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    hn314

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    hn314

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    二宮に片想いしている男友達(モブ)視点の話※太刀川と二宮の左右なし。

    第三者視点の話 ボーダー隊員といっても一枚岩じゃなくて、いろんな隊員がいるし仲が悪い奴らもいるらしい。
    「お、二宮! やっと見つけたぜ。このまえの必修の講義で配られたレジュメ貸してくれよ」
    「貸すわけねえだろ。おまえに見せると毎回汚されんだよ」
    「今度は餅を食べながら見ないから。頼む。あれがないとつぎの小テストがやばいんだって」
    「貸してもどうせやばいだろ……おい、勝手に俺の隣に座るな」
     昼休みのカフェ。三門市立大学に複数ある食堂はどこも混んでいて、なんとか空きを見つけたテラス寄りの席で二宮と昼食を取っていたときだった。俺の向かいに座る二宮が太刀川から声をかけられて体ごと顔を背ける。そんな二宮の反応を気にせずに俺たちのテーブルに座った太刀川が、「ほらこれやるから」とジャケットのポケットからお菓子を取り出した。ひと口サイズのチョコレート。この季節になると売り出されるきなこ餅味で、チョコの中には餅に似た食感のグミが入っている。大学生協のテープが貼ってあるからここに来る前に購買で買ってきたんだろう。
    「いらねえ」と突き返す二宮に「一度食ってみろ。マジで美味いから」と太刀川が突き返して、「おまえの味覚なんて信じられるかよ」と二宮がまた突き返す。子どもみたいな言い争いをするふたりのあいだをチョコがサッカーボールみたいに行き交う。「加古も美味いって言ってたぜ」と太刀川が無理やりチョコを二宮のジャケットのポケットに捩じ込もうとしたとき、俺はたぶんはじめて太刀川本人へ向けて名前を呼んだ。
    「太刀川、その講義のレジュメなら俺も持ってるからよかったら貸すよ。もうタブレットにデータを保存してあるし、今度大学に来たときに返してくれたらいいから」
    「マジか! 助かる!」
    「おまえまでこいつを甘やかすな。調子に乗ってくだらない頼みごとばっかされるぞ」
     二宮から信じられないものを見るような目を向けられる。俺が甘やかしているのは太刀川じゃなくて二宮なんだけどな。ただ二宮は俺の気持ちにはまったく気づいていないんだろう。
     通学用のトートバッグを漁ってちょうど持ち歩いていたレジュメを渡すと、太刀川は「ありがとうございます」と深々と頭を下げて両手で受け取った。小学生が校長先生から賞状を受け取るような姿。微笑ましくなっておもわず笑う。
     太刀川、憎めない奴なんだよな。俺は太刀川をよく知らないし二宮はなぜか太刀川を嫌っているけど、傍から見ているかぎり悪い奴ではけしてない。ボーダーのA級1位で隊員のトップらしいのに、偉ぶったところや威圧感もないし。ただそれは二宮にも言えることで、俺の高校時代からの友人は、ボーダーで太刀川のつぎに強い隊員らしいけどそんなふるまいはいっさいなかった。
     太刀川と二宮。三門市立大学が誇る有名人にして、なぜか犬猿の仲らしいふたりの共通点といえばそれくらいだろう。
    「つぎの講義の前には返すわ。えっと、名前は--」
     太刀川がちらりとレジュメを見る。プリントの端に俺の名前が書いてあるはずだけど読めなかったのかもしれない。
    「俺はイガラシだよ。漢数字の五十に嵐って書いて五十嵐」
    「イガラシ……あ、この名前五十嵐って読むのか!」
    「常識だろ。それよりおまえ大学の同期生の名前を忘れるなよ。失礼だろ」
    「俺は気にしてないから。太刀川ともいままで話す機会がなかったし」
     太刀川とは学年と学部こそおなじだけど学科が違うから接点はない。三門市立大学は市外からの進学者が減ってはいるとはいえマンモス校だ。二宮や来馬といるときにたまに顔を合わせるくらいの俺の名前を知らなくても当然だろう。
     だから本当に気にしていなかったのだが、太刀川は申し訳なく思ったみたいで真面目に謝罪された。普段から人の名前を忘れたり読み間違えたりしているのかもしれない。
    「そうだ、これやるよ。俺のカンシャとシャザイの気持ちを受け取ってくれ」
     言いながら太刀川がポケットから二宮にもあげたチョコを取り出す。俺に右手で渡してから立ち上がって、今度はその手を「二宮も食えよな」と二宮の左肩にポンっと置いた。よくある仕草だった。男の友人同士なら気軽にやるだろう。俺も二宮以外の友人にはやったことがあるしされたこともある。ただ俺がひっかかったのは、二宮の肩から離れていく太刀川の指がやけに名残り惜しそうだったこと。そして太刀川が隣に座っただけで嫌がっていた二宮が、太刀川をちらりと横目で睨んだだけで当たり前のように受け入れていることだった。まるですでに何度も──もっと深いところまで触られているように。
    「──二宮、太刀川のことが好きなのか?」
    「は?」
     太刀川の背中がカフェから冬の並木道へ消える。凍えるように寄り添う樹々から視線を戻してたずねると、ランチの続きを再開していた二宮がわかりやすく眉を寄せた。前に来馬から聞いたことはあったものの本当に太刀川が嫌いらしい。いまのは俺の勘違いで、二宮を意識しすぎるあまり深読みしてしまっただけなんだろう。
     俺が慌てて謝るより先に二宮が言う。
    「くだらないこと聞くなよ」
    「だよな。わるいわるい」
     話はそこであっさり終わって、話題はつぎの飲み会の店選びに変わった。ひさしぶりに高校時代の同級生で集まって飲もう、と俺からみんなに提案したのだ。あまり飲み会には参加しない二宮も「おまえが幹事をやるなら」とうなずいてくれて、俺は自分でも恥ずかしくなるくらい張り切っていた。
     だから気づけなかったのだ。「太刀川が好きなのか?」という俺の質問を、二宮はけして否定しなかったのを。太刀川がテーブルに残していったチョコを、言葉とはうらはらに大切そうにポケットにしまったのを。そしてチョコに触れる二宮の指先が、二宮の肩から離れていく太刀川の指とおなじくらい優しかったことを。
     いまならあれがなんだったのかわかる。太刀川に触れられて嫌がらなかった理由すらも。でもこのときの俺は春に浮かれて芽吹いた花よりも舞い上がっていて、二宮のわかりやすい態度をすべて見落としていたのだ。
     なぜなら俺は二宮を好きで、人は恋をすると誰しも目が眩んだように盲目になるのだから。

