扉を開けて懐かしい夢を見た気がする。
遥か昔、ずっとずっと過去の夢。
自分によく似た誰かが
背の高い誰かに寄り添う夢。
その雰囲気からでも十分に伝わる優しい空間。
あぁ、なんて素敵な空間なんだろう……
陽だまりのように暖かくて、心穏やかになれる空間。
繋がれた手は優しく、それでいて情熱的な熱さが伝わる。
互いに目を閉じ寄り添う姿は信頼してるからこその無防備な姿。
《いいな》
羨んでしまうほどに、二人の関係が素敵だった。
現実の自分達には無いものが詰まっていた。
「…なんだ、現実の俺達って?」
夢なのにおかしな事を思ったものだ。
でも、夢とは時に己の願望の表れだと聞いた事がある。
現実の自分は、素直になれず、遠慮したり我慢したり…
上手く自分を出すことが苦手だった。
父親が早くに他界し、女手ひとつで兄弟四人を育ててくれた母親を少しでも楽させてやりたいと色々な事をしていくうちに、自分のやりたかった事を我慢する癖がついてしまった。
甘える事も忘れた。
だかそれを変だとは思わなかったし、指摘もされ無かったので、それが当たり前だと生きてきた。
だから、あいつと喧嘩して
我慢をするな、もっと甘えろ、頼って欲しい
そう言われた。
優しさなのも分かっていたが、やり方が分からない…
解らないんだよ…
我儘言って、甘えて甘えすぎたら、頼りすぎて負担にならないか、そんな事を考えてしまうと
《嫌われたくない》
と、思ってしまって余計に解らなくなった。
だから咄嗟にでた言葉が
「出来てるならとっくにしてる!」
だった。
その言葉を聞いて相手は黙ってしまい
『そんなに私は信用無かったのですね…』
とポツリと呟いて自室に戻って行った。
傷付けてしまった。
違う、そうじゃない。
そんなつもりで言ったんじゃない。
失いたくなくて、一歩踏み出せなかっただけだ。
踏み出したその先で間違った…と思うと
頼って、甘えて、我儘言って、それを拒絶されたらと思うと
怖くて恐くてたまらない…
今まで生きてきた人生で誰かに甘えたり、頼ったりせず、一人で何とかしなきゃと生きてきたから、本当に解らないだけなんだ……
いつしか目から雫が溢れ出し、その場にうずくまる。
苦しい…
好きになればなるほど
大切に、大事にしたいと思えば想うほど
余計身動きが取れず相手と距離が出来てしまう。
「……っどうすれば、いいんだよ…」
力なく掠れた声で紡がれた言葉。
「今思ってる事を、そのまま相手に全部伝えれば良いのですよ」
上から声がした。
見上げると先程の二人が立っていた。
「本当に不器用だな、お前。昔の俺そっくりだわ」
背の低い方が片膝をついて目線を合わせて話してくれた。
いいか、解らなければ聞けばいい。
言いたい事があるなら言えばいい。
それをして、お前をただ傷付け手放す糞野郎なんざ捨てろ。
お前の事をちゃんと見てくれない奴を、お前が気にする必要はない。
だがな、それはお前にも言える事なんだよ。
お前はちゃんと本当の意味で相手を見てたか?
見えるものだけが全てじゃないぞ。
視えないものだってある。
見えても視えなくても、それに気付くのは難しいが、知ろうとする、解ろうとする事は出来るだろ?
お前はそれを自信持ってやってきたと言えるか?
静かに聞いていた。
どの言葉も心に響き突き刺さった。
何も言い返せなかった。
涙が止まらなかった。
「焦る必要はありませんよ。貴方が選んだ方です。
時間がかかろうが、少しずつ、でも確実に互いが歩み寄ろうと思っているのなら怖がる事はありません。」
貴方が選んだ方は、その程度の器しか持ち合わせていないのですか?
違う、あいつはそんな男じゃない。
こんな俺を好きだと言ってくれて傍に居てくれてる。
「言葉では何とでも言える。が、結局は行動が全てだ。」
いくら言葉で悪態を付いても、傍に居るとゆう行動に答えがある。
大切に大事に思ってるからこそ、声に出して言葉として伝えてきた。
「だからお前も、今度は自分から行動するんだ。
相手がそうしてきたように。間違ってもいい
行動したか、しないかが重要だ」
立てないのなら、私達が手を差し出しましょう。
前に踏み出す勇気が無いなら、私達が背中を押しましょう。
二人の差し出された手を取り立ち上がる。
そして後ろにまわった二人にそっと背中を押される。
「後悔しない選択をしてこい」
「貴方ならきっと大丈夫ですよ、行ってらっしゃい」
「っあの!お二人の名前を教えてください!」
顔を見合わせた二人。
そして、
「リッパーと申します」
「傭兵だ」
名前を言い終えると、目の前の泣いていた人物は消えてった。
現実に戻ったのだろう。
「未来のお前も苦労してんだな」
「みたいですねぇ。でも絶対手放しはしないから大丈夫でしょう」
「何故そう言い切れる?」
「愛しているからですよ、今も昔も、未来も」
「ふっ、そうかよ」
目が醒めた。
どうやら眠ってたみたいだ。
不思議な、でもどこか懐かしい夢を見た気がする。
「…後悔しない選択、か……」
夢で出会った人達の言葉を思い出しながら意を決して喧嘩した相手の部屋の前へ来る。
深呼吸をして扉を開ける。
「っジャック!話がある」