ボディーガードリンクとOLゼルダ(前編)目次
ストーカーとか、死の描写とかありますので、苦手な方はお気をつけください。
シリーズにしていたものを最新話までまとめたので続きから読みたい方は、下のリンクからどうぞ。
最初から通して読みたい方は、次のページへどうぞ。
「出会い」[jump:2]
「行動はいっときの恥」[jump:3]
「幼馴染」[jump:4]
「ストーカーさん達」[jump:5]
「リーバルの優しいお説教」[jump:6]
「ゼルダのアプローチ大作戦」[jump:7]
「リンクさんのお家」[jump:8]
「動き出す魔の手」[jump:9]
「因縁への決着」[jump:10]
出会い
製薬会社の研究開発部で働くゼルダは、研究室で薬品の匂いを漂わせながら今日も化学式と睨めっこをしていた。
そこに、同僚のプルアが研究室に入ってきた。
「チェッキー♪どう、進んだ?」
「順調です。あとは評価をするだけです!」
「流石〜!ねえこの後さ、新製品の開発の成功記念に久しぶりに飲みにいかない?」
ゼルダは酒があまり強くないので、普段はあまり飲みにいくことは少ないが、久しぶりにプルアと酒を飲むのも良いかと思い承諾した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ゼルダとプルアは、駅前の居酒屋で飲むことにした。
個室に案内され席に着くと、プルアはビール、ゼルダはカルーアミルクを注文した。
「「乾杯ー!」」
プルアはごくごくと音を立ててビールを半分ほど飲み干すと、テーブルに頬杖をつきながら話し出した。
「ゼルダさ、今年で29歳でしょ?結婚とか考えてる?」
「全く。だって毎日仕事が楽しいですし、第一、男性が苦手ですし・・・。」
「だよネー。でもそんなに美人なのにもったいないヨネ」
プルアの発言に、全然そんなことはないとゼルダは首を振る。
「全くそんなことはないです!」
過剰な謙遜は時に嫌味になるわねとプルアはふと思った。
小学校から大学までエスカレーター式の学校にゼルダとプルアは通っていた長い付き合いなのでお互いに知らないことはほとんどない。
プルアは本人には言わないが、学内でゼルダのファンクラブが密かに存在していたことも知っている。
そして、妹のインパがそのファンクラブの幹部だったことも・・・。
(もちろん気づかないふりをしていた。)
学生時代を思いかえせば、送り主は男女を問わず毎日ラブレターがロッカーに入れられていたり、下校中に後をつけられたりはまだ可愛いもので、筆舌し難い苦労をしていたゼルダを見てきた。
そんなこんなで、ゼルダが一度もまともに恋をしたことがないのをプルアは知っている。
「最近父がいい人はいないのか?と電話で頻繁に聞いてくるんです・・・。」
「ゼルダの家は会社を経営しているから後継ぎ問題があるよね。」
「そうなんです、ああどうしよう・・・。ところでプルアはどうなんですか?」
「もう長い間恋人なんていないわヨ。っていうか仕事が恋人って感じ?」
あははと空笑いしたあと、プルアとゼルダは盛大にため息をついた。
本気で恋人を作る気があるならばすぐにでも作れそうなのだが、いかんせん本人達が諦めているのでどうしようもない。
せっかくの気晴らしなのに空気がどんより重くなってしまい、プルアはこほんと咳払いをした。
「話変えよっか、そういえば最近、古代の遺跡が発見されたってニュースあったよねー」
「あ、そのニュースみました!!長期休暇がとれたら、一緒に見に行きません?」
その後、遺跡や研究の話で盛り上がり楽しく過ごした後、ゼルダとプルアは解散した。
ゼルダは過保護な父親を説得して住み始めた、駅から徒歩15分の一人暮らしのマンションに帰宅した。
通勤に便利だとか、花嫁修行のために生活力を身につけたいとか色々理由をこじつけ、なんとか念願の一人暮らしに漕ぎ着けたので、ゼルダにとっては城と言っても過言ではない。
オートロックの鍵を開けてマンションに入り郵便受けを確認する。
(まただわ・・・。)
郵便受けに入っていたのは、最近毎日のように入れられている手紙だった。
手紙の中にはゼルダを遠くから隠し撮りした写真が入っていた。
(会社からの帰宅の時だけでもボディーガードを雇った方がいいのかしら・・・。)
ゼルダは恐怖を感じたが、いつものことだと考えて、自宅の部屋に入った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
遅くなってしまったと思いながら、ゼルダは帰路を足早に歩いていた。
新製品の発表のプレゼンテーションをしていたら帰宅が遅くなってしまい、時刻は午前1時となっていた。
(最近、物騒だから早く帰りたかったのに、つい熱が入って会議が長引いてしまったわ・・・。)
駅から家まではそう遠くない。なるべく人通りの多いところを歩く。
(もう少しで家だわ・・・。)
気を抜いたその時、建物の隙間から手がにょろっとでてきて、ゼルダは路地裏に引っ張り込まれた。
「きゃ!?」
「やっと会えたね。ゼルダちゃん。」
知らない男が不気味な笑顔でゼルダを壁に押し付けていた。
「だ、誰?!」
「いつも電車で会ってるじゃん。俺、ゼルダちゃんに一目惚れしちゃったんだよね。恋人になってよ。」
「はあ?面識もないのに恋人になんてふざけてるんですか?」
「ちっ。いつも俺に気があるような目で見ていたくせに。」
男はゼルダの胸を鷲掴みにした。
「痛い、や、やめてください・・・。」
「声を出したらどうなるか分かってるよな?」
ゼルダは心の中で助けを呼んだが、恐怖で声が出せず身を固くさせた。
男が顔を近づけてゼルダにキスをしようとしている。
(ああ、こんなことなら、恋愛の一つや二つくらいしておけばよかった)
後悔と諦めから目を閉じると、無理やりキスされることはなかった。
「?」
恐る恐る目を開けると、男は倒れていて代わりにゼルダと同い年か少し年上くらいの男性が立っていた。
ゼルダは安堵のあまり地面に座り込んでしまうと、男性が手を差し伸べてきた。
「大丈夫?」
暗くてよく見えないが、端正な顔立ちをした青年だと分かった。
「あ、ありがとうございます。」
青年が味方だとわかると、ゼルダは我慢していた涙が溢れてしゃくりあげる。
「こいつは気絶しているだけだよ。すぐ近くに交番がある。行こう。」
「は、恥ずかしながら、体に力が入らなくて立てないんです・・・。」
ゼルダがそう言うと、青年は細身ながら力があるようで、軽々とゼルダを持ち上げてお姫様抱っこした。
「何から何まで・・・、ありがとうございます。」
交番にいくと青年は慣れているようで、証人として状況説明や被害のことを警察に説明し、ゼルダが被害届を提出することも手伝ってくれた。
ゼルダを襲った男は、通勤時によく同じ車両を利用していたようで、一方的に思いを募らせていたようだった。
男は逮捕され、青年はゼルダをマンションの前まで送ってくれた。
「大変だったね。でも大事に至らずよかった。」