     * * *

     二宮は高校のころから有名だった。
     ボーダーにスカウトされて入隊したからでも、当時のA級1位部隊に所属していたからでもない。むしろボーダーに入る前から目立っていて、成績も優秀で運動神経も抜群でそのうえ顔もスタイルも良いという、人気アイドルが学園モノドラマで演じそうな役を地で行っていたのだ。実際に他校の女子生徒にまでモテていて、俺も星女の子から告白されている姿を目撃したことがある。本人は恋人を作る気はないようで断ってばかりいたものの、彼女のいないクラスメイトの何人かは本気で羨ましがっていた。そんな完璧な奴なのにハッキリした物言いでまわりを驚かせたりして、ようは個性溢れる六頴館の生徒の中でもちょっと他にはない雰囲気をもっていたのだ。
     実を言えば、当時の俺は二宮が苦手だった。悪い奴ではないけど表情に乏しくて感情が読めない。そのわりに思っていることをストレートに口にするから、どう返せばいいのかわからなくなる。俺が苦手意識を抱いているのは二宮も察していたんだろう。クラスこそおなじだけどお互いに関わる機会はなくて、授業やホームルームをのぞけば会話らしい会話をしたことがなかった。
     だからはじめて二宮に話しかけられたのは本格的な受験シーズンに入ってから。高校三年生の秋。放課後の教室で最後の学園祭の準備をしていたときだった。

