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    k i r i

    練習練習。

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    再会の夜。
    幾度となく次で終わる終わる詐欺を繰り返しましたが、本当に終わりです!

    冒頭と最後のやつはめいさくえほん「しろいうさぎとくろいうさぎ」です。
    黒兎と白兎が結婚するんだから黒鷲と白鷲も当然結婚するよね!

    AWAY,AWAY,AWAY from HOME“What’s the matter”(ねえ、どうしたの?)
    “Oh, I’m just thinking.”(ちょっと考えごとをしてたんだ)
    “What are you always thinking about”(いつもなにを考えているの?)
    “I’m just thinking about my wish.”(ぼくのおねがいごとのことさ)
    “What is your wish”(きみのおねがいごとって?)







    慣れない場所で慣れない格好をした自分の前に見慣れない料理が次々と運ばれてくる。

    一皿ごとに『これは なんとか・で・なんとか です』、だとか『なんとか・の・なんとか です』とか説明されたが、取り敢えず魚だな、とか肉だな、くらいしか分からない。
    目の前の男は席に着いてからというもの一言も発せず、黙々と料理を口に運んでいる。
    彼が醸し出す空気の重さに、折角の豪華な食事の味も分からない。

    「その…さすが、都会は違うな。食べたことのないものばかりだ」

    意を決して話しかけてみたが、彼はこちらをちら、と見て だろうな、とだけ言ってまた黙々と食事を続けた。

    「…なぁ、ホメロス、いい加減機嫌を直してくれないか」

    せっかくまた会えたのに、一言も話さず、目も合わせない。これでは悲しすぎる。

    「昼間は、確かに…、ちょっと目立ってしまったが…」
    「ちょっと?」

    俺の言葉に、ホメロスの眉がぴくりと動いた。

    「『ちょっと』だと?昼間のあれが?
    お前から見えたかどうかは知らんがオレの後ろには我が王もいたんだぞ!
    おまけに姫様とあのおしゃべりな秘書まで…
    明日には会社中に知れ渡っているだろう。明日からどんな顔で出社しろというのだ!?」

    一気にまくしたてると、ホメロスは両手でテーブルをドン、と叩いた。
    田舎者の自分にはよくわからないが、都会では社長のことを我が王と呼び、社長令嬢のことを姫様と呼ぶらしい。

    「…すまなかった。お前に会えて、嬉しくて、つい」
    「……」
    「悪かった」
    「……」

    テーブルに置かれたホメロスの手は微かに震えていた。
    眉間には深い皺が寄っているし、視線はテーブルの上の一点を睨みつけ、よく見れば唇も微かに震えている。

    これは、人の心の機微に鈍感な自分でも流石に分かる。
    途轍もなく怒っている。

    (…そんなつもりでは、なかったのだがな…)

    彼を、怒らせてしまった。

    そんなつもりではなかった。
    ただ会いたくて、ここまで来てしまった。
    本当にそれだけだった。
    彼の顔を見て嬉しくて、愛しくて仕方なくて、思わずあんなことを口走ってしまった。
    それは嘘も偽りもない正直な気持ちではあったのだが。

    こんなつもりではなかった。
    嫌な思いをさせるつもりなどなかった。

    …嫌われてしまった。

    手に持っていたナイフとフォークをテーブルに置くと、その音にホメロスが弾かれたように顔を上げてこちらを見た。
    テーブルの上の洒落た灯りが映るその瞳が、こんな時でも、美しいな、と思ってしまう。

    「本当に、すまなかった。困らせるつもりはなかったのだ。ただ、」

    ただ、自分は、

    「…明日バンデルフォンに帰る。会えて嬉しかった。ありがとう」

    コース料理は、もう終わりだろうか。
    もしかしたら、まだ何皿かあるのかも知れない。
    もしそうなら、デザートは彼が食べてくれればいい。

    「元気で」

    必死に笑みを作ってなんとかそれだけ告げると、俺は席を立った。

    会いに来なければよかっただろうか?
    そうすればあの日々のことは、過ぎた日々の佳き思い出として、美しいままそこに在ってくれたかも知れない。

    (…そんなことはない)

    こんな終わり方でも、会えないよりはきっと良かった。
    そもそも生きる世界が違いすぎた。
    田舎者の自分が、こんな離れた国で暮らす、洗練されて美しくて口が悪くついでに酒癖も悪い、…かわいい人に会えた。
    それだけでもう、奇跡のようなものじゃないか。

    「待て」

    地獄の底から響くような低い声に振り向くと、ホメロスがこちらを睨みつけていた。
    まだ怒り足りないのだろうか。

    「まだ返事をしていないだろうが」
    「む、返事?」

    ホメロスは立ち上がってつかつかと俺の前まで来ると俺の耳を思いっきり引っ張った。

    「い、いでででで!!!」
    「この愚鈍が!今!返事と言ったらひとつしかないだろうが!」

    それだけ喚くと、ホメロスは俺の耳から手を離して、そのまま俯いてしまった。
    引っ張られた耳をさすり、ちぎれていないことを確認する。
    なんて凶暴な男だ。

    「…返事とは、もしや昼間のアレか?」

    不機嫌極まりない彼の態度。てっきりそれが返事なのだと思っていたのだが。

    「いや、お前があまりに嫌そうにしていたから、てっきりそれが答えなのだと」
    「…いない」
    「ん?」
    「嫌だとは、言っていない」

    さっきと打って変わってその声は小さく、見下ろす長い金髪からのぞく耳は真っ赤だ。

    「…結婚してくれるのか?」

    ホメロスは真っ赤な顔で前髪を払ってフン、と笑った。

    「ま、まぁ、貴様がそこまで言うのなら考えてやらんでもないがな」
    「本当か!?」

    思わず彼の両肩を掴む。
    俺のあまりの勢いに、ホメロスが半歩後ずさった。逃がさんぞ。

    「だ、だがオレは田舎に住むのはごめんだし、お前に都会暮らしは無理だろう。
    折衷案が見つかるまでは当面は一緒に暮らせんかも知れんぞ」
    「構うものか。週末婚だろうと月末婚だろうと構わない」
    「掃除洗濯はお前がやれ。あとキノコ料理以外も作れるようになれ」
    「もちろんだ。それらに関しては俺はプロ級だからな。任せておけ」

    俺のその言葉に少し笑って、俯いていたホメロスが顔を上げた。
    そして、自分の顔を見てぎょっとする。

    「…何も泣くことはないだろう」

    驚いた顔のホメロスの体をそのまま強く抱きしめた。
    こんなに近くで彼の体温を感じるのは、酔いつぶれた彼を運んだあの時以来だ。

    「お前にはわからぬのだ。俺が今どれだけ嬉しいのか」

    自分で言ってから、そうか、俺は今嬉しくて泣いているのか、と思った。

    「そうか」

    腕の中の男が ふふ、と笑った。
    彼の手が背中に回され、いつか自分がそうしたように、ぽんぽん、とあやすように優しく叩かれた。

    「そんなに嬉しいのか」












    “What’s the matter”(ねえ、どうしたの?)
    “Oh, I’m just thinking.”(ちょっと考えごとをしてたんだ)
    “What are you always thinking about”(いつもなにを考えているの?)
    “I’m just thinking about my wish.”(ぼくのおねがいごとのことさ)
    “What is your wish”(きみのおねがいごとって?)





    “I just wish that I could be with you forever and always.”
    (ずっと、きみと一緒にいたいんだ)


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