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    hn314

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    hn314

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    付き合いたての太刀川と二宮の話。左右なし。たぶん続きがある。

    付き合いたての話 スマホを片手にうろうろ歩く。
     地図アプリ?で表示された目的地はこの近くだし、それっぽい店はたくさんあるが、目当ての居酒屋までなかなか辿り着けなかった。堤からはビルの一階にあるからわかりやすいと言われていたけど、似たような外観の建物が多くてどの店もおなじに見える。三門市の繁華街を歩くのはひさしぶりだから、余計に店の区別がつかないのかもしれないが。そういや生身の体でこんなに歩いたのも十日ぶりだ。頭の中で想像する動きと実際の体の動きが伴っていなくて、こっちがホンモノなのにゲームのキャラを動かしてるような不自由な感覚があった。
    「あ、太刀川。さっき帰ってきたばかりなのに呼び出して悪かったな」
     ただ俺より先に堤の方が見つけてくれて、通り過ぎようとしていた店の前で声をかけられる。「おう」と俺も手をあげて応えようとしたところで、居酒屋の入り口の横に立つ堤が誰かを背負っているのに気がついた。
     俺より背の高い堤より背の高いっぽい人物。薄茶色の髪。見覚えのある色と形のコート。高そうなシャンプーの香り。どっからどう見ても二宮だった──ぐでんぐでんに酔っ払って眠っているのを除けば。
    「背中で寝てんの二宮か?」
    「太刀川が迎えに来るあいだに寝オチしたんだよ」
     近づいて覗き込むとやっぱり二宮だ。堤の肩に顔をうずめているせいで、普段は俺には見下ろせない後頭部のてっぺんを晒している。俺が三門市に戻ってすぐに二宮に電話をかけたとき。代わりに出た堤から大学の飲み会中に二宮が酔い潰れたとは聞いていたが、こいつ寝オチするくらい飲んだのか。いつもはまわりに勧められても絶対に酒を飲みすぎないし、どんなに場が盛り上がっても頑なに流されないやつだから、二宮が酔った姿を見るのははじめてだった。飲み会中になにが起きたのかはわからないけど、俺が離れているあいだも三門市は平和だったんだろう。
    「そうだ」
     呼び止めたタクシーの後部座席にふたりがかりで二宮を乗せたあと、ふと堤が思い出したように口にした。
    「二宮が飲み会のあいだずっと太刀川の話をしていたぞ。太刀川が“研修旅行”に行ってるあいだ寂しかったんだろうな」
    「マジか~。俺のこと褒めてたか?」
    「いや、ずっと文句を言っていたよ」
     めずらしく苦笑しながら返される。堤がこんな顔をするということは、きっとめちゃめちゃ俺の文句を言っていたんだろうな。そのせいで酒を飲み過ぎたのかもしれない。「せめて二宮が寂しがらないように、研修旅行中もメールや電話くらい出来ればいいんだろうけどな」と続けられて、「そうだなあ」と俺もあいまいにうなずいた。艇にスマホを持ち込んだことはないが、たぶん繋がらないんだろう。普通のメールや電話は無理のはずだ。ただ毎日本部と報告会議はしていたから、なんらかの通信手段はあるのかもしれない。今度冬島さんに聞いてみるか。
    「二宮を任せたよ。太刀川も今夜はゆっくり休めよ」
    「おう。俺もまた明日から大学に戻るわ」
     居酒屋の前で堤と別れて、俺もタクシーの後部座席に乗り込む。そのとき生身の頬を刺すように吹いた冬の風よりも。暖房の効いた車内のあったかい空気や、タクシーのラジオから俺の知っている曲が流れたことや、運転手のおじさんから行き先を聞かれたときよりも。眠りこけている二宮の隣に座った瞬間、俺は三門市に帰って来たのを実感したのだった。