    「いたっ」
     おもわず口から漏れた声は大きかった。けれど教室中に響くほどではなくて、すぐに音楽室から聞こえる吹奏楽部の不協和音にかき消される。俺は人さし指に浮かんだ赤い玉を見つめながら、ここに岩永か瀧山がいたらバンソウコウを借りれたんだけどな──と、第一次侵攻以来親から救急セットを持たされている友人の顔を思い浮かべた。ふたりとも用事があってついさっき家に帰ったばかりだ。ひとりで作業をはじめた途端にカッターで指を切るなんてやらかした。そう俺が反省しながら反対の手でポケットティッシュを探していると、いきなり頭の上に声が降ってきた。
    「おい」
     顔をあげると二宮が立っていた。たしか俺がいま座っている窓際の席とは反対側の席に座っていたはずだ。「二宮?」と俺が名前を呼ぶ前に「貸せ」と遮られる。カッターが必要なのかと思って刃をしまってから差し出すと、「そっちじゃねえよ」と指を切った左手を掴まれた。
    「血が出てるだろ。保健室に行けよ」
    「軽く指の皮膚を切っただけだからそこまでじゃないって。別に痛くないし、待っていれば血も止まるだろ」
     強がりでもなんでもなく、刃が軽く皮膚をかすっただけで見た目ほど痛くはなかった。ティッシュをあてて押さえていたらすぐに出血も止まるはずだ。ただ俺が鞄の中からポケットティッシュを見つける前に、二宮から「使え」とハンカチを差し出された。丁寧にアイロンがかけられてきちんと折り畳まれている。皺ひとつないハンカチを受け取りながら、まるで二宮みたいだなとふと思った。
    「それでしばらく傷口を押さえてろ。無理に指を動かすなよ」
    「あ、ああ。わるい、ありがと。今度新しいのを買って返すよ」
    「気にするな」
     二宮らしいそっけない返事。会話はそれで終わって、二宮も元いた席に戻るのだと思っていた。でも俺の前から立ち去る気配はない。
     教室には学園祭で出す模擬店の準備のために数人が残っている。二宮は来馬と一緒に予算の割り振りの最終調整をしているはずだった。店の飾り付けを担当している俺は画用紙をハート型に切りながら、あっちはあっちで忙しそうだなとふたりの様子を見るともなしに見ていたのだ。その拍子に手が滑ってカッターが指を掠めてしまったのだが、これは俺がもともと不器用なだけだろう。
    「……二宮?」
     二宮は俺が切り抜いたハートをじっと見つめている。さすがに不審に思ってたずねると、二宮から内面の読めない声で「五十嵐」と名前を呼ばれた。
    「おまえ不器用だな」
     自覚はあるもののまさかここまではっきり言われるとは思わなかった。おもわず黙ると「貸せ」とカッターを奪われる。そのまま二宮は俺の前の席の椅子に座って、俺の机で画用紙を切りはじめた。二宮も器用な印象はなかったけど、カッターの扱いに慣れているし意外とうまい。俺が伝えると「ボーダーで刃物の使い方の講習を受けた」とさらりと返された。それ以上は聞けずに見守っているあいだに綺麗なハートが出来あがる。
    「残りは何枚だ?」
    「さっき岩永と瀧山が作っていったぶんもあるから、あと二十枚くらいかな。予備用にもうすこし作るつもりではいるけど」
    「俺がやる」
    「は?」
    「おまえは代わりに来馬を手伝え」
    「え。いや、いやいやいや。手伝えって言われても……」
    「来馬ひとりじゃさすがに無理だろ」
    「あーそっちじゃなくて、勝手に俺と二宮が作業の担当を代わるのは……」
     いまいち話が噛み合わない。二宮は俺と作業を代わってくれるつもりらしいけど、そもそも勝手に担当を変えてもいいんだろうか?
     教室を見渡す。来馬は不安そうに俺たちをうかがっているけど、他に残っている女子グループはこちらに背を向けてクラスTシャツのデザインで盛り上がっていた。別に俺と二宮が作業を代わったところでバレないし、バレたところで叱られはしないはずだ。事情を話せばわかってもらえるだろうし。でも自分が引き受けた役割を人にやらせるのは気がひけて、俺が決めきれずにいると二宮が言う。
    「不器用な奴が店の飾りを作る必要はないだろ。おまえは数式の計算が速いから、あっちで来馬と一緒に予算を割り振った方がいい」
     たしかに苦手なものを無理に頑張るよりは自分の長所を活かした方がいい。二宮のイメージ通り合理的な意見だった。いや、その前に。俺が数学が得意なのを知っていたのに驚いていると、「それに」と二宮が続ける。
    「それに、いちいち怪我をしていたら危ないだろ」
     二宮は俺の左手の人さし指を見ながら言う。いまは二宮から借りたハンカチに包まれていて、とっくに血が止まっているだろうそこを。
     怪我ってほど大げさなものじゃないだろ、と笑い飛ばそうとして、二宮は俺を心配してくれているんだと気がついた。俺と作業を代ろうとしたのも合理的な理由からじゃない。もっと人間味に溢れた単純で純粋な感情。俺を気遣うという優しさからだった。
     二宮って、こういう奴なんだな。
     抱いていた印象とまったく違う。
     俺がじっと見つめていると、視線を感じたのか二宮が顔をあげた。間近で向かい合った二宮の顔は男の俺が嫉妬する気が湧かないくらい整っている。でもこちらをうかがうまなざしは子どもみたいに無防備だ。
     その目がまっすぐに俺へ──俺だけに向けられる。
     子どものころに集めていたビー玉みたいな目。
     綺麗だなと見惚れていると、「どうした」と不思議そうに聞かれた。
    「あ、いや。なんでもない。俺も来馬を手伝ってくるよ」
     慌てて立ち上がってさっきまで二宮の座っていた席へ向かう。事情を察してくれたらしい来馬はこころよく俺を迎えたあと、「よかったら使ってね」と私物のバンソウコウをくれた。ありがたく貰って指に巻きながら、俺は二宮にお礼を言い忘れていたことに気がついた。今日はやらかしてばかりだ。
     振り返って二宮をうかがうと真剣な面持ちで飾りを切っていた。代理の仕事とはいえ手を抜く気はないんだろう。まっすぐに伸びた背筋を眺めながら、冬の朝みたいな男だなと思った。凍えそうなくらい寒くて、吐いた息すらピンと張りつめているような朝。でも身をすくませる厳しさだけじゃない。冷たい空気が清々しくて、空が澄んでいるぶん朝陽の美しさが際立つ。そんな朝だ。
     翌日。二宮にお礼の言葉と共に新しいハンカチを渡すと、受け取ったあとに怪我の様子を聞かれた。怪我って言うほどじゃないんだよなと──心の中で思いながらも順調に治ってきているのを伝えると、「ならいい」と短く返される。端的なもの言い。昨日までの俺なら怒っているか呆れているんだと誤解していたもの。ただ答える横顔には冬に差す一筋の光のような暖かさがあった。それがほっと安心したからだと気がついたとき、俺はこれから二宮を好きになるんだろうなと予感したのだ。

