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    練習練習。

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    ホ7日目。取り敢えず1週間経った。あと少し。

    AWAY,AWAY,AWAY from HOME ホメロス7日目7日目

    眩しい。

    瞼の外が明るい。もう朝なのか。
    その眩しさから逃げようと寝返りを打とうとして、背中に当たる感触がいつもと違うことに気が付いた。
    ゆっくり目を開くと、最初はぼやけていてよくわからなかったそれが、視界がはっきりするにつれ寝室の天井でないことが分かった。

    (リビングか…)

    また本でも読みながら寝てしまったのか。
    まだぼやける視界を慣らすように何度か瞬きしてからゆっくり体を起こす。
    やはりリビングだ。
    なんだか頭が重い。二日酔いか?
    そうだ、昨日はレストランでワインのボトルを空けたんだった。
    途中から記憶がないが、おそらくあの男が連れ帰って来てくれたのだろう。

    (喉が渇いた…)

    取り敢えず水を飲もうとソファーから下りようとしたところで背後から声がした。
    振り向くとそこには予想通りの男が立っていた。
    手には水の入ったグラスを持っている。
    それはいいのだが、

    「おいグレイグ。なんで全裸なんだ貴様は」

    寝起きの不機嫌さも相まって我ながらドスのきいた声が出た。
    オレの視線に自分の格好を思い出したのか、腰にタオルを巻き付けただけの男は慌ててなにか言い訳を始めた。
    『着替え』、『洗濯』、否定形からの『乾燥』。
    要は服を洗っていて乾燥がまだ終わっていない。着替えもないと。そういう話か。
    全裸な事情は何となく分かったが、そもそも何故こんな朝っぱらから貴様は着替えだの洗濯だのと言う事態になっているのだ。
    今日はここに来る前に溺れた子犬を助けるために川にでも飛び込んだのか。
    必死に言い訳を続ける彼を横目に時間を確認すると、いつもより随分早い。

    「もしかして、泊まったのか?」

    酔って寝てしまった自分を連れて帰った後、こいつは帰らずにそのままここに泊まったと言うことか。
    …帰れない時間でもなかっただろうに。無精者め。
    その後も必死に言い訳を続けていたグレイグだったが、乾燥機の終了音が聞こえると、一目散にランドリールームに走っていった。
    よほど動揺していたのか、水の入ったグラスを持ったまま。
    それは置いて行けと思ったが、全裸で戻られても仕方がないので水は自力でキッチンまで行って調達した。







    グレイグの作ったスープを食べている間も、奴はずっと何か言い訳をしていた。
    お前が無精して帰らなかったのも全裸の理由ももう分かったからそろそろ黙れ。
    相変わらずキノコがメインのスープを飲み終えたタイミングで、グレイグが改まった様子で何か言った。
    『いつも』、『なのか』、?
    言っていることは聞き取れたが、意味が分からない。
    グレイグにも分かる言葉でそう返すと、奴はもごもごとなにか言い淀んだ。
    今度は意味が分からないどころか全然聞き取れない。

    「何を言っているか分からん。言いたいことがあるならせめてはっきり話せ」

    もう一度言ってみろ、と促すと、グレイグは意を決したような顔で大きな声を出した。
    『キスを』、『するのか』?

    「はぁ?」

    思わず間抜けな声が出たが、これは致し方ないだろう。
    突然何を言っているんだお前は。
    目の前の男の言っていることの意味が分からず、その顔を見つめていると、男は今度は何かを『していない』、と必死に訴え出した。
    ますます何が言いたいのか分からない。

    「さっきからお前は何を言っているんだ」

    なんだかこいつとは、例え言葉が通じたとしても分かり合えない気がした。








    朝の全裸事件以降は特に大きな事件もなく、いつものように仕事を少しこなし、昼にはグレイグの作ったキノコ料理を食べ、午後からはリビングのソファで寝転んで本を読んでいると一日はあっという間に過ぎていく。
    日が傾いできたな、と思ったらグレイグに声をかけられた。
    そろそろ帰る、と、言ったか。
    もうそんな時間か。
    オレのいるソファまでやってきたグレイグは、キッチンの方を指しながら何か言っている。
    『夕食』、と『朝食』か。
    どうやら今日の夕食だけでなく明日の朝食も用意したと言っているらしい。

