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    MT24429411

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    MT24429411

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    ラーヒュンワンライ
    「手指」

    #ダイ大(腐)
    daiDai
    #ラーヒュン
    rahun
    #ワンライ
    oneLai

    手指――バラン様と…ディーノ様を頼む…!

    そう懇願した彼の手は死を前にしてなお熱く、本懐を刻みつけるがごとく力強い。手に食い込まんばかりの指を握り返すと、魂懸けた戦士の目がひたと見返してきた。

    ――この鎧をもらってくれないか?お前に…使ってほしいんだ。

    魂を認め合った友は、そうして自分に命ともいうべき武器を託してこの世を去った。
    ……オレは、お前の覚悟に少しでも応えられただろうか。お前の高潔な魂に相応しくあれただろうか。


    ――――――――――――――――――――――………………………………


    闇の中、ヒュンケルは一人佇んでいた。あたりは漆黒が広がるばかりで、一体ここがどこかも分からない。だのに不思議と不安も警戒心も湧き起らなかった。
    ――夢。突拍子もない夢だ。薄らとした意識の中、ヒュンケルはそう自覚した。

    ふらふらと周囲を見渡すうち、前方の闇がかすかに揺らいだ。目を凝らすと、次第に眼前にある光景が浮かび上がる。
    簡素だが成人男性二人を支えられそうな大きなベッド。その傍らのサイドテーブルに置かれた、灯のないランプ。小さな書き物机。壁に掛かった二人分の外套。
    そして、ベッドの上に身を横たえ、藤紫の肌もあらわに、静かに眠る魔族の青年。ヒュンケルの友・ラーハルト。寝息一つ立てないその穏やかな表情は、まるで命を手放したようだ――あの時のように。

    ほんのわずか苦い記憶にとらわれたヒュンケルが歩み寄ろうとした時、視界の端からぬうと現れる者がいた。
    ヒュンケルは何事かとその闖入者を見やる。息を呑んだ。
    日の光の下ならばさぞ艶やかに光を跳ね返すであろう、漆黒の髪。陶器の人形のごとく白い肌に、妖しく淀んだ紅玉の様な瞳。その左頬に傷のように走る、赤く血の滲むような紋様。
    それは、暗黒闘気に蝕まれた、ヒュンケル自身の姿だった。

    一瞬虚を突かれたように愕然と立ち竦みかけたが、長年の戦士としての習性か寸でで我に返り、突然の闖入者に構えようとした。しかし、ヒュンケルの体は思うように動かない。指先までも硬直したように固まってしまっている。
    ラーハルトの名を叫ぼうにも、声が出ない。辛うじて蚊の鳴くような微かな枯れた音が喉から絞り出せるのみだった。

    目の前の黒き自分は、見ている自分自身に気づく様子もなく――あるいは気づいていながら気に留める必要すら感じていないのか――ラーハルトを見下ろし、妖艶に唇の端を吊り上げた。凡そ人間らしからぬ滑るような動きでベッドサイドに歩み寄り、愛し気にラーハルトの顔を見下ろす。その右手には、魔族文字の刻まれた、大剣。あの日ミストバーンから、仲間の命を奪えと手渡されたもの。ヒュンケルは目を瞠った。
    禍々しい剣を、黒きヒュンケルは逆手に構え、ゆっくりと掲げる。そのまま勢いをつけて振り下ろせば、哀れにもそこにあるのは、ラーハルトのしなやかな首。
    我を忘れて叫んだ。硬直する声帯を振り絞って。
    ――止めろ!待て!止めてくれ!嫌だ!!ラーハルト――!!