     まさかそれから二年以上も片想いしているとは、さすがに俺も予想していなかったけど。

     * * *

    「二宮、酒に弱いんだな」
     俺の向かいに座った岩永がぽつりとつぶやく。
     視線につられて俺の右隣を見ると、二宮がソファに背を預けて眠っていた。目を伏せて俯いた横顔はいつもと変わらずに整っていて、状況を知らなければ熟睡しているようには見えないだろう。かすかに漏れ聞こえる寝息は飼い主の膝の上でくつろぐ猫みたいに気持ちよさそうだ。まだしばらく目が覚める気配はなさそうだし、いま座っている端の席から奥の方へ移動させた方がいいかもしれない。そう頭ではわかっているものの、二宮に触れるのは気が引けて起こせずにいるままだった。
    「……俺も二宮が酔ったところをはじめて見たよ。あまり飲み会に参加しないし、来てもいつもはカクテル系しか飲まないから」
    「まーテキーラなんて普段は飲まないよな。オレも今日はじめて飲んだし」
    「俺もだよ。意外と美味かったけど」
     岩永がモスコミュールを飲みながら返して、俺もジントニックを飲みながらうなずく。
     居酒屋の半個室。高校時代からの男友達六人が集まった飲み会は、ひとりが言い出した「テキーラショットをやってみようぜ」という提案でそうそうに酔っ払いの集まりへと変わっていた。それぞれ個性的に酒に酔うなか理性が生き残っているのは俺と岩永くらいだろう。そのなかでもいちばん最初に潰れたのが二宮で、テキーラを一杯飲んだだけですぐに寝落ちしていた。ここがデザイナーズ系の居酒屋で、座席のソファが焼き立てのパンみたいに柔らかかったのが眠気を誘ったのかもしれない。ときどき身じろいだりトイレに行ったりはしているから、完全に酔い潰れてはいないんだろうけど。
    「この状態だとひとりで帰れないだろうし、二宮だけでも先に家に送って行った方がいいよな」
     店が閉まるまで時間はあるけど、このままずっと寝かせておくわけにはいかないだろう。明日も一限目から講義が入っていたはずだ。しかし俺の言葉に斜め向かいの席に座る瀧山が「大丈夫じゃね」と口にした。
    「さっきトイレで二宮に会ったときに聞いたけど、友人に迎えを頼んだらしいぞ。ボーダーの任務が終わったあとにここまで来てくれるって」
    「ボーダー隊員ってことは来馬か? でも今夜は急にボーダーの用事が入ったから、飲み会には来られないって聞いたけど」
    「いや、来馬じゃないっぽい。うちの大学にいる隊員で五十嵐も岩永も知ってる奴だって話してたぜ。俺の知らない奴みたいだから、うちの学部じゃなくて五十嵐たちの学部にいる隊員なんじゃないか」
    「あーツツミか」
     俺と瀧山のやりとりを聞いていた岩永が納得したように言う。俺の知らない名前だった。岩永も二宮とは他の学部だけど、友人や先輩の紹介で知り合ったのかもしれない。
    「お、有名人?」と瀧山から聞かれた岩永が「めちゃめちゃいい奴でよく二宮と加古さんが揉めてるのを仲裁してる」と答えて、俺と瀧山が「あー……」とだいたい察する。二宮と加古さんは並ぶとそのまま絵画のモデルになれそうなくらいお似合いなのに、いざ会話をするとうちの甥っ子と姪っ子でもしないような言い争いをはじめるのだ。ふたりを宥められるのは来馬しかいないと思っていたけど、さすがボーダー。人材が豊富だ。
    「……あれ、でも三門市立大学の二年生で他にもボーダー隊員がいたよな。たしか二宮のあとにA級1位になった隊員で、テレビで特集されてたこともある」
    「おれもテレビで見たことがあるわ。たしかボーダーでいちばん強い隊員だろ」
     俺たちの話し声で目が覚めたのか、テーブルの反対側の席で寝落ちしかけていた國沢と本多も会話に加わる。ふたりとも家庭の事情で進学せずに就職しているから、二宮も気を使って大学の話はしていなかったんだろう。
    「ああ、太刀川は──」
     俺が二宮と太刀川の関係を説明しようとしたところで、テーブルに置かれていた岩永のスマホが震えた。メッセージじゃなくて電話の着信。岩永が小声で通話に出たあと「おまえが二宮を迎えにくるのか?」と驚いたように言う。噂のツツミからだろう。ただ駅の改札を出た途端に迷ったようで、「いまどこだ? 駅? え、迷子になったって大丈夫か!?」と焦った様子で聞き返す。伝える道案内の内容が子どもに説明するような言い方なのにひっかかりながらも、相手もどうやら無事に店の中に入れたみたいで通話を切った。岩永がスマホをジャケットのポケットにしまうのを見届けてから、「二宮と太刀川は──」と俺がふたたび口を開こうとしたとき。その太刀川の声が頭の上に降ってきた。
    「わるい、遅くなった。二宮いる?」
    「太刀川!?」
     驚いて叫ぶような声が出てしまった。半個室の仕切りのカーテンを開けて顔をのぞかせた太刀川が、「お、五十嵐もいるのか」と一昨日覚えたばかりの俺の名前を呼んだ。岩永が手招いて太刀川を席に迎え入れながら言う。
    「駅の目の前にある店なのに迷子になったって言うから心配しただろ。無事に辿り着いてよかったよ」
    「なははは。俺、地図を読むの苦手なんだよな~」
    「つーかよくオレたちの席がわかったな。これから迎えに行こうと思ってたのに」
    「店の人に男ばっかの大学生の飲み会って言ったらすぐにこの席に案内されたぜ。他に男だけの客がいなかったんだろうな」
    「たしかに平日の夜だから人も少ないしな」
     ふたりは仲がいいのか親しげに話している。俺が呆気に取られていると「般教の講義を俺と太刀川と二宮とツツミで一緒に受けてるんだよ」と岩永から説明された。そういう繋がりがあるのか。しかし二宮が太刀川とおなじ講義を取ったんだなと不思議に思っていると、岩永も「二宮もツツミじゃなくておまえを呼んだんだな」と不思議そうに口にした。たしかにそっちの方が意外だ。二宮は太刀川を嫌っているからこういう場面で頼ることはなさそうなのに。
     けれど太刀川は「俺も二宮も帰る方向が一緒だしな」とさらりと返して、岩永も「そっか。ふたりとも引っ越したんだっけ」と納得している。二宮が警戒区域沿いのマンションで一人暮らしをはじめたのは俺も聞いていたけど、もしかしたら太刀川と家が近いのかもしれない。お互いにボーダー隊員だから本部基地に通いやすい場所に住んでいるんだろう。
