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    四 季

    @fourseasongs

    大神、FF6、FF9、ゼルダの伝説ブレスオブザワイルドが好きな人です。

    boothでブレワイに因んだ柄のブックカバー配布中:https://shiki-mochi.booth.pm/

    今のところほぼブレワイリンゼルしかない支部:https://www.pixiv.net/users/63517830

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    四 季

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    GW中に、書きかけのものをできるだけ書き上げたい……。

    #ゼルダ姫
    princessZelda
    #ブレスオブザワイルド
    breathOfTheWild
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    星月 ──星が落ちてくる。

     夜の帳を縫うように、一筋の弧を描いて。
     この広い、ハイラルの大地へと。

    【星月】

    「この子のような馬を、『星月』と呼ぶのだそうですね」
     姫の言葉に、俺は姫の方を振り向いた。俺がそのまま──俺の表情の動きが分かるダルケルやミファーから見れば、かなり呆けているように見えただろう──姫を見つめていると、餌やりの手が止まって不満だったらしい俺の馬が、鼻先で俺の肩を小突く。俺は慌てて、樹からもいだばかりの手に持っていたリンゴを、馬の口元に差し出した。
     そんな俺たちのやりとりを見た姫が、陽だまりのように柔らかな笑みを浮かべた。

     姫と俺は今、城の厩舎にいる。馬に乗り慣れない姫が、馬と親しくなるために馬の生態と、俺の馬との接し方を知りたいのだと俺に助言を求めたからだ。
     俺は姫の護衛時と、剣の訓練の時以外は基本、この厩舎にいるか、あるいは馬で遠駆けをしている。そのくらい、馬が好きだ。ハイラルの片田舎に住んでいた幼い頃から、俺にとって馬は、自分の足だけでは到底辿り着けないような未知の世界へと連れて行ってくれる、素晴らしい友人だった。
     ハイラルには多種多様な生き物が暮らしているが、やはり人間にとって良き友人である犬や馬は、特別な存在だ。とくに「騎士」は、城に仕える兵士の中でも馬への騎乗を許された者に与えられる呼称で、幼い頃からの俺の憧れであり、目標だった。代々近衛騎士であったハテノ村の実家にも、城の厩舎とは比べ物にならないながらも厩がある。そして、幼い頃の俺の主な仕事は、馬の世話だった。その馬は父の馬だったが、世話をする自分にとっても、特別な存在だった。
     城に召され、騎士に昇格してからの俺の愛馬は、栗毛で、姫の愛馬──輝く黄金の鬣を持つ白馬──のように希少な毛色をしているわけではないが、白馬にも負けず劣らず俊足で、力も、持久力もある。何より俺がまだ兵士になりたての、馬小屋の掃除をさせられていた頃からの付き合いだ。相棒、と言っても良い。
     姫に「星月」と呼ばれ、優しく鼻先を撫でられた俺の愛馬は、俺と過ごしているときよりもむしろご機嫌そうだった。馬に懐かれた姫も楽しそうで、見ていて微笑ましい光景のはずだが、何だかあまり面白くない。
     それはともかく、先ほど姫は馬の額に入った白い斑を「星月」と呼んだ。俺の馬は栗毛だが、額や足先は雪のように白い。姫によれば、俺の馬のように、額に白い斑のある馬を「星月」と呼ぶのだそうだ。そして額の斑紋のことは「星」と呼ばれる。なるほどと合点がいき、俺は頷いた。シーカー族の長が額に刺青を入れるように、額とはやはり身体の中でも特別な、象徴的な意味を持つ場所だ。額の白い斑を星になぞらえ、その星を額に頂く馬を特別視する理由は理解できた。
     各地で祀られている女神ハイリアの立像が翼を持っていることや、ハイリア人がかつて空の上で暮らしていたと言われていることからも分かるが、空は、ハイリア人にとっては憧れの存在だ。王家の色が「青」なのも、青が空の色だからというのが理由の一つだろう。そして、その空から降ってくる星はまた、天からの授かりものを示す言葉でもある。
     そんなふうに思いを巡らせた俺の心の内を察したのか、姫は俺の顔を見ながら、眩しいくらいにこやかな笑みを浮かべた。
    「各地にある勇者のための祠にも星が描かれています。それに、星のかけらは古代遺物の素材にも使われていたようですし……。今のハイリア人にとっても、一万年前のシーカー族にとっても、星は神秘的で心惹かれるものだったのでしょうね。
     この子の額の星とは直接関係ありませんが、この子のような毛色のことを『星月』というのだと聞いたら、何だか急に貴方に話したくなってしまって。
     ふふ、おかしいですよね」
     そう言って、姫は朗らかに笑った。
     姫の笑顔を見つめながら、俺は、もしも自分が、この馬の額の模様が「星」と呼ばれていて、額に星を戴く馬を「星月」と呼ぶのだと知ったら、きっと真っ先に姫にその話をしただろうと思った。そして、祠の壁に描かれていたのが星だったこと、王立古代研究所のプルア殿やロベリー殿が、研究材料として星のかけらが欲しいと言っていたことを思い出しただろう。空に輝く星と、馬の紋様。全く関係ないことでも、姫は話せばきっと、楽しそうに俺の話に耳を傾けてくれるだろうから。
     姫と同じことを考えていた。そのことが何だか誇らしくもむず痒いような気持ちになって、俺の口元が思わず知らず緩んだ。幸い、姫は俺の表情の変化には気づかないようで、今度は天体の星に関する話を始めている。
    「以前貴方と星のかけらを集めていたときは、古代研究のことばかりに考えがいってしまいましたが、最近では祠に描かれた星や、星にまつわることばや言い伝えについて、思いを巡らすようになったんです。
     科学の技術は大きく衰退しましたが、一万年前のハイリア人もシーカー族も、同じ気持ちで星を見上げていたのかもしれないと」
     そう言いながら、姫はその奥に星が潜む、昼間の明るい空を見上げた。
    「神獣は、かつてハイラルに存在していたという生き物の姿をかたどったものだとされています。それは一万年前に生きたハイリア人やシーカー族が、その生き物に対する思いや願いを、神獣に託したからだと思います。
     ですから、祠の表面に描かれた星も、きっと何か意味があるのだと思います。人は太古の昔から、夜の空を見上げ、星を繋いで、物語を編んできました。あるいは位置天文学や天体力学といった研究の対象とし、またあるいは星の動きに神秘的な力を感じ取り、占星術が生まれたのです。
     そうして人が、空を仰ぎ見て憧れていた星のかけらが、このハイラルの地に落ちてくる。星に憧れ空を見上げている、私たちのもとへ──。
     そう考えると、とても不思議なことに思えませんか」
     自分にできることはただ、姫の話に相槌を打ちながら、楽しそうに語るその輝くような横顔を、眩しいものを見るような気持ちで見つめることだけだ。
    「自分は、太陽があの夜空に輝く星と同じものだと、姫様に窺うまで知りませんでした。
     太陽が落ちてくることがないように、星が落ちてくるとは」
     空高く輝く太陽に手を伸ばそうだなどとは、きっと誰も思わない。空に浮かぶ星を掴めるということも。
     俺の言葉に、姫は面白そうに笑った。
    「あら、星のかけらをあんなにもたくさん集めてくれた貴方が、そのようなことを言うのですか?
     貴方が研究の材料をたくさん提供してくれると、プルアやロベリー達が喜んでいましたよ。
     もしかしたら、貴方は星を射落としているのではないかと」
     冗談めかした姫の言葉に、面映くなって俺は頭を掻いた。
     まさか星を射落とそうなどと考えたことはない。幼い頃、父が、屈強な半獣半人の魔物が落としたという星のかけらを持ち帰ってきたことがあった。まさか星が落ちてくるなどとは子ども心にも信じていなかったが、たまたまそのことを姫に話したところ、姫が、それは古代研究に使われていた材料ではないかと言ったため、探してみただけだ。
    「幼い頃にも、流れ星を見つけて追いかけたことがあります。でも、その時はまだ幼かったので、探しているうちに朝になってしまって、流れ星が落ちた場所を見つけられなかったんです。
     ですから、姫が思い出させてくれるまで、星が落ちてくることさえ、忘れていました」
     姫と話をしていると、幼い頃、虹の橋のふもとを探したり、流れ星を追いかけていたりしたときのことを思い出す。何も見つけられなくてがっかりしたはずなのに、そうして憧れや、憧れに手を伸ばし、届かなかった時の失望以上の素晴らしさが待っているのだということを、彼女と話していると思い出してしまう。
     また失望してしまったらどうしようという怯懦の心がある反面、それ以上に、この人の隣で、この人の話を聞いていたい。この人の笑顔を見ていたい。そう思ってしまう自分に気がついた。
     虹のたもとに辿り着けないように、星に手が届かないように、いずれ手が届かない苦しみや、別れなければならない悲しみを味わうのだとしても──。
     俺の言葉に、姫は微笑みながら、馬の額、星の模様を優しく撫でた。
    「貴方なら、きっと探し出せますよ。
     それに、もしかしたら、星は落ちてくるのではなく、貴方を選んでやってきているのかもしれませんよ」
     意味深な姫の言葉に目を丸くしていると、姫が「そろそろ出かけましょうか」と言って踵を返した。この後、姫は姫の白馬で、俺はこの星月に乗って遠駆けする予定だった。
    「は、はい」
     慌てて愛馬に跨ると、遠駆けの雰囲気を察したのか、馬が嬉しそうに小さく嘶いた。
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    四 季