    濁る視界。薄れゆく光景。己の口からではない、黒き己の声が、耳元で囁く。
    ――何故止める?こいつが欲しいのだろう。手に入れてしまいたいのだろう。オレならできる。素直にその爛れた欲望を曝け出せ。
    ――違う!俺はそんな汚らわしい事など考えていない!
    ――今更潔癖ぶる必要がどこにある?こいつだって本当はお前の事が欲しいのさ。いつもお前の見ていないところでお前を思って自涜している。
    ――黙れ!友を侮辱するのは許さんぞ!
    ――そうして聖人のふりをして、まったく白々しい事だ。お前のその手はとうの昔に罪に汚れ切っているのに――
    咄嗟に息を呑み、目を見開く。そこには覚えのある、荒廃した光景が広がっていた。
    崩壊した神殿。砕けた壁。折れて転がる石柱。悲鳴と怒号と狂気じみた泣き声。赤々と血に塗れて横たわる、無残な、戦人(いくさびと)達の亡骸。
    その中央で、黒い”ヒュンケル”は、ラーハルトを抱き締め、妖艶に嗤っていた。何もできない”ヒュンケル”を見つめながら。
    ラーハルトは死んでいるように動かない。その滑らかな藤紫の頬を白い指が伝い、形の良い頤を支える。
    白い肌の中、異様に赤い唇が、ラーハルトのそれに重なった。

    ―――――………ッ!!!!!



    大きく体を震わせて、ヒュンケルは意識を覚醒させた。肩で息をしながら、目だけで周囲を見渡す。
    ランプの置かれたサイドテーブル。書き物机。外套の掛かった壁。間違いなく、ここは自分たちが泊っている宿屋の一室だった。
    傍らには、敬愛する友ラーハルトが穏やかな表情で眠っている。整った唇から微かに聞こえる微かな寝息が、紛うことなき命の証を伝えていた。ちょうどこの日はシングル一部屋しか空いておらず、遠慮するヒュンケルの体調を案じたラーハルトが男二人での宿泊を強行し、ベッドの大きさを幸いに二人で潜り込んだのだ。

    肺から絞り出すように、ヒュンケルは息をついた。
    己の手は血で汚れ切っている。否定も拒絶もできない事実だ。多くの命を奪ってきた。剣を手に向かってくる兵士達。通用しない呪文を必死に唱え続ける賢者達。全てヒュンケルが切り伏せた。その傍らで幼い子供を抱え、泣き崩れる女。恐怖と怒りに満ちた眼差しをこちらへ向ける少年。大切なものを奪われる痛み。
    忘れることは許されない、業だ。ヒュンケルは目を伏せる。
    「ぅ…ん…」
    ラーハルトが身じろいだ。小さな溜息のような声と共に、ゆるりと藤紫色の指が枕もとを探る。母親を求める幼子のように。
    その指を、ヒュンケルは己の手で包み、しっかりと握り込んだ。伝わる体温。暖かい血の温もり。
    許せとは言わない。許されるつもりなど毛頭ない。だが、今の自分にも守るべきものがある。師。後輩達。未来を担う民。そして――気高く高潔な、愛する友。一見不遜で冷徹にも見える態度の下に、細やかな優しさを隠し持つ友。
    彼の優しさを独占してしまいたい。彼を失いたくない。彼がこの手から再び去っていくことは堪えられない。
    世界のため勇者のためなどというおためごかしではなく、崇高な自己犠牲精神によるものでもなく、ただ自身の純粋な欲望によってヒュンケルは彼に執着する。まるでお前たちは二人で一つの武器の様だと、ロン・ベルクは言った。振る剣が、薙ぐ槍が、重なって見えるのだと。比翼の魂。ヒュンケルはその言葉に安堵と喜びを嚙み締めた。彼は、尊敬する友に相応しくあろうと精進してきたし、何よりも愛しい友の魂の傍らにあることを心に誓ったのだから。
    彼をこの手から奪うことは許さない。例えそれが、自分が葬ってきた死者達の怨念であろうと――己自身の闇の姿であろうと。
    ヒュンケルは窓の外を見上げた。新月の空が、闇を湛えて地上を吞み込むように広がっている。
    「貴様などには決して渡さん」
    淀む闇を見据え、ヒュンケルは決然と呟いた。
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    岩藤美流

    DONEワンライお題「かわいい」です。
    何がかわいいって二人の関係ってことにしようと思ったんですけど、あずにゃんが「かわいい」って言いすぎていでぴが慣れて信じてくれない、みたいな設定でいこうかな、だけ考えて書きました。どっちかっていうと「火」とか「恋」のほうが主題に見える気もします。相思相愛です。