路地裏では暗くてよく見えなかったが、青年は整った顔立ちに青い瞳をしていて、小麦色の髪色をした爽やかイケメンだった。
「本当になんとお礼をすればいいか・・・。」
「お礼なんていらないよ。あ、そうだ。俺、ボディーガードを仕事にしているので、よかったらどうぞ」
イケメンはゼルダに名刺を差し出すと帰っていった。
(どうしよう・・・。私、一目惚れしてしまったかもしれない)
今まで恋をしたことがなかったゼルダの、真夏の夜の初恋であった。
行動はいっときの恥
「はぁ・・・。」
ゼルダは今日何度目になるかわからないため息をついていた。
いままで耐えていたランチメイトのプルアももう耐えられないとばかりにテーブルをバンッと叩き抗議した。
「ちょっと・・・、せっかくの昼食なのに、そう何度もため息を吐かれちゃ、ご飯が美味しくなくなっちゃうじゃない!」
「プルア・・・、私、初恋をしたかもしれないです。」
「はあ?!」
まさかこんな日が来るとは予想外で、プルアは夢でも見ているのかと思い、思いっきり頬をつねった。
「いった〜、で、だれだれ?」
ゼルダは昨日あったことを話した。
「どうしましょう、すごくかっこいい人でしたから、きっともう恋人がいるに決まってます・・・。」
「そんなことがあったんダ・・・。っていうかすぐそうやって諦めるのゼルダの悪い癖よ!恋人がいるとはまだ決まってないでショ!」
ちょっとそれ貸してと言って、プルアはゼルダがもっている名刺を奪った。
===========================
ハテノ探偵事務所
リンク・リンク
〒XXX-XXXX
ハイラル ハイラル東区 XXX街 1-2 ハテノビル 2階
090-XXXX-XXXX
===========================
名刺には、ナンバーワンホストまたはスーパーモデルと言っても過言ではないほどのイケメンがスーツを着こなして写真に写っていた。
「こ、これは・・・。たしかにかなりイケメンね。」
「でしょ?やっぱり私なんかじゃ、見向きもされませんよ・・・。」
「ったく、ゼルダは自己評価が低すぎるのヨ。私に任せて。」
プルアは自分の携帯電話をとりだすと、ぴぴぴと音を立てながらさも当然のように誰かに電話をかけている。
「え?!ちょっとプルア何をしているんですか?」
すでにコール音がなり呼び出している様子で、ゼルダは相手が電話をとらないことを女神に祈った。
「あ、もしもし?プルアと申しますけど、こちらリンクさんのお電話であってマス?・・・あ、リンクさん?初めまして、どうも、ゼルダの友達のプルアです、昨日はお世話になったみたいで。」
ゼルダの祈りも虚しく、リンクさんはプルアの電話に出てしまったようだった。
「それで、ボディーガードをしていると聞いて、よかったら、ゼルダの話聞いていただけないかなと思いまして〜」
どうやら勝手に話を進めているらしくゼルダは焦り出した。
「・・・はい、はい、分かりました。じゃあ、今隣にゼルダいるから代わりますネ。」
「・・・ゼルダ、ボディーガードのサービス内容について詳しく説明してくれるっていうから、打ち合わせの日時決めるために、リンクさんとお話しして。」
ゼルダはこの世の終わりといった表情で、おそるおそるプルアから携帯電話を受け取る。
「・・・もしもし?」
『あ、ゼルダさんですか?リンクです。昨日はあの後、大丈夫でしたか?』
「大丈夫です。」
『そうですか、よかったです。では、ゼルダさんのご都合の良いお日にちをお伺いしたいのですが・・・。』
その後、ゼルダが心ここに在らずな状態で返答している間に話は決まり、今週の土曜日にリンクさんと会うことが決まった。
「もーー!プルアったら!!」
「ゼルダはもっと積極的にならなきゃ。行動はいっときの恥っていうでショ?」
(土曜日・・・。私まともにリンクさんと話せるかしら・・・。)
ゼルダは既に気が重くなっていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
忙しく仕事をこなしているうちにあっという間に金曜日の夜になった。
ゼルダは自分の部屋で、鏡を見て明日きていく服装をどうしようかと悩んでいた。
「服装どうしましょう。デートというわけではなく、ただの依頼主と請負人の打ち合わせだし、仕事の時の服装でいいかしら。」
普段あまりオシャレをすることもないので、ゼルダのクローゼットの中には、普段仕事に着て行くような服と、スーツしか入っていなかった。
ゼルダは、ブラウスとスーツパンツという至ってシンプルな格好で行くことにした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
次の日、ゼルダは期待と不安でなかなか寝付けず寝不足になってしまった。
(きちんと話せるかしら・・・。失礼のないようにしないと。)
ゼルダは待ち合わせの5分ほど前に到着した。
「ゼルダさん!」
リンクさんも早くきていたようで合流することができた。
「リンクさん、この前はありがとうございました。」
「ゼルダさんが無事でよかったですよ〜!さあ、立ち話もなんですから、あちらの喫茶店に入りましょう。」
リンクさんは、この前会った時は普段着を着崩していたが、スーツを着こなしていて笑顔が眩しくゼルダはすこし眩暈がした。
喫茶店に入り、席に座るとリンクさんは探偵事務所のパンフレットや料金体制などについて丁寧に説明している。
(リンクさんの声、なんだかすごく安心する・・・。)
ゼルダは寝不足だったためか、リンクさんの声で眠りの世界へと誘われていった。
・・・のどかな田舎町、煙突のある赤い屋根の木造とレンガの家、近くにある木と池
どこか見覚えのあるような景色・・・
気づけば、ゼルダは椅子に座り、本を読みながら机に突っ伏して眠っていたようだった。
「あれ、ここは・・・?」
ゼルダが周りを見渡すと知らない家のリビングにいた。
そこに青い目の小麦色の髪をしたおさげの6歳くらいの女の子が、ゼルダに話しかけてきた。
「お母さん、もう!起きて、はやくはやく。」
その少女の後ろに隠れていた、緑の目をした金色の髪の3歳くらいの男の子がゼルダに抱きついてきた。
「今日は食べ物をもちよって、村のみんなで鍋パーティーをする日だよぉ」
「え?え?私・・・。リンクさんと打ち合わせしていたのに。」
ゼルダは立ち上がると、外へ出ようとドアの方へと歩くが、足がもつれて躓きそうになる。
間一髪、男性に支えられて胸板に顔を押し付ける形になる。
謝罪しようとその人物をみてさらに驚いた。
「り、リンクさん!?」
「ゼルダってば、おっちょこちょいだな〜」
(今までろくに恋愛してこなかった女にこれはきつい・・・)
『・・・ん、ゼルダさん!』
はっと、気がつくとゼルダはリンクさんが説明をしてくれている間に、居眠りをしてしまっていたことに気がついた。
とっさに立ち上がって謝罪しようとすると、バランスを崩し倒れそうになる。
リンクさんが受け止めてくれて転ばずにすんだ。
(リンクさんの匂い、すっごくいい香り・・・ってそんな場合じゃない!)
