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    hozumiya

    @yoru_h_i

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    hozumiya

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    いつか再録本出すぞ~~ってことで、ぽちぽち加筆修正してみたり。
    支部にも載せてる。

    ##降風

    【降風】手作り弁当の真相 風見は昼を知らせる鐘の音と共に机上へ弁当を広げた。たまに見るその光景に、隣の席に座る同僚がおっと声をあげる。

    「久々だな、彼女の手作り弁当」
    「作りすぎてしまったからと持たせてくれたんだ」

     蓋をあけると、中からお昼に急いでかき込むにはもったいない程の料理がぎっしりと詰まっていた。職業柄ゆっくりじっくり味わって食べるほどの時間をとることができないのが惜しまれる。

    「作りすぎた……ねぇ」

     せめて少しでも長く目を楽しませようと、じっと弁当の中を見ている風見に、絶対にそれだけじゃないだろうにという目線を同僚は送った。隣からの熱い視線に負け、風見は弁当箱を傾けてみせる。

    「どう考えても一人分の量じゃないだろ……とってくれると助かる」
    「お前がいいなら貰うけど」

     そう言うと同僚は、弁当箱の中からいくつかの料理をひょいひょいと自分のコンビニ弁当のご飯の上へと移した。多少隙間のできた弁当箱に、これならどうにか食べ切れそうだと風見は手を合わせる。

    「いただきます」

     今日の主役はこれだとばかりに、中央へ鎮座している焼き魚へと箸を伸ばす。ほんのりとピンク色をした身から、それが鮭であろうことが分かる。

    「これ、味噌だけじゃなくてレモンと玉ねぎが使ってあるのか……」

     口の中に広がるレモンの香りと、時間の経過により歯応えが生まれた鮭が溶け合う。
     またあの人は凝ったものを……と、若干の呆れを覚えながらも、弁当を作った彼女ならぬ真犯人へ心の中で感謝を述べた。



     背中合わせのベンチに座り、弁当箱を返却する。このままいつもであれば互いにすぐさま立ち去るところであったが、今日は珍しく降谷が腰を落ち着けているため、携帯端末を耳に押し当てながら風見はそっと口を開いた。

    「おかげさまで知らないうちに、彼女がいることになっていました」
    「ほー、それで君は? 何か困ることでもあったのか?」

     自信作を詰めたつもりだったんだがな。という態とらしい検討外れな言葉に、風見は眉間に皺を寄せる。確かに弁当はとても美味しかった。うまいという感想しか出ないことを罪と感じるほどには。

    「……そう言われると、特に思い当たりませんね」
    「なら、そう思わせておけばいいさ」

     降谷がそう言い残して立ち去る気配に、風見も端末を下ろして立ち上がる。君たちが彼女だと思っている人は、実を言えば我々の上司なんだぞと、風見は心の中でころころと笑った。

    *

    「風見さん、よその上司に風見君にはいい人がいるのかね? と聞かれましたので、ばっちり手料理上手の彼女の話、しておきましたよ!」

     後日、どうです? 偉いでしょう? 褒めてください! という顔をした部下のこの発言に、あれを作ったのは彼女じゃないというのも誤解を生みかねないため、下手なことも言えず、さすがの風見も頬を引きつらせて「ははは」と乾いた笑いを出すほかなかった。
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