    DONEリンクが姫様に自分の家を譲ったことに対する自分なりの考えを二次創作にしようという試み。(改題前:『ホームカミング』)
    帰郷「本当に、良いのですか?」
     ゼルダの問いかけに、リンクははっきり頷き、「はい」と言葉少なに肯定の意を示した。
     リンクのその、言葉少ないながらもゼルダの拒絶を認めない、よく言えば毅然とした、悪く言えば頑ななその態度が、百年と少し前の、まだゼルダの騎士だった頃の彼の姿を思い起こさせるので、ゼルダは小さくため息を吐いた。

     ハイラルを救った姫巫女と勇者である二人がそうして真面目な表情で顔を突き合わせているのは、往時の面影もないほど崩れ、朽ち果ててしまったハイラルの城でも、王家ゆかりの地でもなく、ハイラルの東の果てのハイリア人の村・ハテノ村にある、ごくありふれた民家の中だった。
     家の裏手にあるエボニ山の頂で、いつからか育った桜の樹の花の蕾がほころび始め、吹き下ろす風に混じる匂いや、ラネール山を白く染め上げる万年雪の積もり具合から春の兆しを感じたハテノ村の人びとが、芽吹の季節に向けて農作業を始める、ちょうどそんな頃のことだった。ゼルダの知らないうちに旅支度を整えたリンクが、突然、ゼルダにハテノ村の家を譲り、しばらく旅に出かける──そう告げたのは。
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