「大丈夫ですか?」
「すみません、ちょっと寝不足だったので・・・。」
「とても気持ちよさそうに寝ていたので起こすのも悪いと思ったのですが、大丈夫そうでよかったです!」
失態を犯してしまいゼルダは赤面しつつも、その後、順調にボディーガードの依頼の件を進めることができた。
ゼルダは、リンクさんに平日の帰宅時だけボディーガードをしてもらうことになった。
幼馴染
日曜日の午前中、ゼルダは図書館で本を読んでいた。
ゼルダは、休みの日は家で過ごすか、図書館に来ていることが多い。
(・・・そろそろプルアと待ち合わせの時間だわ)
今日はプルアと、幼馴染のラフランの演奏会を見に行くことになっていた。
ゼルダとプルアは休日に会う時は、行きつけの喫茶店があった。
喫茶店『ドラグマイア』に到着すると、プルアは先に到着していたようだった。
プルアはゼルダに気づいたようで、ひらひらとゼルダに手を振っている。
「おっつかれ〜!ゼルダ、昨日はどうだった?」
プルアは、にやにやとゼルダの返答を期待しているようだ。
「無事、リンクさんにボディーガードをしてもらうことに決まりました。」
「ふーーん。で。彼女はいるって?」
「そ、それは聞けてないです・・・。」
「もー。そこは聞かなきゃ!もっと情報引き出していかなきゃダメよ!」
プルアはスプーンをプリンに刺すと、大きな口を開けて一気に半分ほど平らげた。
「だって・・・、私はただの依頼者であって、そんなこと聞いたら変なふうに思われてしまいます・・・。」
ゼルダは眉毛を八の字にしながら、汗のかいたメロンソーダーをストローでかき混ぜて、氷をからんからんと音をたてて、泡がしゅわしゅわしている状況を無情に眺めている。
(もー。頭はいいくせに、こういうことには不器用なんだから。)
プルアは窓の外を眺めると見覚えのある顔がこちらに歩いてくるのに気がついた。
「ゼルダ・・。ねぇ、あれって、リンクさんじゃない?」
「え?嘘・・・。」
リンクさんと、赤髪の小柄な女性がこちらに歩いてくるのが見えた。
「入ってくるわよ・・・。」
「ど、どうしましょう・・・。プルア、もう私たち出ます?」
ゼルダが焦っているうちに、リンクさんと女性は入店し、入口から近い席に案内された。
「よかった。気づかれていないみたいですね・・・。それにしても、美人な方・・・。きっと恋人ですね。」
「じゃ、私たちは気づかれないように出よっか。」
プルアとゼルダは、二人の視界に入らないように会計を済ませ、店を出ようとした。
「あ、ゼルダさんじゃないですか?!」
(ばれた・・・。)
「もしかして、あなたがリンクさん?こんにちは、私がプルアです。奇遇ね〜。私たちはもう出ようかなとおもっていたんですヨ。」
「えー。残念だな。もし時間があれば是非一緒にお話ししたかったのに・・・。」
プルアはゼルダの方をちらっとみると、ゼルダはうんうんと頷いている。
「そうなんですかぁ?それじゃ、ちょっとお邪魔しようかな。ね、ゼルダ?」
「え?・・・そ、そうですね。これも何かのご縁ということで。」
リンクさんが赤髪の女性の隣に座り、その向かい側にゼルダとプルアが座るように促される。
ゼルダは赤髪の女性がじっとこちらを伺い見ているのに気がついた。
「あ、こちらは、俺の幼馴染のミファーです。」
リンクさんがそういうとミファーさんは、にこっと微笑んだ。
「はじめまして。リンクとは5歳くらいの時に、実家の病院で知り合って以来、小学校から高校まで同じ学校に通ってたので、長い付き合いなんです。」
「今日は、怪我をしてしまったので、ミファーの病院で診てもらって、ついでに一緒にランチをしていたんです。あ、ミファーの実家は病院を経営していて、彼女は看護師なんですよ。」
「そうだったんですか!そんな貴重な時間をお邪魔しちゃってすみません。・・・それと、怪我したと聞いて、大丈夫ですか?」
「いえ、俺から呼び止めたので気にしないでください!