     * * *

     俺と二宮が付き合ってから二週間が経った。でも付き合って四日後には俺はボーダーの研修旅行──という名目の近界遠征に行っていて、半分以上を別れて過ごしていたからまだ恋人らしいことはしていない。しいていえば予定より一日早く三門市に帰って来て、二宮に電話したら代わりに堤が出て。酔い潰れた二宮を居酒屋まで迎えに行ったこれがはじめてした「恋人」っぽいことだ。
     だからホントはこの機会に俺の家に二宮を連れて帰ってもいいんだろうけど、結局運転手のおじさんには二宮がひとり暮らしをしているマンションの住所を告げることにした。俺もひとり暮らしをしているし、どっちかというとここから俺の家の方が近いが、寝オチしているところを連れ込んだら二宮は嫌がるだろうと思ったのだ。アレだ、あの強そうな動物っぽい言葉。オクリオオカミ?ってやつで、こういうのはちゃんと本人の許可を取ってからの方がいいだろう。オツキアイってそういうもんだしな。
     そんなことを考えながら、俺の右隣で眠っている二宮を眺める。振動が伝わって寝づらいだろうに、俺の肩じゃなくて窓ガラスに頭を預けていた。恋人になったんだからすこしくらい甘えてくれてもいいのに、こいつはとことんそういうやつなのだ。今回遠征に行く前も二宮の家に寄って顔を見に行ったら、「遅刻するからさっさと行け」といつもの仏頂面で追い出されたし。そのくせ俺がいないあいだ寂しがっていたらしいから、メンドーやつだよなと思う。外国の映画みたいにわかりやすくキスやハグをねだって来いとは言わないが。そういや二宮とまだ手も繋いだことがないんだよな──と気がついて、俺のすぐそばに投げ出されている二宮の左手になんとなく触れてみる。熱い。こいつでも酔って寝ているときは体温が上がるんだな。俺と手の大きさは変わらないけど、男の割には指が長いし細い。あと爪が丁寧に切られているのが二宮らしかった。
     あったかい手を離すのが名残惜しくなって、そのまま二宮の左手に俺の右手を重ねる。窓から近界とは違う静かな夜空と、三門市のちいさな月を見ていると、ラジオからさっき聞いたのとおなじ曲が流れた。出水と国近からいま流行中の曲だと教わったけど、ホントに人気があるらしい。おもわず口ずさみながら右手の人さし指でリズムを取っていると、二宮がくすぐったそうに身じろぐ気配がした。あ、起こしたか。でも隣をうかがうとあいかわらず俺に顔を背けて眠っている。まあ俺と堤のふたりがかりでタクシーに乗せても起きなかったくらいだし、この程度の刺激じゃ目が覚めないんだろう。
     右手を重ねたまま人さし指で二宮の左手をトントンつついたり、気まぐれになぞったりしていると、曲が終わる前にまだ見慣れないマンションに着いてしまった。
     意外とあっという間だったな。ちょっともったいなく感じながら、料金を払うために二宮の左手から右手を離したとき。曲を最後まで聞けなかったことよりも、二宮にこれ以上触れられないのを残念に思っているのに気がついた。


    「二宮。ほら、家に着いたぜ」
     タクシーから二宮を引っ張り出す。さすがに起きたもののまだ寝ぼけてるっぽい二宮を支えて歩いて、俺が二宮のコートとジャケットのポケットを漁って鍵を探してやって。なんとか玄関のドアを開けて無事に押し込んだところで、今度は逆に俺が二宮に左手を引っ張られた。
    「うわっ」
     態勢を崩しかけておもわず声が漏れる。俺のうしろで玄関のドアが閉まって、ガチャンと勝手に鍵のかかる音がした。自動で照明のつく部屋みたいで、頭の上で花火が弾けるみたいに明かりがともる。慌てて壁に右手をついたおかげで転ばずに済んだが、間に合わなかったら二宮とふたりで廊下に倒れ込んでいたはずだ。いくら寝起きだからといってさすがにこれはダメだろ。
    「危ないだろ」と文句を言おうとしたら二宮にはじめてキスされた。キス、といってもくちびるとくちびるが触れるだけの簡単なやつを。ちょっと驚いて反射的に身を引くと、さっきより強く押しつけられる。俺はこっちのキスも結構好きだけど、大事な書類にハンコを押すみたいに強くくちびるを押しつけられて、まったく気持ちよくなかった。むしろ歯があたって痛い。俺も経験豊富なわけじゃないがこんなに色気のないキスははじめてだ。ただ二宮もさんざんそっけない態度を取っておきながら、俺とこういうことをしたかったんだなというのは伝わってきた。
     こんな拙いキスを仕掛けて、必死に俺を求めてしまうくらいに。
     俺はくちびるを離して、目の前にある二宮の顔を見上げてふっと笑った。
    「付き合ったばっかなのに手が早いな」
    「……待たせやがって」
     二宮が顔を背けて苛立ったように言う。
     俺が近界遠征に行っていたことを指しているのか。それとも俺からいままで二宮にキスしなかったのを指しているのかあえて聞かないことにした。「悪かった」とささやいて、右手で二宮の左手に触れると、ビクリと逃げるように手をひっこめられた。あのとき起きていたんだなと思い至ったものの、俺は逃さないようにぎゅっと指と指を絡めて、まずはひとつずつ恋人としての距離をつめていくことにした。
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    hn314