    「うわっ、二宮めちゃめちゃ酔ってるな」
     二宮の傍まで来た太刀川が「おもしれー」とその場に屈み込む。太刀川はしばらく二宮の寝顔を眺めたあと、「こいつずっと寝たままなのか?」と俺にたずねた。「何度か起きてはいるみたいだけど」と飲み会中の様子を思い出しながら答えると、太刀川が軽いノリで口にする。
    「じゃあ起こしてみるか」
     そう言って太刀川が二宮の右肩に手を置いたとき、力任せに揺さぶって無理やり起こすのだと思っていた。太刀川は悪い奴ではないけど大雑把で、酔っ払い相手だろうが遠慮のないタイプに見えたのだ。
    「──二宮」
     しかし太刀川はそっと肩に手をのせたあと、優しい声で名前を呼んだ。
    「ほら、起きろ。家に帰るぞ」
     親が子どもを起こすような仕草で二宮の肩をさする。太刀川が根気よく名前を呼んでいると、「太刀川?」と二宮がつぶやいた。俺の聞いたことのない声で。二宮は何度か目を瞬かせたあと、子どもがぐずるように──甘えるように太刀川の手の下で身じろぐ。太刀川が二宮の耳もとに顔を寄せてなにかを囁くと、二宮は普段の態度が嘘みたいに大人しく従った。
     ふたりの親密な雰囲気に見てはいけないものを見てしまったような気持ちになって、慌てて顔を逸らしてジントニックの氷が溶けるのを眺める。そうやって俺が隣を意識しないようにしているあいだに太刀川と二宮は帰る準備が出来たらしい。
    「二宮が起きてるうちに連れて帰るわ」
    「おう。気をつけて帰れよ」
    「わざわざ迎えに来てくれてありがとな。二宮を任せたわ」
     太刀川がいつもと変わらないのんびりとした口調で言って、岩永と瀧山もくだけた調子で返す。さっきの太刀川と二宮の空気に気まずさを覚えたのは間近で見ていた俺だけだったんだろう。まだ二宮の体温が残るそこに目を向けると、店に来るときに肩からかけていた鞄が置かれたままだった。
    「ちょっと二宮の鞄を渡してくるよ」
     慌てて言い残して鞄を片手に店から出る。おなじ色のコートを羽織ったふたりのうしろ姿はすぐに見つかった。二宮はまた寝てしまったのか、太刀川が背負うようにして歩いている。
    「太刀川!」
     俺が呼びかけると太刀川は立ち止まって振り返った。
    「二宮の鞄を忘れてたから届けに来たよ。財布やスマホだけじゃなくてトリガーとかも入ってるから、持ち帰らないとまずいだろ」
    「マジか! トリガーを忘れるとシマツショを書かされるからやばいんだよ。命拾いしたぜ」
     太刀川がボーダーの裏事情をあっさりと口にする。二宮が起きていたら叱りそうだけど、なにも言わないということはやっぱり寝ているのかもしれない。太刀川の肩に伏せる二宮の横顔をうかがうと、さっきより心地よさそうに寝息を立てていた。この状態の二宮を連れて電車で帰るのは難しいだろう。
    「駅の裏にタクシー乗り場があるから俺も一緒に着いてくよ。寝落ちしてる二宮を電車に乗せられないだろ」
    「お、助かる。駅までの行き方もわからなかったからまた迷うとこだったぜ」
     言葉の深刻さとはうらはらに太刀川がのんきに言う。太刀川が歩き出したのにあわせて俺もゆっくりとふたりの右隣を歩く。
     三門市でそこそこ大きな繁華街。平日の夜だから人は少なくて、居酒屋の呼び込みも暇そうにスマホをいじっていた。夜空には細く削ぎ落とされた三日月が浮かんでいて、道の隅に寄せられた落ち葉を秋の抜け殻のように照らしている。近くに並木道があるはずだから、そこから飛ばされてきたんだろう。酔いを覚ますように吹く風が二宮の髪を撫でていった。
    「二宮って、いつも酔うとすぐに寝るのか?」
     太刀川は二宮を起こし慣れているみたいだし、ボーダーでの飲み会のときはよく寝落ちしているのかもしれない。そう思ってたずねると、「俺もはじめて見たぞ」と意外な言葉が返ってきた。
    「え、そうなのか?」
    「二宮が酔っ払うこと自体あまりないんだよな。俺が飲み会に誘っても来ないし、来たら来たで難しい名前のジュースみたいなのしか飲まねえし」
    「シャンディガフとか」
    「そうそう。まあ俺の方がいつも先に酔っちまうってのもあるんだろうけど……でも二宮がこんなに酔ったのははじめてだと思うぜ」
    「知らなかったよ。二宮に悪いことしたな」
    「気にすることないだろ。二宮も今日の飲み会を楽しみにしてたっぽいし、こいつもはしゃいでたんじゃないか? いつも仏頂面で固い奴だから、たまに友達との飲み会でハメをはずすくらいいいだろ」
     俺もおこぼれで面白いもんを見られたしな、と太刀川が笑う。それを言うならおなじボーダー隊員の太刀川の方がよほど二宮のいろんな姿を見ていそうだ。さっきの光景を思い出しながら口にすると、「いや」と太刀川が否定した。
    「二宮とはボーダーで一緒だし、昔はよくランク戦……じゃない、訓練とかで敵と味方にわかれて戦ったりしたけど。こいつプライドが高いからこういう姿は見せてくれなかったんだよ」
    「ああ」
    「こいつ俺に負けてばっかなのに、でも弱いところは見せたがらないんだよな」
     俺はボーダーの訓練は知らないけど二宮の性格から想像はつく。二宮はたとえ負けてかっこ悪い姿を晒したとしても、人に弱さを見せるのだけは嫌がるのだ。その相手がボーダーでの順位が上の太刀川ならなおさらだろう。
     だから太刀川がふたたび口を開いたとき、「二宮って面白い奴だよな~」と続けるんだと思っていた。太刀川は二宮のわかりやすい言動を面白がっていて、よく本人に直接伝えては怒らせていたからだ。でも俺の予想とは違って、太刀川は目を細めて優しい声でつぶやいた。
    「──そういうとこ、かわいいよな」
     その瞬間、頭によぎったのは太刀川が寝ている二宮へかけたときの優しい声だった。二宮を揺り起こすときの優しい仕草で、カフェで二宮の肩から離れていくときの名残惜しそうな指先で。そして太刀川からもらったチョコに触れるときの二宮の優しい手つきや、大切そうにポケットにしまうときの横顔や。俺がいままで見落としていたものがすべてひとつに結びついた。

