおちの話 その日、太刀川さんはやけにおおきな鞄を持ってきていた。
     黒色のボストンバッグはおれも知っているブランドのもので、アウトドアや旅行用として有名だった。実際に太刀川さんが三門市立大学のゼミ合宿から帰ってきたとき、おなじ鞄を肩にかけて作戦室にあらわれたのを覚えている。中からはおれたちへのおみやげやジョーカーが足りないトランプや食べかけのお菓子が出てきて、太刀川さんのジャケットのポケットの中みたいにめちゃめちゃだった。大切なものにかぎって雑にポケットに放り込む人なのだ。鞄にも四次元ポケットみたいにいろいろ詰まっているのが察せられたけど、破れたり壊れたりはしていなかったから頑丈だし物もいいんだろう。ただおおきいから普段使いには向かなくて、太刀川さんが持ってきたのもその一度きりだった。
    「太刀川さん、鞄の中になに入ってるんすか?」
     だからおれが聞いたのは単純な好奇心からだ。遠征前の最後のチーム練習。このあと遠征当日までの四十八時間は自由行動で、防衛任務も待機任務も入っていない。トリオン消費を抑えるためだ。おれたちもそれがわかっているから体を休ませるようにしていて、みんなそれぞれ家でくつろいだり寝たりといつもの休日よりのんびり過ごしている。学校も特別休暇扱いになっているから出席する必要はなくて、わざわざ大荷物をもって作戦室にくる理由なんてないのだ。これから小旅行に行くならともかく。
     太刀川さんは俺の言葉に「ん?」と顔をあげた。柚宇さんと唯我を見送ったあと。鞄をテーブルにのせて中をゴソゴソと漁ったまま、向かい合ってソファに座るおれへ手を止めずに言う。
    「なにって、着替えの服とか歯ブラシとかスマホの充電器とかだぞ」
    「そのわりには鞄が重そうですけど」
    「餅が入ってるからなー。あとはお菓子とか、読みかけの漫画とか、国近から借りてるゲーム機とか。あれだな、ヒツジュヒンってやつだ!」
     ヒツジュヒン。
     後者のものが本当に必要かはともかく、子どもが手当たり次第にリュックサックに詰め込んだようなラインナップだな、と思った。まるでいまから家出するみたいに。おれがそのまま伝えると、太刀川さんは「あー近いかもな」とうなずきながら言う。
    「家出ってわけじゃないが、これから二宮とかけおちをするんだよ」
    「…………え?」
    「加古がいい旅館を見つけてくれてさ。ちょうどいい機会だからかけおちがてらふたりで温泉旅行に行こうと思って」
    「は!?」
    「だから荷物もでかくなっちまったんだよな」
    「あの、太刀川さん……」
    「なんだ。どうした出水?」
    「かけおちの言葉の意味をわかって言ってます?」
    「あれだろ、付き合ってるやつがするトーヒコウだろ」
     我ながら失礼な質問だったけど、ちゃんとかけおちがなにかわかっているらしい。
     かけおち。
     太刀川さんと二宮さんが付き合っているのはおれも知っている。よく子どもみたいな喧嘩をしているふたりがどうして恋人になったのかはわからないし、きっと本人たちもわかってないんだろう。恋人になるにはきっかけは必要だけど理由なんていらないのだ──とねえちゃんから借りた少女漫画でも主人公が言っていたし。ただふたりの交際が上手くいっているのはおれもわかっていて、些細なやりとりからお互いへ向ける愛情と信頼がのぞくようになった。おれもだてにふたりの部下と師匠をやっているわけじゃないのだ。
     だからこそおれは太刀川さんの言葉になにも言えなかった。
     A級一位隊長とB級一位隊長としての太刀川さんと二宮さんならともかく。恋人同士の太刀川さんと二宮さんなら、かけおちしてもおかしくないってわかっているから。
    「出水を連れていってやれなくて悪いけど、おみやげに温泉まんじゅうを買ってくるから」
     黙ったおれをどう誤解したのか、太刀川さんがなだめるように口にした。普通に温泉旅行に行くようなセリフ。やっぱり太刀川さんはかけおちや逃避行の意味を誤解していて、単にカップル旅行くらいのノリで言ってるんだろうか?
     おれがどう受け止めるか悩んでいると、旅行鞄のファスナーを閉めた太刀川さんが、「そうだ」と良いことを思いついたように口にする。
    「出水に預けとくわ」
     そう言って太刀川さんがおれの手に握らせたのは、命より重くて家の鍵より軽いトリガーホルダーだった。おれが口をひらくより先に太刀川さんが鞄を持って立ち上がる。
    「じゃあそろそろ二宮との待ち合わせの時間だから行くわ。おまえもはやく帰ってしっかり休めよ」
     最後に太刀川さんはおれの頭をぐしゃぐしゃにかき混ぜて作戦室から出て行った。
     コンビニにでも買い出しに行くような気軽さで。これから逃亡するなんて思えないのんきな顔で告げてから。

