瓶の中身は、半分だ。
風真はあまり酒を飲む方ではない。付き合いの居酒屋や、接待でいく料亭などでは失礼のない程度に嗜む。料理を邪魔せず引き立てるような辛口の酒はどちらかといえば好きだ。
だからといって、自宅で晩酌をするかといえばまた別の話だ。一人で酒に合う料理やつまみを用意してまで飲むほど、酒の味自体を好んでいる訳でも、酩酊する感覚を楽しんでいる訳でもない。
風真はダイニングに置かれた、カッティングの美しいガラス瓶をじっと眺める。黒々とした液体は、底も先も見えない。嘆息し、用意していたグラスを引き寄せる。そこには既にミルクが注がれており、僅かに波立ち、溢れそうになる。瓶の栓を開けると、ふわり、と嗅ぎ慣れた香りが広がった。
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