we used to be 7「暖炉の前」
ぱちぱちと、火の爆ぜる音がして、炎の作る熱と灯りが、暗く寒い部屋に結界をつくる。
この結界から出てしまうと、たちまち怖い闇がやってきて、飲みこまれてしまうんだと、よくわからない脅しのような話を聞かされた記憶がある。
あれは、何のことだったんだろう。そもそも、誰が言っていたのだったか。
暖炉の前に敷かれた、毛足の長いラグに寝そべって本を読んでいた僕は、ふと、傍らで椅子に掛けて同じように本を読んでいたおじさんを見上げた。
寒い夜の、いつもの光景だ。
「ねぇ」
寝転がったまま声をかけると、おじさんは本から視線を外して僕の方を見た。
その表情は至極穏やかだ。
「どうした」
「おじさん、本を読むときだけ眼鏡をかけるの?」
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