    PROGRESS太刀川の隣の部屋に住む杉山さん視点の話。このあと防衛任務中の太刀川くんと二宮くんに助けられる杉山さんの話が上手いこといけば5月の新刊に収録されるはずです。
    ⚠️CPは太刀川と二宮の左右なしです。
    第三者視点の話 三門市はのどかで穏やかな街だ。暖かな気候がそうさせるのか朗らかで人のいい県民性で、犯罪発生率は全国でもトップクラスに低い。夜の繁華街を歩いても絡んでくるのはせいぜい不良くらい。反社会的な団体や犯行グループや半グレ的な組織がいる話は聞かなくて、オレオレ詐欺かと思ったら本当にただの間違い電話だった──という笑い話が実際にあるくらいだ(ちなみに俺の母親の実体験だ)。道を歩いていても目にする看板は『警戒区域注意』『優先順位はスマホの通知音より警報音』といったボーダー関連の標語ばかりで、『事故多発』『ひったくり注意』『自転車盗難発生』といった不穏なものは見かけない。だから俺が住んでいる築十二年の木造アパート(1K・一階・洋室八畳・風呂トイレ付き)もオートロックじゃないし監視カメラもついていないが空き巣に入られたことは一度もなくて、鍵をかけずに部屋を出てもなにも盗まれないくらいだ──というのはさすがに俺の実体験ではない。俺の右隣の部屋に住む男子大学生から聞いた話だ。
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    hn314

    PROGRESS特別訓練でくそつよトリオン兵と戦う太刀川と二宮の話(途中)。無事に2月の新刊に収録されてほしいです。
    ※ボーダー幹部をしている20歳組の未来捏造ネタです。
    原稿の進捗 最近入隊したばかりの隊員から加古さんは太刀川さんと二宮さんのどちらとお付き合いしていたんですかって聞かれたのよ。と、加古ちゃんがオレにぼやいたのは同年代飲み会の最中だった。当の太刀川と二宮はふたりで家に帰ったあとで、来馬も呼び出しを受けて鈴鳴支部に戻ったあとで、冷えたつまみとぬるくなった酒のグラスを片手に居酒屋の六人用の席でふたりでサシ飲みをしていたときだ。
    「C級隊員の子たちのあいだで、私と太刀川くんと二宮くんが昔は三角関係だったって噂が流れているみたいなのよねえ」
     向かい合って座る加古ちゃんが内容とはうらはらに他人事のように言う。オレは日本酒を飲みながらおもわずうめいた。予想していたより酒が強かったからじゃなくて、つい最近オレも訓練のあとに隊員から聞かれていたからだ。ただそのとき質問されたのは「加古さんの手料理を取り合って堤さんたちが喧嘩したって噂は本当なんですか?」という、元ネタに尾鰭背びれがついて羽まで生えたようなものだったのだが。もちろん加古ちゃんはオレたちの中の誰とも付き合ったことがないし、誰かと三角関係になったこともないし、手料理──たぶんチャーハンだろう──を避けるために争った記憶はあれど奪い合ったこともない。根も葉もない噂だが、こういった話が広まる理由はオレにも想像がついた。三十手前のオレたちとは違ってまだ十代の隊員は恋愛話に興味があるだろうし、なにより加古ちゃんも太刀川も二宮も目立つのだ。
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    hn314

    DONE恋愛ゲームが上手い太刀川とこれから攻略される二宮の話※左右なしです。
    誕生日おめでとう話 つぎのデートの行き先を水族館にするか遊園地にするか買い物にするかで迷う。手堅いのは水族館だし、この前行ったときにも喜んでくれた場所だが、もう四回目のデートだからそろそろ違うとこにした方がいい気がするんだよな。いつもおなじとこばっか行ってるとマンネリってやつになるし。でも賑やかな場所は好きじゃなさそうだし、遊園地は避けといた方が無難だろう。そういやもうすぐ誕生日だから、プレゼントの下見も兼ねて買い物に誘ってみるのもアリかもしれない。意外と服装に気を使うタイプだし。よし。今回は買い物を選んでみるか。
     俺がポチポチとボタンを操作して『ショッピング』の選択肢を選ぶと、予想は当たったみたいで『そうね。私も欲しい服があるし』とセリフが出て画面いっぱいにハートマークが飛んだ。主人公のパラメーターを最大まで上げないと出会えないキャラだし、やっと会えてからも会話できるようになるまで時間がかかったが、攻略ルートに入ってからは結構好感度が上がりやすい。ツンデレ? じゃない、クーデレ? が売りのキャラだって国近も言っていたし、ガードの硬さからのデレが魅力なんだろう。この調子でいけば来週の誕生日には告白できそうだな。
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