こういう仕事をしているので、軽い擦り傷はよくあるんです。」
「そうなんですね・・・。」
「こちらこそ、どこか行こうとしていたのに呼び止めてしまってすみません。」
「ああ。今日ね、私たちの幼馴染が音楽家なんだけど、そのコンサートに招待されていてみんなで観に行く予定なのヨ。」
「へぇ、コンサート・・・。楽しそうですね!俺は芸術関係に疎いので、興味深いです。」
「ところで、リンクさんって、とても魅力的だけど、恋人とかいるの?」
「プルアさんはお世辞が上手だなー。俺、そういうことに疎くて、全然なんですよ。いつも答えるとなぜか驚かれるんですけど〜。」
その後、15分ほど雑談をしたあと、そろそろコンサートの時間が近づいているのでプルアとゼルダは喫茶店を後にした。
「リンクさんって、結構気さくな方ネ〜!それにしても、よかったじゃないノ。さっきの子はただの幼馴染だって!」
「うーん・・・。そうですけど、ミファーさんはなんだか・・・。」
(リンクさんのことをただの幼馴染とは思っていないように見えた・・・)
プルアとゼルダは、コンサート会場の受付に着いた。
「ゼルダさーん!!」
インパが待っていましたと、ゼルダに猛烈なハグを食らわす。
「い、インパ・・・。苦しいです。」
「会いたかったですよ〜。姉さんばっかりゼルダさんと一緒にいられてずるい。」
インパは市役所の職員として働いているが今日は休日出勤だったようで、仕事帰りで直接コンサート受付で待ち合わせとなっていた。
その隣に、今日のコンサートの主役のラフランがいた。
「皆、今日はコンサートを聴きに来てくれてありがとう!」
「ラフラン、今日も素敵な演奏期待していますよ!」
ラフランとゼルダ達は、幼少からの幼馴染だ。
ラフランは昔から神童と呼ばれるほどに、楽器を手にすればどんな曲も弾きこなした。
ゼルダは幼き頃に母を亡くしたが、彼の曲を聴くと心の傷が癒やされた。
音大ではピアノとバイオリンを専攻し優秀な成績を収め、卒業後は有名なバイオリニストとして活躍している。
「えーと。今日のラフランの出番は・・・っと、4番目ピアノ『月の光』と7番目ヴァイオリン協奏曲『海の嵐』ですね!」
「私たち、あんまり遅くなるといけないから、ラフランの番が終わったら帰るネ」
「気にしないで。演奏後、音楽家同士の打ち上げがあるから。残念だけど、また今度みんなでまた会いたいな。・・・ねぇ、ゼルダ。」
「ラフラン、どうしました?」
「俺、しばらく海外に出張することになったんだけど、その前にゼルダと二人で話したいことがあるんだ。」
「そうなんですか!じゃあ、また、連絡ください。」
(ラフラン・・・。ゼルダについに告白するんダ・・・。)
幼馴染の遅すぎるアプローチに、最大の敵となりそうな『リンクさん』の存在を知っているプルアは、ラフランを少し気の毒に思いつつ沈黙をつらぬいた。
「じゃ、みんなまたね。」
ラフランは本番の準備のために、楽屋へと帰っていった。
「会場が開放されたみたいだし、私たちももう入っちゃおっか!」
ホールは広く真夏にはちょうど良い涼しさだ。
会場の真ん中の少し後ろの席に3人揃って座る。
それぞれの音楽家達の演奏を聴きいってると、あっという間にラフランの順番が回ってきた。
(やっぱり、ラフランの演奏は、なぜか心が癒されます・・・。)
ラフランの演奏を聴き終え、3人はゼルダのマンションに帰った。
コンビニで買ったおつまみとお酒で乾杯し、ゼルダの家で二次会となった。
「そういえばねー、ゼルダが好きな人ができたみたいヨ、インパ。」
「何処のどいつですか?そいつは。」
インパは心底悔しそうな顔で、プルアに問い詰める。
瞳孔が開いていて鬼気迫る勢いだ。
「インパ、危機一髪のところで彼には助けていただいたんです。私の一方的な片思いなんです。」
「私のゼルダさんに片思いさせるなんて・・・。」
インパはビールをぐびぐびと1缶飲み干す。
姉妹そろってアルコールに強いので、酔えねえとインパはつぶやく。
「もう、インパったら。明日仕事でしょう?」
「こんなことなら、私も薬学部に行けばよかったですー。うちの上司、さんざんこき使いやがってー。」
ゼルダはインパの酔っ払いに泣きながら抱きしめられる。
プルアは妹のゼルダ溺愛はいつものことだと助け舟をすることもない。
そんなこんなで二次会を終えて、ゼルダは2人をマンションの入り口まで送り、部屋へ戻ろうとすると、ゼルダは視線を感じた。
「?」
周りを見渡しても誰もいない。
明日も仕事だから早く休もうと思い、ゼルダは部屋へと帰っていった。
ストーカーさん達
[一人目]
僕は、ゼルダたんが子供の頃からずっと一緒に住んでいるコログ。
今はゼルダたんと二人暮らしをしている。
最近、ゼルダたんの様子がおかしいんダ。
なんかそわそわして、鏡を何度も見たりして、まるで恋をしているような・・・。
はっ・・・。もしやゼルダたん、僕という存在がありながら他の奴を・・・。
これは、確かめる必要がある。
フォーマルなドレスを新調し、鏡の前で可愛くポーズを決めているゼルダたん。
ゼルダたんの肩が僕の特等席だ。
今日は1日、ゼルダたんが浮気していないか調査することにした。
いつもどおり、幼馴染のプルアと一緒にお茶をしているゼルダたん。
その会話に頻繁にでてくる『リンク』という男。
ゼルダたんを一目惚れさせただと・・・。一体どんな男だ。
奴は、すぐに姿を現した。
こんなやつのことを好きだと・・・?
僕は認めない。
ゼルダたんの肩を降りて、僕はテーブル伝いに奴の前へ立つと。
中指を立てた。
すると、奴は僕のことが見えていたようで、底冷えするような目つきで僕をみていた。
「!!」(ぶふぉぉぉぉ)
目にも止まらぬ速さで奴は僕のことをビンタし、気づけば僕は床に突っ伏していた。
「あ、なんか、蝿がいたんで潰しておきました。」
奴はニコニコと何事もなかったような笑顔でそう言った。
こいつは危ない。ゼルダたんは僕が守らなければ・・・。
気を取り直して、ゼルダたんに同行すると、またもや敵が現れた。
インパがゼルダたんに猛烈タックルのハグをしたおかげで、胸の間に挟まれてしまった。
苦しい・・・。息ができない。
ようやく解放されると、すぐに演奏会のホールに入場することになった。
今日は散々な1日だった。
涼しいホールに癒しのメロディーに癒されながら、ゼルダたんの胸の中で僕は眠りについた。
[二人目]
「あの少女が、女神の力を引き継ぐ女かもしれない・・・。」
俺はイーガ団の下っ端。最近命じられている重大な任務がある。
それはとある女を殺すこと。
俺が監視しているのは、金髪、翠目をもつ女だ。
正直、あんなに可愛い女を殺してしまうのは勿体無い気がするが、俺たちの正義をまっとうするためには必要なことだ。
