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    k i r i

    練習練習。

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    グ目線の1日目。

    AWAY,AWAY,AWAY from HOME グレイグ1日目1日目

    困った。非常に困った。


    自分は今、町から離れた湖畔のコテージに向かって車を走らせている。
    ただでさえ田舎の町から更に郊外に行ったところだ。
    そこのコテージに滞在する客からメイド派遣の依頼があったと旅行会社から連絡があった。
    聞けば客はデルカダールから来たビジネスマンだという。
    デルカダールと言えば有名なIT企業の本社が軒を連ねるなんだかすごいハイテクの先進国だろう。意味はよくわからないが。
    そんなところのエリートビジネスマンがなんでまたこんな田舎に?
    まぁどんなお客様でも心を込めてお手伝いするのが当社のモットーである。
    である、が…

    「まいったな」

    思わず独り言ちる。
    当初派遣する予定だった女性が、昨晩急に産気づいたのだ。
    予定日よりずいぶん早い。
    幸い出産は無事に済み、母子ともに健康であるが、困ったことになった。
    彼女はうちに所属する従業員の中で唯一デルカダール語ができる人材だったからだ。
    他に手が空いているものもなく、仕方なく所長である自らが赴く羽目になってしまった。

    「…まいったな」

    再度つぶやく。
    若い頃は現場に赴くことも多々あったが、所長になってからは現場からはとんと離れてしまった。
    仕事内容は掃除、洗濯、食事の用意、買い物。
    他はともかく、料理に一抹の不安がある。
    ここ何年も自分の食べるものしか作っていない。しかも適当だ。
    大丈夫だろうか。味にうるさい依頼人だったらどうしよう。

    目的のコテージに着き、車を降りる。
    玄関の呼び鈴を鳴らす前に、笑顔の練習をする。
    愛想さえ良くしていれば、大抵の人間とはうまくいくものだ。
    緊張しながら呼び鈴をならすと、暫くしてドアが開いた。
    笑顔、笑顔。

    「……」

    開いたドアの向こうには、長い金髪の男が立っていた。

    「……こ、」

    こちらが何か言う前に、ドアは勢いよく閉ざされた。

    「……」

    愛想のいい笑顔を作っていたつもりだったのだが、押し売りと勘違いされたのだろうか?
    再度呼び鈴を鳴らす。
    と、先程より警戒した様子で、そっとドアが開かれた。
    金髪の男は、その細い目にこれでもかというくらい不信感を露わにしている。
    再びドアが閉められる気配を感じて、俺は慌ててドアに足を挟んでそれを阻止した。

    「待て待て待て!俺は『くまさん家政婦紹介所』から来た痛てててて」

    俺が自己紹介する間にも、容赦なくドアがぎりぎりと閉められる。
    足が、足が痛い。折れる。
    こいつに人の心はないのか。

    「お前が、滞在中のメイドを頼んだんだろう!来る予定だったものが急遽お産で来られなくなってしまったのだ!怪しいものでは決してない!」

    必死に訴えるも、男はドアを閉める力を緩めない。
    予想していたが、言葉が全く通じていない。

    それでも何度も訴えを繰り返すうちに、自分の必死さが伝わったのか男はドアを閉める力を緩めた。
    ホッとした俺の姿を改めて上から下まで眺め、男は眉間に皺を寄せた。
    彼が呟いた言葉の意味は分からないが、間違いなくこれは歓迎されていない。

    「まぁまぁ、そう怒るな。若いメイド服の娘でなかったのは申し訳ないが、1週間の辛抱だ」

    男は心底嫌そうな顔をした後、鋭く舌打ちして、家の中に入っていった。

    「…不測の事態とは言えご期待に沿えなかったのは申し訳ないが、初対面の人に舌打ちするのはどうかと、俺は思うぞ」

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