剥き身「うまそうだな」
やにわに右腕をすくい上げられても髭切は動じない。なにせ相手はざぶざぶ湯を蹴って近づいてきていたのだ。伏せていた目を開けば、白みがかった視界が焦点を結ぶ。節立つ男の腕が伸び、同じく筋ばった男の手に繋がるのを見る。
「……おまえまた、蟹とか海老のことを考えているね」
「ばれたか」
間抜けな中腰になって腕を検分していた膝丸は悪びれた様子もなく顔を上げた。髭切の腕は、水位の高さを境に、鮮やかな桜色に染まっている。
そこらに服を脱ぎ捨て湯に浸かった髭切と違い、膝丸はきれいな岩を探し、兄の衣類もろともかけてようやく入ってきた。服を放るのは許せず、裸を晒してうろつくのには頓着しない弟が髭切にはよく分からない。こんな奥地の秘湯で見る人も無し、興味本位で衣類を食むような獣の類もいないだろうから、まあどうでもいいかと髭切はまた目を閉じる。
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