ピストルに弾を装着し、女のマンションの部屋に照準を合わせる。
カーテン越しに、女が着替えているシルエットが映る。
お・・・、カーデンの隙間から見えそう。
ひゅっ
間一髪、弓矢が的中するのを逃れた。
まさか攻撃を受けるとは思わず、咄嗟に距離をとる。
弓矢が飛んできた方向を確認するが誰もいない。
「ばーか。こっちだよ。」
奴は、今度は木刀で直接攻撃をしてきた。
顔を確認する。
「お、おまえは・・・。」
鬼神のような眼光の鋭さで俺を睨みつけ、気づけば喉元に木刀を突きつけられていた。
「命が惜しいか?」
「くそっ。」
ここは一旦、逃げるしかないと悟った俺は、煙玉で目眩しすると撤退することにした。
このことはボスに伝えないと。
[三人目]
朝の通勤で俺の大事な日課は”彼女”をコレクションすること。
最初は、綺麗な人だなと思ってただ眺めていただけだった。
そのうち、いつも俺と同じ時間帯に電車を利用していることが分かってきて、毎日彼女の写真を隠し撮りするようになっていった。
スマホのアルバムの中は、彼女でいっぱいだ。
写真は全身のものや、部分的なもの、横から撮ったものなどフォルダ分けして保存してある。
特に、彼女のむちむちの太ももがお気に入りだ。
しかし、最近彼女は変わり、今まではどちらかといえば野暮ったい服装だったのに、女性らしい格好もするようになっていた。
これはもしかして、彼女に男ができたということか・・・。
今日の彼女は、珍しくスカートを履いてきていた。
どんな下着をつけているんだろうか・・・。
俺はいつものように、カバンにスマホを固定して、満員電車のなか気付かれないように彼女のパンツが撮れそうな位置にカバンをずらして撮影する。
彼女は自分が写真を撮られているなんて全く考えていない様子で、あくびをして広告チラシなどに気を取られている。
俺は、いつもと同じ駅で電車を降りると、今日の収穫を拝見しようとした時、駅員に呼び止められた。
「あのー。あなたが隠し撮りをしていると聞いたので、一緒に取り調べ室にきてもらえますか?」
「は?」
一体誰が、情報を流したのか・・・。
俺の隠し撮りは完全に他人からはわからないはずなのに。
取調室で、スマホを提出する。
「うーん、あれ?特に怪しい写真はないですね。」
「でしょ?全く勘違いなんて失礼しちゃうなぁ」
こんなこともあろうかと、写真は全てSDカードの方に入れておいたのだ。いざという時に簡単に隠せるように。
取り調べ室を出て、隠しポケットの中にSDカードがあるか確認すると、大事にしまっていたそれがなくなっていた。
「駅員さん。さっきの人、こんなものを落としていきましたけど。」
[リンクさん]
俺には生前の記憶がある。
ずっと、ある女性を探していたが見つからず、諦めかけていた。
なにやら怪しい男が、路地裏で待ち伏せをしているように見えたので、しばらく監視をしていた。
すると、男に襲われかけていたのは、ずっと探していたあの人だった。
咄嗟に、男の首に打撃を喰らわせた。
本当はもっと痛い思いをさせてやりたかったが、あの人が怯えていたので、救助するのが先だった。
どうやら、姫様は俺のことを覚えていないらしい。
それでも、姫様が幸せならそれでいいと思っていたが、彼女の周りを調べると、彼女を脅かす存在があることがわかってきた。
姫様を脅かす存在は誰であろうと俺が排除する。
リーバルの優しいお説教
ミファーとランチを食べ終えて、彼女を病院まで送り届ける。
事務所に戻ろうと病院を出ようとした時、背の高い男とぶつかった。
「げっ。」
「なんだよ。そっちからぶつかってきておいて、謝罪もないのかい?」
長身で群青色の髪をかっこよく決めている男は、前世でも何かと突っかかってきたリーバルの転生した姿だ。
「で。最近は?探していた人は見つかったのかい?」
俺、ミファー、リーバル、ダルケルには、なぜか前世の記憶がある。
俺以外は、他種からの人への転生なのでぱっと見わからなかったが、皆、向こうから声をかけられれば、すぐにわかった。
「ああ。」
「それはよかった。存在するかわからない人をずっと探している君を、僕は心配していたんだよ。」
「そりゃどうも。」
嫌味な口調は転生したところで変わることはない。
リーバルに時間を取られている場合じゃないと俺は病院を出ようとする。
「・・・姫様に気持ちを伝えないのかい?」
「俺は前世で姫様を護りきることができなかった。俺はいつも、姫様が苦しんでいるところを隣で見ていることしかできなかった。最期の彼女は泣いていた。今度こそ幸せになっていてほしいと一目みたくて探していただけだ。彼女の幸せを見届けたら俺は彼女の前から消えるよ。」
「僕は、そういう君の回りくどい考え方が、前から気に食わなかったね。それに姫様もだ。」
「俺のことはいいけど、姫様を侮辱したら許さない。」
「そうやって、自分を犠牲にして他人を優先するところさ。役割に縋りついて自分には価値がないと思い込むところ。彼女は姫巫女という道具ではなく一人の人間なんだ。」
リーバルは国立医大を主席で合格しただけのことはあり、口が達者だ。
それでも、ただの嫌味ではないことはリンクにもわかった。
「流石、医者をしているだけのことはあって、弁が立つよな。」
「医者はただ患者の身体を治せばいいってもんじゃないんだ、本心を汲み取って適切にサポートしていくのが大事なんだよ。」
「なるほどな。じゃ、そろそろ業務時間なんで。」
リンクはリーバルと別れ、真夏のハイラル街を自分の事務所に向かって歩く。
ビルの2階の事務所に着くと、むさ苦しい身長2mはあるであろう巨漢が、小さいデスクで、ばりぼり煎餅をかじっていた。
「おう、相棒。ミファー元気だったか?」
この縦にも横にも図体の大きい男は、ダルケルが人間に転生した姿だ。
相変わらず食欲が旺盛で、本人曰く、人間に転生できてよかったことは極上ロース岩よりも美味いものを食べられることらしい。
リンクとダルケルは、食べることが好きなので、焼肉食べ放題や大盛り激辛カレーに挑戦したりと、休日に一緒にご飯を食べにいくこともある。
「ああ、元気だったよ。」
「相棒がランチしている間に、一つ依頼が来てたぜ。」
最近、ハイラル街では金髪長髪の碧眼の女性が狙われたり、誘拐される事件が多発している。
「これだと、姫様も危険だ・・・。早く情報を収集しないと。」
[ミファーの気持ち]
私とリンクは、前世の記憶を持っている。
私は前世はゾーラで、彼はハイリア人だったから、今回は同じ人間に生まれることができて私は嬉しかった。
5歳の時にリンクは、うちの病院にやってきた。
父さんの仕事を覗かせてもらっているときに、怪我をした男の子がお母さんに連れられてやってきた。
それがリンクだった。