     そうやって太刀川さんはおれの前から消えて、二宮さんとかけおち旅行に出かけたのだった。
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    hn314

    PROGRESS太刀川の隣の部屋に住む杉山さん視点の話。このあと防衛任務中の太刀川くんと二宮くんに助けられる杉山さんの話が上手いこといけば5月の新刊に収録されるはずです。
    ⚠️CPは太刀川と二宮の左右なしです。
    第三者視点の話 三門市はのどかで穏やかな街だ。暖かな気候がそうさせるのか朗らかで人のいい県民性で、犯罪発生率は全国でもトップクラスに低い。夜の繁華街を歩いても絡んでくるのはせいぜい不良くらい。反社会的な団体や犯行グループや半グレ的な組織がいる話は聞かなくて、オレオレ詐欺かと思ったら本当にただの間違い電話だった──という笑い話が実際にあるくらいだ(ちなみに俺の母親の実体験だ)。道を歩いていても目にする看板は『警戒区域注意』『優先順位はスマホの通知音より警報音』といったボーダー関連の標語ばかりで、『事故多発』『ひったくり注意』『自転車盗難発生』といった不穏なものは見かけない。だから俺が住んでいる築十二年の木造アパート(1K・一階・洋室八畳・風呂トイレ付き)もオートロックじゃないし監視カメラもついていないが空き巣に入られたことは一度もなくて、鍵をかけずに部屋を出てもなにも盗まれないくらいだ──というのはさすがに俺の実体験ではない。俺の右隣の部屋に住む男子大学生から聞いた話だ。
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    hn314

    PROGRESS特別訓練でくそつよトリオン兵と戦う太刀川と二宮の話(途中)。無事に2月の新刊に収録されてほしいです。
    ※ボーダー幹部をしている20歳組の未来捏造ネタです。
    原稿の進捗 最近入隊したばかりの隊員から加古さんは太刀川さんと二宮さんのどちらとお付き合いしていたんですかって聞かれたのよ。と、加古ちゃんがオレにぼやいたのは同年代飲み会の最中だった。当の太刀川と二宮はふたりで家に帰ったあとで、来馬も呼び出しを受けて鈴鳴支部に戻ったあとで、冷えたつまみとぬるくなった酒のグラスを片手に居酒屋の六人用の席でふたりでサシ飲みをしていたときだ。
    「C級隊員の子たちのあいだで、私と太刀川くんと二宮くんが昔は三角関係だったって噂が流れているみたいなのよねえ」
     向かい合って座る加古ちゃんが内容とはうらはらに他人事のように言う。オレは日本酒を飲みながらおもわずうめいた。予想していたより酒が強かったからじゃなくて、つい最近オレも訓練のあとに隊員から聞かれていたからだ。ただそのとき質問されたのは「加古さんの手料理を取り合って堤さんたちが喧嘩したって噂は本当なんですか?」という、元ネタに尾鰭背びれがついて羽まで生えたようなものだったのだが。もちろん加古ちゃんはオレたちの中の誰とも付き合ったことがないし、誰かと三角関係になったこともないし、手料理──たぶんチャーハンだろう──を避けるために争った記憶はあれど奪い合ったこともない。根も葉もない噂だが、こういった話が広まる理由はオレにも想像がついた。三十手前のオレたちとは違ってまだ十代の隊員は恋愛話に興味があるだろうし、なにより加古ちゃんも太刀川も二宮も目立つのだ。
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    hn314

    DONE恋愛ゲームが上手い太刀川とこれから攻略される二宮の話※左右なしです。
    誕生日おめでとう話 つぎのデートの行き先を水族館にするか遊園地にするか買い物にするかで迷う。手堅いのは水族館だし、この前行ったときにも喜んでくれた場所だが、もう四回目のデートだからそろそろ違うとこにした方がいい気がするんだよな。いつもおなじとこばっか行ってるとマンネリってやつになるし。でも賑やかな場所は好きじゃなさそうだし、遊園地は避けといた方が無難だろう。そういやもうすぐ誕生日だから、プレゼントの下見も兼ねて買い物に誘ってみるのもアリかもしれない。意外と服装に気を使うタイプだし。よし。今回は買い物を選んでみるか。
     俺がポチポチとボタンを操作して『ショッピング』の選択肢を選ぶと、予想は当たったみたいで『そうね。私も欲しい服があるし』とセリフが出て画面いっぱいにハートマークが飛んだ。主人公のパラメーターを最大まで上げないと出会えないキャラだし、やっと会えてからも会話できるようになるまで時間がかかったが、攻略ルートに入ってからは結構好感度が上がりやすい。ツンデレ? じゃない、クーデレ? が売りのキャラだって国近も言っていたし、ガードの硬さからのデレが魅力なんだろう。この調子でいけば来週の誕生日には告白できそうだな。
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