    「なんだ。サービスのつもりか」

    どうせキノコ料理だろう、という言葉は飲み込んだ。

    続けて鍵の受け渡し方法について説明しているが、そんなことは旅行会社と打ち合わせ済で、言われなくても分かっている。
    体を起こすと、グレイグにメモを渡された。
    一週間前は分厚かったこのメモ帳も随分薄くなったな。
    どうでもいいことで感慨にふけっていると、グレイグはオレにペンを手渡しながら『何時の』『飛行機』と、訊いた。
    聞いてどうする、と返そうと思ったが、帰りの飛行機の時間を聞いてすることなどひとつだろう。

    「まさか、見送りに来るつもりか?」

    驚いてグレイグの顔を見上げると、奴はにこにこと笑っていた。

    見送りになど、来なくていいのに。
    戸惑いながら、明日の飛行機の時間と便名を書いて渡す。
    朝、ここの鍵の受け渡しをしてからになるので、そんなに早い便ではないが、逆にその時間はこの男は仕事中だろう。
    グレイグが渡したメモをポケットにしまうのを横目に、俺は玄関に向かった。
    今日も駅まで送ってやろう。

    最後のサービスだ。



    車の中ではいつもグレイグが一方的にしゃべっている。
    窓の外を指差してあれがああだこれがこうだと説明しながら。
    オレは黙ってそれを聞いているだけだ。
    が、

    「今日はやけに静かだな」

    助手席におとなしく座っている男に声をかけると、こちらを見ていた男が慌てて目を逸らした。
    ここ数日、こいつはやけにオレの顔をじっと見てくる。
    気が散るからあまりじっとみるなと何度か言ったが、気が付くとまたこちらを見ている。
    無意識らしいのでもはやそれをやめさせるのは諦めたが、どうやらまた注意されたと思ったのだろう。

    気まずさを隠すようにひとつ咳払いをしてからグレイグが口を開いた。

    『一日で』『この時間が』『好き』

    グレイグの言葉に、思わずピクリと反応してしまう。
    一日の終わり、このドライブの時間が好きだと言っているのか。

    「そうか。オレは一日で、この時間がいちばん嫌いだ」

    オレは前を見たまま小さく呟いた。

    この時間の何が楽しいと言うのだろうか。

    死んでも口には出さないが、自分はこの時間
    が嫌いだ。

    どうしようもなく寂しくなるから。
    お前が帰って行ってしまうのが。
    振り向かず去っていくお前の後ろ姿を見るのが嫌だ。
    オレの知らないところへ帰るのか、と。
    そこにはお前を待つ誰かがいるのか?
    もしかしたらお前に似た子供の4人や5人いるのかも知れないな。
    そんなことを考え出すと、眠れなくなる―――

    そこまで考えて、はっと我に返る。
    これではまるで、隣の男に懸想しているようじゃないか。
    急に恥ずかしくなって、顔が熱くなるのを感じた。
    隣の男はまだ何か話しているが、全然頭に入ってこない。

    いつものようにどうせ大したことは言っていないだろう。







    駅前へ車を停め、運転席から降りた。
    いつもは車を降りずに運転席から見ているだけだが、これが最後なのでちゃんと見送ってやる。
    改札の前まで来たところで、グレイグがこちらに向き直った。
    そして別れの挨拶と、見送りに行けたら行く、と言った。いつもの笑顔で。
    その笑顔に、胸のどこかが抉られるような感覚がした。

    「…お前は寂しくはないのか」

    我ながら情けない声だった。
    聞き取れなかったらしく、グレイグがその巨体を屈めてオレの顔を覗き込んだ。
    碧色の瞳がこちらを見ている。

    「なんでもない。さっさと行け」

    いたたまれなくなり、しっし、と追い払うような仕草をする。
    グレイグは困ったような顔をした後、再び別れの言葉を口にした。
    そうしてその大きな体は改札を通り、自分から遠ざかっていった。
    もう振り向かない。

    ほらな、一日で、この時間が一番嫌いだ。
    お前が振り返らず遠くへ行くのを見るのが。

    それでも、目を逸らすこともできない。





    グレイグ。





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