     優しいんじゃなくて、愛おしそうなのだ。

    「二宮のことが好きなんだろ?」
     投げかけられた言葉にハッと意識を戻す。いつのまにか太刀川が俺を見つめていた。俺のまだ知らない俺ごと見透かすようなまなざしだった。その目に釣られて正直にうなずくと、「お、やっぱりか」と太刀川が天気をあてた子どもみたいに自慢げに言う。
    「そんな気がしたんだよ。おまえわかりやすいし」
    「あ……ああ。よく言われるよ」
    「まあ二宮は気づいてないっぽいけど。こいつ周りの奴のことはお節介なくらい気にするのに、自分のことになると鈍いんだよな~」
    「……でも。でも俺だけじゃなくて、太刀川も二宮を好きなんだろう?」
    「おう」
     勇気を振り絞って聞いた質問に太刀川はあっさりうなずいた。不意打ちで切り込んだ刀を真正面からはじかれたような気分だった。
     話しているうちに狭い道路から拓けた駅裏に出る。駅舎から漏れる人工的な灯りがスポットライトとなって俺たちを浮かび上がらせる。隠していたものをすべて明るみにするような眩しい光だった。一瞬、ビルの隙間風が俺たちのあいだを駆け抜けた。俺がおもわず立ち止まると、前を歩いていた太刀川も足を止めて振り返って告げた。
    「だからわるいけど、二宮は俺のだから。このままもらってくよ」
     ふっと笑う太刀川の不敵な顔に魅入られる。風はとっくに止んだのに近づけそうになくて、一歩でも踏み入ったら身を斬られそうだった。太刀川はおおらかでのんきで憎めない奴で。ボーダー隊員のトップなのに親しみやすい朗らかさがあって。でもいまは近寄るのをためらわせる鋭さがあった。
     春の嵐みたいな男だ。
     暖かくて陽気な嵐。けれどけしてなまやさしくはない。油断して気やすく挑むと、一瞬で身を吹き飛ばされる激しさがある。
     そう頭によぎったのは、枯れ葉が風に乗って桜の花びらのように舞い上がったからかもしれない。いま俺たちがいるここだけが春みたいだった。
     俺が立ち尽くしていると、太刀川が「お」と俺の背後へ目を向けた。空車のタクシーが通ったのか手をあげて呼び止める。太刀川は真横に停まったタクシーの後部座席に二宮を押し込んでから、まだ動けずにいる俺の名前を呼んだ。
    「五十嵐!」
     太刀川が明日の約束を交わす小学生みたいに言う。
    「こいつは渡せないけど、レジュメはちゃんと返すから!」
     隣で響く大声に二宮も起きたみたいで、「うるせえ」と不快そうに目を覚ますのがわかった。俺はふっと肩から力が抜けて、ようやく足を踏み出して太刀川に二宮の鞄を渡した。
    「二宮を頼むよ」
     春の風が二宮を連れ去る。
     そうして俺のほのかな片想いは、冬の夜が明ける前に終わりを迎えたのだ。