治療で何度か通いにくるリンクに、待合室で話しかけたら、リンクも私のことを覚えていてくれた。すごく嬉しかった。
だけど、リンクは私ではなく、ここにはいない誰かをずっと見ていた。
わかっていたけれど、リンクは姫様のことをまだ想っているのだ。
ついに、姫様を見つけて喫茶店で話をしたけれど、私のことを覚えておらず前世の記憶はないようだった。
長年、リンクに片想いしてきた。
急にでてきた姫様に黙ってとられるほど、私は善人じゃない。
[怪しい影]
喫茶店『ドラグマイア』の店長は、ガノンドロフ・ドラグマイアだ。
強面な紳士といった雰囲気を醸していて、皿を拭いていても、料理をしていても様になる。
「店長」
学生アルバイトが店長に声をかけた。
「なんだい?」
「店長、急なシフト変更希望で申し訳ないのですが、私、テストが近くてシフトを減らしていただきたいんです。」
「学生の本分は勉強だ。全く問題ないよ。遠慮せず、今度はもう少し早めに言っておくれ。」
「ありがとうございます!」
強面な外見とは反対に、店長はとても優しいと評判だ。
その様子を店の外からみている怪しい者がいた。
「あのお方が、ガノンドロフ様・・・。前世の姿からはまるで変わってしまったらしいが、あの方で間違いない。」
「あの方の力をお借りすれば、わたしたちの理想の世界が手に入る。」
怪しい者が自分を狙っているなどは全く気付かず、店長は、フライパンでふわふわオムライスを作るのに夢中だった。
ゼルダのアプローチ大作戦
ゼルダは母のお墓参りにきていた。
白いカーネーション、ユリ、菊を花立に挿し、お線香を焚き墓前の前で手を合わせる。
「お母様・・・。」
ゼルダの母は、白い花が似合う人だった。
どんどん薄れていく遠い記憶の母の姿。
けれども最期に見た母の姿が、焼き付いて離れない。
4歳の時に、母を交通事故で亡くした。
教会の帰りに道をあるいていたら、急に黒い車がこちらに向かって猛スピードでゼルダに向かって走ってきた。
「危ない!」
母はゼルダを突き飛ばした。
ゼルダが衝撃で一瞬気を失っていると、近くには車と建物に挟まれて血を流している母の姿があった。
こりゃもう助からないな、と誰かがポツリと呟き、救急車のサイレンの音が鳴り響いた。
車を運転していた者は死んだ。母も死んだ。
病室で綺麗だった母に大きな傷跡が残った死体を見つめて、父とゼルダが二人きり。
大切な人を失い、父は仕事にかかりっきりになった。
そんなこともあったが、時の流れと共に、父娘も立ち直っていった。
「お母様、私、はじめて好きな方ができました。私の片想いなのですが、うまくいくかしら・・・。」
はっ、と気がつくとゼルダは自分のマンションの寝室で寝ていた。
まだ午前4時。起きるにはまだ早かったが、一度目が覚めてしまうとなかなか寝付けないので、リビングに座り色々考え事をすることにした、
今週からリンクさんにボディーガードをしてもらっている。
けれど、リンクさんはボディーガードをしている時は寡黙で話しかけづらい雰囲気なのだ。歩くときも隣ではなく数歩後ろを歩いている。
いつまでも受け身の姿勢じゃダメだとプルアに喝を入れられた。
ゼルダはメモを取り出して、どのようにリンクさんにアプローチしていったらいいかを書き出すことにした。
インターネットで検索して、『好きな人に振り向いてもらうための小悪魔テク』というサイトを参考にすることにした。
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小悪魔テク特集
1.自分から食事に積極的に誘う
2.おしゃれをする
3.さりげないボディタッチを多めにする
4.上目遣いで相手をみる
5.笑顔
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「参考になりますね・・・。今日、早速実践してみようかしら。」
ゼルダは段ボールに入った何かを取り出した。
中には後ろにリボンがついた紺色のスカートと、白いフリルブラウスが入っていた。
「サイズもぴったりです!髪型もちょっと変えてみようかしら。」
ゼルダの髪は量がとても多いのでいつも同じような髪型にしていたが、三つ編みは得意なので、後ろ髪を三つ編みでまとめてお団子にした。
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「ゼルダ、なんか今日おしゃれじゃん。」
「こほん。プルアの助言に従って、受け身なままではダメだと思いまして・・・。」
(ゼルダがやる気を出したのはいいんだけど、職場の男性たちもそわそわしているわ・・・。)
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終業後
改札口を出るとリンクさんが待っていた。
「ゼルダさん、お疲れ様です。じゃ、参りましょうか」
「あ、あのリンクさん・・・。ちょっと」
ゼルダはもじもじしながらリンクさんを上目遣いでみた。
「どうかしましたか?」
「私、駅前のご飯屋さんで行ってみたいところがあって、中々一人だと外食することがないので、もしリンクさんの時間が大丈夫ならばの話なのですが・・・。」
「業務中に食事はちょっと・・・。」
「そうですよね・・・。」
「・・・今日だけですよ。」
あからさまに落ち込むゼルダを見かねてリンクさんは渋々OKしてくれた。
駅前の『息吹の里』という和風の定食屋に入る。
メニュー表を開くと、美味しそうな料理がたくさん並んでいる。
「えーっと、肉おにぎりと、きのこオムレツと、串焼き魚・・・。あとはデザートにたまごプリンを食べようかしら。」
ゼルダは店員を呼ぶと、一人で食べ切れるのか分からない量を注文する。
「ゼルダさんって結構食べる方なんですか?」
「いえ、私一人じゃこんなに食べられませんよ。リンクさんも食べてください。そうでないと、食べ残してしまって勿体無いです。」
「ゼルダさん・・・。それじゃ、ゼルダさんが食べ残したものを頂きますね。」
そう言って、リンクさんは、ゼルダが食べるところを見ている。
「リンクさんは趣味ありますか?」
「食べるのが好きなので、よく同僚と一緒に大食いチャレンジしていますね。」
「まぁ!食べても太らないなんて、羨ましいです。」
ゼルダは、肉おにぎりを1個、きのこオムレツを半分、串焼き魚を半分ほど食べ終わると、ごちそうさまですといって、デザートのプリンに手を出した。
「リンクさん、食べ残しなので、無理に食べなくていいですよ。」
「いえ、全然大丈夫です。いただきます。」
そういうと、リンクさんは、ゼルダがまだプリンを食べているうちに全て平らげてしまった。
その後、ゼルダはマンションの前まで送ってもらい、リンクさんと別れる。
