we used to be 2「髪」

ぼっちゃん、だいぶ髪が伸びましたね
女の子だってこんなにきれいな髪の子はそうそういやしませんよ
…ええっ！？これを切るなんてとんでもない！
旦那様だってそうおっしゃいますよ
そうですよ。旦那様もぼっちゃんの髪をとても褒めていらっしゃいました
旦那様の故郷の麦畑を思い出すのですって
ええ、旦那様はお育ちはデルカダールですけれど、
お生まれはバンデルフォンという今はもうない国なのですよ
…あら、よくご存じですね
そう、あの辺りは今でも小麦の生産が盛んで、
実は旦那様も広い麦畑を持っていらっしゃるんですよ
うちで食べるパンは全部そこの小麦を使っているんです
ふふ、ぼっちゃんの大好きなあの白いパンもね
…、
さあ、できましたよ
まあまあ、金色の髪に赤い髪どめが映えますこと
私がいる時はもちろんこうやってお手入れさせていただきますけどね、
私がいない時でもめんどくさがらないで、きちんとお手入れしてくださいね




おとなしく座っていた椅子から降り、結わえて貰ったばかりの髪に手をやる。
仔馬のしっぽのようなそれは、自らの手からするりと逃げて行った。

この屋敷に来た時、僕の髪はここまで長くはなかった。
特段思い入れもないので、別に切ってしまっても構わない。
と、言うかむしろ切ってしまいたい。
何度かそう言ってみたが、いつもメイドに止められて叶わなかった。
結局、この屋敷に来てから一度も前髪以外を切っていない。

別に、金髪なんてそんなに珍しいものでもないだろう。
施設にだって何人もいた。
長いのも、短いのも。

（この髪がなんだって言うんだ）

もう一度自分のしっぽに手をやって、くるくると弄ぶ。
そして、ふと、女王陛下がお忍びでこの屋敷に来た時のことを思い出した。
僕を見た女王陛下は少し驚いた顔をして、それから懐かしそうに微笑んだ。


『ああ、あなたが。…聞いていた通り、本当にきれいな金髪。
本当に、───に、よく似ている』