     * * *

     プリントの束をめくっていた二宮がふいに手を止めた。
    「二宮、どうかしたか?」
     俺がたずねると二宮は目を合わさずに「なんでもない」と答えた。いままでページを数えていた右手ではなく左手で作業を再開する。印刷したばかりの紙は利き手とは逆の手だと扱いにくそうで、指の動きはさっきとは比べられないくらいぎこちなかった。ずっと紙の枚数を数えていたから右手が疲れたんだろうか? まとめたプリントをホッチキスで留めながら様子をうかがっていると、二宮の右手が手のひらを握る形でテーブルに置かれる。指に蝶々が止まっているように微動だにしなくて、紙をめくる顔もいつもより険しい。
     やっぱりどこか変だ。
     いまは講義と講義の合間の空き時間で、俺と二宮はつぎのグループ発表で配布する資料の準備をしているところだった。昼休みが終わったカフェは空いていて、陽当たりの良いテラス寄りの席にも俺たちしかいない。冬なのに春みたいに暖かくて、気を抜くと眠ってしまいそうになる昼下がり。そんな穏やかな雰囲気とは対照的に二宮はずっと眉を寄せたままだった。さすがに気になった俺が口を開きかけたところで、先に二宮の名前を呼ばれた。
    「二宮! 電話しても出ないから大学中探したぜ。この前のゼミの課題見せてくれよ」
    「自分でやれって言ってるだろ。いちいち俺に頼ってくるな」
     俺の向かいに座る二宮が太刀川から声をかけられてあいかわらず嫌そうに顔を背ける。太刀川もあいかわらず二宮の反応を気にせずに「頼む!」と食い下がった。そのまま遠慮なく二宮の右隣の席に座った太刀川が、ふとなにかに気づいたように二宮をじっと見つめる。
    「二宮、おまえなんか隠してるだろ?」
    「…………してねえよ」
     言いながら二宮がさりげなく右手をテーブルの下に隠そうとして、察した太刀川がいちはやく左手で掴んだ。「放せよ」と二宮が文句を言うのを無視して強引に手のひらを広げる。右手の人さし指を見て太刀川がめずらしく顔をしかめた。
    「うわ、おまえ指から血が出てるぜ。痛そうだし保健室に行った方がよくないか」
    「紙で切っただけだ。放っとけばすぐに止まるだろ」
     俺は二宮の言葉にさっきの光景を思い出した。きっと紙をめくっているときに指を切ったんだろう。だから一瞬手を止めて左手で作業を再開したのだ。
     俺からは二宮の怪我の状態が見えないものの、太刀川の反応からけして傷が浅くないのはわかる。もっとはやく気づけていたら二宮に無理をさせずに済んだのに。そう後悔していると太刀川が「来馬からバンソーコーを貰った方がよくないか?」と口にして、俺はようやく自分が救急セットを持っていることに気がついた。
    「太刀川、バンソウコウなら俺が持ってるよ。探すからちょっと待ってろ」
    「マジか! さすが五十嵐!」
    「必要ないって言ってるだろ」
     二宮の返事を無視してトートバッグを漁る。まさか救急セットを持ち歩くきっかけになった二宮に、バンソウコウをあげる日がくるとは思わなかった。俺が太刀川に手渡すと子どもがアイスの袋を破るように勢いよくバンソウコウを剥がした。けれど二宮の指に巻く手つきは器用だし慣れている。もしかしたらボーダーで応急処置の講習を受けたことがあるのかもしれない。二宮もさすがに観念したみたいで、借りてきた猫みたいに大人しく指を預けていた。
     太刀川はバンソウコウを貼り終えたあと「よし」とうなずいた。
    「まあこんなもんだろ。おまえ自分のことになると鈍いんだから、無理に指を動かして傷を悪化させるなよ」
    「偉そうに言うんじゃねえよ」
    「五十嵐も二宮のこと頼むわ。こいつ痛いの我慢して無茶しそうだし」
    「わかってるよ。俺に任せとけ」
    「おい。おまえまで太刀川にあわせるな」
     俺が答えると二宮から信じられないものを見るような目を向けられる。ここ数日のあいだに俺と太刀川が仲良くなったのがいまだに慣れないんだろう。太刀川が俺にレジュメを返しにきた場面に居合わせたときは、よほど驚いたのか固まっていたし。その俺たちを結びつけたのは当の二宮なのだけれど、二宮本人が知ることは一生ないはずだ。俺は言うつもりはないし、太刀川も俺の気持ちを無神経に言いふらすような奴じゃない。たとえそれがもう終わった話で、いまは二宮に友情しか抱いていないとしても。
    「じゃあ俺は来馬んとこに行ってくるわ。今回の課題を落とすとさすがに単位がやばいんだよな」
     怪我をしている二宮に課題を頼むのは気が引けたのか、太刀川は俺たちに告げて椅子から立ち上がった。去り際に二宮の左肩にポンっと手を置く。よくある仕草だった。触れた指先も未練なくあっさり離れていく。二宮も太刀川に視線を向けることはせずに「来馬に迷惑かけるなよ」とそっけなく返した。何気ないやりとり。おもわず見過ごしてしまいそうなもの。けれどふたりの関係がいままでとは大きく変わったのがわかった。そのあと二宮が浮かべた表情に気づかなければ、俺はふたりの仲がより深いものへと進んだからだと思い至らなかっただろう。
    「どうした」
     太刀川を見送ったあと。指に巻かれたバンソウコウを眺めていた二宮が俺の視線に顔をあげた。俺は二宮のまっすぐなまなざしを受け止めながら、はじめて太刀川が二宮をかわいいと表現した気持ちがわかった。
     たしかに、恋をしている二宮はかわいい。
     俺は「なんでもないよ」と答えて、美しい冬の朝に芽吹いた花のような二宮から目を逸らした。窓の向こうで太刀川の背中が並木道に消えていく。あとを追うように嵐にも似た強い風が吹いた。
     身を寄せ合って眠っていた樹々が揺り起こされる。桜の蕾も陽光にほだされて膨らむ準備ができている。