マンションの玄関を通り、エレベーターに向かおうとした。
「このビッチが!やっぱりイケメンが好きなのかよぉ!」
ゼルダを待ち伏せしていたのか、刃物を持った男がゼルダに襲い掛かろうとした。
「きゃあ」
「ゼルダさん!」
リンクさんは駆けつけて、男の刃物を蹴り落とすと、縄で男を羽交い締めにしてしまった。
すぐに警察に連絡をして被害届をだし、マンションに戻ってきた。
「リンクさん・・・。危機一髪のところを助けていただいてありがとうございます。あの、ちょっと部屋に寄っていきませんか。一人でいるのが怖くて。」
「そうですね。一度拝見させていただいていいですか。」
ゼルダはリンクさんを自分の家に招く。
「こ、これは・・・。」
ゼルダの家は、強盗に入られたのかぐちゃぐちゃになっていた。
何者かが、部屋に侵入した形跡があった。
「ゼルダさん、今日は別のところに泊まったほうがいいです。」
「ですが・・・。」
「俺の家が近いですので、引っ越し先が決まるまで、しばらく利用してください。」
リンクさんのお家
「ここがリンクさんのお家ですか?」
ゼルダは、リンクさんに案内される家がてっきり一人暮らし用の賃貸だと想像していたため、まさか一軒家に案内されるとは思っていなかった。
「両親はもう亡くなっているし、妹はもうとっくに結婚したから、ここで一人暮らしをしているんです。」
「いいんですか?お邪魔しちゃって・・・。」
「どうぞ。自分の家だと思ってくつろいでください!」
「お邪魔します。」
入ると洋風なお家で、綺麗に整頓された家だった。
キッチンがありその奥に4人掛けのダイニングテーブル、テレビなど、よくある風のリビングだ。
よく整頓されていて、あまり生活感はないが、家族写真が置いてあって、まだ幼い頃のリンクさんと妹さん、ご両親が写っている。
「リンクさんのお部屋はどちらですか?」
「2階の奥の部屋です。ゼルダさんには2階の妹の部屋か、1階の客室を使っていただこうかと思うのですが、どちらがいいですか?」
「すみません、じゃあ1階を使わせていただきます。」
ゼルダは、リンクさんの隣の部屋を使うのは気が引けたため、1階を希望した。
「まだ、ゼルダさんの部屋持ち物が置いてあると思うので、持ってきますので、鍵を貸してもらっていいですか?」
「あ、はい、これです。すみません、何から何まで・・・。なるべく早く次の物件を探すので、それまでよろしくお願いします。」
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リンクは自分の部屋に入り鍵をかけた後、ため息をついた。
(あのマンションに一人でいさせるのは危険だと思って、とりあえず自分の家に連れてきてしまったけどこの状況は辛いな。)
(動揺しっぱなしだったけど、感情を悟られない訓練を積んでいて良かった・・・。)
金髪碧眼の女性が誘拐されている事件の聞き込み調査をしているが、中々手がかりが見つからない。
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ピロンピロン・・・
スマホのアラームが鳴り、ゼルダは目を覚ました。
「・・・ん?ここは確か・・・」
そういえば昨日から少しの間、リンクさんの家に泊まらせてもらっていたのだったとゼルダは思い出した。
部屋の外のキッチンの方から何やら音がするので、リンクさんはもう起きているのだろう。
とりあえず出勤するために、身支度を整えて部屋を出ると、ダイニングテーブルには美味しそうな料理がならんでいた。
(美味しそう・・・。)
ゼルダが立ち尽くしていると、キッチンからリンクさんが出てきた。
「おはようございます!ひ・・・いえ、ゼルダさん。朝ご飯二人分作ったので良かったら食べていってください!」
ふわふわのオムレツと煮干し出汁の味噌汁、きのこおにぎりが並べられていた。
「美味しいです!私、支度が遅くて朝ごはん抜くことが多いので、こんなにちゃんと食べること初めてです」
(優しくて、容姿が良くて、強くて、料理もできるのか・・・。)
「良かったです!喜んでもらえるなら、毎日作るので食べてください。」
そして、リンクさんは私を会社の前まで送り届けてくれたのだった。
動き出す魔の手
「はぁ?!リンクさんと同棲ってこと?展開早っ。」
プルアとゼルダは研究室で作業の10分休憩の時間に、コーヒーを飲みながら話をしていた。
「同棲じゃないですよ!引っ越し先が決まるまで、泊まらせていただくことになったんです。」
「引っ越さなくていいじゃん、もうリンクさんと同棲しちゃえば。」
「もう、冗談はやめてください。そんな図々しいことできませんよ。」
リンクさんとゼルダはただの、ボディーガードと依頼主の関係なのだ。
早く引っ越し先を探さないとと思い、ゼルダは賃貸情報を検索している。
「ゼルダさん、ちょっと用があるから来てもらえないかな?ガッツガエルの効能を利用した栄養剤の開発についてなんだけど・・・。」
上司はゼルダを会議室に呼び出した。
「開発の試験として、社員にも試飲してもらっているんだ。これを飲んで感想を聞かせてほしい。」
「あぁ、これ、滋養強壮を高める作用があるんですよね。わかりました。」
ゼルダは黄色い液体を一気に飲み干した。
上司が怪しい笑みをこぼしていることにも気づかずに。
「!」
かなり強力な薬なのか、ゼルダは全身が熱くなり発熱した。
特に下腹部がむずむずして、ゼルダは赤面せずにはいられなかった。
「あなたは本当に無防備ですね。ほら、効果を聞かせてくださいよ。とりあえずここじゃ始末するにも人目が多いので、あなたには我らのアジトに来てもらいましょう。」
「あ、あなた、上司じゃない・・・。誰?」
「我らイーガ団の変装は完璧だからな!暴れられるとちょっと面倒だ。眠ってもらうぜ!」
ゼルダは催眠作用のある薬を嗅がせられて、視界が真っ暗になり、眠りについてしまい、大きい箱に入れられる。
「よし、じゃ、運ぶか。」
ガラガラガラ・・・
「ん・・・。その荷物は、ワッツ?」
「あぁロベリー。研究物資だよ。」
「そっちは、イグジットの方なのだが・・・。さては、研究成果を持ち逃げしようと・・・。」
「・・・死にたくなかったら大人しくしてな。」
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「ダルケル、調査の進展は?」
「それが、どうやら被害者が消息を絶った場所からは、いつも同じ薬品が見つかった。黄色い粉のようなものだ。薬物検査係に調べてもらったら、催淫作用があるらしい。」
ピロンピロンピロン・・・
リンクの携帯電話が鳴った。
「リンクさん!プルアだけど。ゼルダが攫われたわ!」
(姫様・・・!!)
リンクが急いで会社へ向かうと入り口の前にプルアがいた。
「上司に変装した男がゼルダを攫っていったの。怪しい大荷物に気がついて、ロベリーが声をかけたんだけど、止めようとしたら攻撃されてロベリーも軽傷を追ったわ。」
「そいつは、どこにいった?」
因縁への決着
「女神ハイリアは、表では善人のように扱われているが所詮、偽善者!」
「今まで忠誠を尽くしてきたものに対し、邪魔になれば追放する。民族の誇りを粉砕し、一族はバラバラになった。」
「ハイリアの地に生きるもの全てを愛すると言っておきながら、魔物を排除する。
太陽、水、土、風、全ては、女神に選ばれしものに支配され、我らは薄暗い闇へと追放された。」
地下の奥底で大量の影は、祭壇の前で祈っていた。
その中には、魔物、人、忌み嫌われる動物、女神への憎しみを募らせた者達が集結していた。
祭壇に捧げられてるのは、ゼルダ。
そしてもう一人の男だった。
「この世に存在するもの全ては、女神であろうと、終焉の者であろうと、一人の古代の神がお創りになられたもの。いわば、人も神も魔物も、全てはキョウダイの様なものだった。それなのに。」
「女神ハイリアは我らを愛さない。だから古代から我らの味方である、ガノン様の魂を覚醒させて、理想の世界を創り上げるのだ。」
祭壇の前に立つ教祖は、大きな鉾を高く持ち上げた。
その矛先にはゼルダが眠っていた。
「女神の血を、ガノン様に捧げよ。」
「待ちな!!」
地下の中に、凛とした張りのある女の声が響き渡った。
「何?部外者だと?」
「旦那を返せ!!」
女は腕が立つようで、一人で大量の敵を相手に、障害をものともせずになぎ倒していく。
祭壇の前まで、女はたどり着いた。
「どんな前世を持って因縁に巻き込まれようとも、旦那は今は穏やかに暮らしているんだ。巻き込まないでもらいたい。
それに、私の親友のこと、絶対に許さない。」
「たとえガノン様の奥様であろうとも、邪魔をするのであれば、タダじゃ済みませんよ?
そうそう、ゲルド族の呪いだって、元はと言えば女神の嫉妬が起源だとも言われているじゃないですか。」
教祖はニヤニヤと笑顔を浮かべている。
「いつまでも過去のことを根にもっているな!
地上にでてみな。今なら、話せばわかるような人間達ばかりだ。」
「お前に何が分かるんだ!!生まれてきて、祝福などされたことのない我らを、醜いと嘲笑いされ、この薄暗い地下で生きていくしかない我らの気持ちがー、お前に、わかるのか。」
教祖は姿を変え、夜光石を散りばめたような巨大な怪物と成り果てた。
「神が、全てが、憎い。救いのない我らをこの世に生み出した神が。世界を作り変えなければ、我らには光はない。」
おおおおーー、と信者達は叫び、地下に怒号が鳴り響いた。
「姫様!」
「…くると思っていたよ。もう一人の因縁の者。勇者リンク。」
「お前が女神の力を受け継ぐ女を探していたのは知っていたから、利用させてもらったのさ。」
「くそ。」
「そこから動けば、女の首が飛ぶぞ?」
教祖は鉾をゼルダの首へと突きつける。
「やめろ…、姫様…。」
「ぐぁぁああああ?!」
突然、教祖は苦しみ出した。
男、ガノンドロフは目を覚ました。
「ハイリアと我は、光と闇の存在であった。もとは一人の神から創り出された存在。
もう面倒な争いはやめることにしたのだ。皆、自由に好きな場所で生きると良いのだ。」
ガノンドロフは、ゼルダを発光させ教祖へと光を浴びせる。
「ま、まぶしいぃぃ…。やめてくださいぃぃ。ガノン様。」
「闇の中でしか輝くことの出来ない存在でも、光を浴びて生きたいのならそうすれば良い。暗い過去を忘れることは、自己を縛り付けていたものの解放となるだろう。」
「魔物の国もニンゲンの国もある。この広大な土地を前に争う必要などどこにもないのだ。お互いが領分を弁えて暮らしていければ、何も争わずに済む。」
ゼルダの光は洞窟を覆い、信者達の怒りを鎮めた。
「…あれ?私、ここは一体どこなの?」
ゼルダも目を覚ました。
「ごほん。実はオレは、ハイラル国家の警察官なんです。ゼルダさん、嘘をついていてすみませんでした。」
「長年、この事件を調査していた。魔物族、イーガ団、神々の因縁全てに決着をつける時がきたようです。
ハイラルの政治家達は、今まで迫害してきた者達へお詫びをして、これからは良い関係を築いて行く方針をとっています。
お手数ですが、皆さん、署まで同行していただけますか?」
信仰するガノンを前に、信者、教祖は大人しく同行した。
ハイラルは大昔前とは違う。
法律が改正され国家の独占はなくなり、魔物も人間も殺してはいけないという決まりになった。
技術は発達して、食糧不足に悩まされることもなく、魔物達も自分達の国を作り、もっぱら得意分野の、鉱山業や鉄鋼加工業を営むようになっていった。
シーカー族とイーガ族も和解し、多くは技術者の道へと進み、国から迫害をされることももうない。
赤髪の長身女性を見て、ゼルダはどこかで見たことがある様な気がしていた。
「私たち、どこかであったことあります?」
「ああ私はウルボザ。あなたがまだ幼い頃、あなたの母と私は親友で、よく会っていたね。」
「お母様の…。」
「ずっと会いに行きたいとは思ってたんだ。けど、親友を守れなかった私に資格はないと思っていた…。」
「そんな。」
「ウルボザさんが申し訳なく思う必要はないです。お母様は私を守ろうとして亡くなったのです。」
「でも」
「もういいのです。憎しみは何も生まないと、今回の事件は教えてくれました。ウルボザさんに一つお願いがあるのですが…」
「なんだい?」
「連絡先を教えてください。時々でいいから、お話出来たらいいなと思って。」
「実は、これまでも何回か会ってたんだよ。ゼルダは気づいてなかったけど。」
「え?!」
「私の旦那は、喫茶店『ドラグマイア』の店長なんだ。そこに客として来ていただろう?
私も時々顔を出すから気づいてたんだ。」
まさか自分の通っていた喫茶店に、因縁の強い人物が経営していたとは、ゼルダは驚いた。
「もう神の力を求めるものに、狙われることもないだろう。」
ガノンドロフ店長は言った。
「絶対的な力をもつものなど、この世界では凶器となる。だからトライフォースはどうにかしないといけない。」
「ゼルダさん!お待たせしました。後のことはお任せください。
今日はとりあえず解散して、帰りましょう。」
帰り道、この短期間で色々なことがあったなぁとゼルダは思った。
「あ、もう狙われることもないので、もうあのマンションに帰ってもいいかしら?」
「それはダメです!あの部屋はストーカーに包囲されていますから、新しい家が見つかるまでは俺の家に居てください。」