     春はもう、すぐ傍まで迫りつつある。
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    hn314

    PROGRESS太刀川の隣の部屋に住む杉山さん視点の話。このあと防衛任務中の太刀川くんと二宮くんに助けられる杉山さんの話が上手いこといけば5月の新刊に収録されるはずです。
    ⚠️CPは太刀川と二宮の左右なしです。
    第三者視点の話 三門市はのどかで穏やかな街だ。暖かな気候がそうさせるのか朗らかで人のいい県民性で、犯罪発生率は全国でもトップクラスに低い。夜の繁華街を歩いても絡んでくるのはせいぜい不良くらい。反社会的な団体や犯行グループや半グレ的な組織がいる話は聞かなくて、オレオレ詐欺かと思ったら本当にただの間違い電話だった──という笑い話が実際にあるくらいだ(ちなみに俺の母親の実体験だ)。道を歩いていても目にする看板は『警戒区域注意』『優先順位はスマホの通知音より警報音』といったボーダー関連の標語ばかりで、『事故多発』『ひったくり注意』『自転車盗難発生』といった不穏なものは見かけない。だから俺が住んでいる築十二年の木造アパート(1K・一階・洋室八畳・風呂トイレ付き)もオートロックじゃないし監視カメラもついていないが空き巣に入られたことは一度もなくて、鍵をかけずに部屋を出てもなにも盗まれないくらいだ──というのはさすがに俺の実体験ではない。俺の右隣の部屋に住む男子大学生から聞いた話だ。
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    hn314

    PROGRESS特別訓練でくそつよトリオン兵と戦う太刀川と二宮の話(途中)。無事に2月の新刊に収録されてほしいです。
    ※ボーダー幹部をしている20歳組の未来捏造ネタです。
    原稿の進捗 最近入隊したばかりの隊員から加古さんは太刀川さんと二宮さんのどちらとお付き合いしていたんですかって聞かれたのよ。と、加古ちゃんがオレにぼやいたのは同年代飲み会の最中だった。当の太刀川と二宮はふたりで家に帰ったあとで、来馬も呼び出しを受けて鈴鳴支部に戻ったあとで、冷えたつまみとぬるくなった酒のグラスを片手に居酒屋の六人用の席でふたりでサシ飲みをしていたときだ。
    「C級隊員の子たちのあいだで、私と太刀川くんと二宮くんが昔は三角関係だったって噂が流れているみたいなのよねえ」
     向かい合って座る加古ちゃんが内容とはうらはらに他人事のように言う。オレは日本酒を飲みながらおもわずうめいた。予想していたより酒が強かったからじゃなくて、つい最近オレも訓練のあとに隊員から聞かれていたからだ。ただそのとき質問されたのは「加古さんの手料理を取り合って堤さんたちが喧嘩したって噂は本当なんですか?」という、元ネタに尾鰭背びれがついて羽まで生えたようなものだったのだが。もちろん加古ちゃんはオレたちの中の誰とも付き合ったことがないし、誰かと三角関係になったこともないし、手料理──たぶんチャーハンだろう──を避けるために争った記憶はあれど奪い合ったこともない。根も葉もない噂だが、こういった話が広まる理由はオレにも想像がついた。三十手前のオレたちとは違ってまだ十代の隊員は恋愛話に興味があるだろうし、なにより加古ちゃんも太刀川も二宮も目立つのだ。
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    hn314

    DONE恋愛ゲームが上手い太刀川とこれから攻略される二宮の話※左右なしです。
    誕生日おめでとう話 つぎのデートの行き先を水族館にするか遊園地にするか買い物にするかで迷う。手堅いのは水族館だし、この前行ったときにも喜んでくれた場所だが、もう四回目のデートだからそろそろ違うとこにした方がいい気がするんだよな。いつもおなじとこばっか行ってるとマンネリってやつになるし。でも賑やかな場所は好きじゃなさそうだし、遊園地は避けといた方が無難だろう。そういやもうすぐ誕生日だから、プレゼントの下見も兼ねて買い物に誘ってみるのもアリかもしれない。意外と服装に気を使うタイプだし。よし。今回は買い物を選んでみるか。
     俺がポチポチとボタンを操作して『ショッピング』の選択肢を選ぶと、予想は当たったみたいで『そうね。私も欲しい服があるし』とセリフが出て画面いっぱいにハートマークが飛んだ。主人公のパラメーターを最大まで上げないと出会えないキャラだし、やっと会えてからも会話できるようになるまで時間がかかったが、攻略ルートに入ってからは結構好感度が上がりやすい。ツンデレ? じゃない、クーデレ? が売りのキャラだって国近も言っていたし、ガードの硬さからのデレが魅力なんだろう。この調子でいけば来週の誕生日には告白できそうだな。
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