     あれは随分前のことだ。といっても、数か月程度のことだけれども。
    「イデアさんって、かわいいところがありますよね」
     何がきっかけだったか、部活の最中にひとしきり笑った後で、アズールはそうポツリと漏らしてしまった。気が緩んでいたのだ。口から零れ落ちた本音は、もう取り消せない。見れば、ポカンとした顔のイデアがこちらを見つめている。
     まずい。
     一瞬でアズールは、それまでの本気で笑っていた表情をいつもの営業スマイルへと切り替えた。
    「本当に、かわいい人だ」
     繰り返すことで、言葉に含まれた真実を、嘘で上塗りする。我ながら咄嗟の判断でよくできたと思う。思惑通り、イデアは顔をしかめて、「そーいう煽り、キツいっすわ」と溜息を吐いた。よかった。本音だとは思われなかったようだ。アズールはイデアに気付かれないように、そっと胸をなでおろした。



     陸の事はよく勉強したから知っている。人間は、一般に同性同士や親族間で番にはならない。今でこそ理解の必要性が問われ、寛容な社会の形成が始まっているとは言うけれど、それでも一般的なことではないのだ。多種多様な生態を持ち、性的タブーの形が全く異なる人魚の 3062

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    DONEアズイデワンライ第21回お題「お菓子」お借りしました!
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     そう、これらはイデアにとっては、恥ずかしい品物……つまり、彼はキスの練習をしようとしているのだった。


     経緯を簡単に説明すると、イデアは部活の後輩アズールとお付き合いをする関係になった。アズールが了承してくれたのは奇跡だと思っているし、未だに彼が自分のことを本当に恋愛対象として見ているかどうかは怪しいのだけれど、とにかく、関係は築けたのだ。これまで、部屋デートのようなことや、スキンシップは繰り返してきた。次は、キスだ。年上であるからして、こういうことはイデアがリードするべきだろう、と思っている。しかし、やり方を全然知らない。
     そこで頼ったのがネットの知恵だ。キスをするにはまず清潔感、そしてムード、ダメ押しにテクニック。イデアは熱心に記事を読み漁って、念入りに歯磨きをするようになり、練習に踏み出そうと 2823

    岩藤美流

    DONEアズイデワンライ「カップ」
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    「おまえたちの考えを聞かせてもらいましょう」
    「えー、なんでオレたちがアズールのプレゼントを考えなきゃいけねえの」
    「僕たちより、あなたのほうがイデアさんのことは詳しいでしょう?」
     リーチ兄弟の言葉に、アズールは「ふぅ」と溜息を吐いた。
    「いいですか? 僕とイデアさんの関係については、二人共理解していますよね」
    「恋人同士、ということですね」
    「そんな身内のプライベートなこと、オレ、首つっこみたくねぇんだけど」
     フロイドが嫌そうな表情を浮かべている。ジェイドも「できれば先に会計書を処理したいのですが」と顔に書いてあったけれど、アズールは無視して続けた。
    「そんな僕が、イデアさんへのプレゼントに失敗したとしましょう。どうなると思います? ああ、僕はショックのあまり会 2934

    れんこん

    DONE第二回ベスティ♡ワンライ
    カプ無しベスティ小話
    お題「同級生」
    「はぁ……。」
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    今日は情報収集は少し早めに切り上げて帰ってきたつもりが、日付の変わる頃になってしまった。
    別に目の前のベスティと同じ時間帯に鉢合わせるように狙ったつもりは特に無かったけれど、こういう風にタイミングがかち合うのは実は結構昔からのこと。

    「うわ、なんだかお酒くさい?」
    「……やっぱり解る?目の前で女の子達が喧嘩しちゃって……。」
    「それでお酒ひっかけられちゃったの?災難だったネ〜。」

    本当に。迷惑だよね、なんて心底面倒そうに言う男は、実は自分がそのもっともな元凶になる行動や発言をしてしまっているというのに気づいてるのかいないのか。気怠げな風でいて、いつ見ても端正なその容姿と思わせぶりな態度はいつだって人を惹きつけてしまう。
    どうも、愚痴のようにこぼされる 2767

    岩藤美流

    DONEアズイデワンライ「誕生日」
    いつものハードプレイしている時空のあまあま誕生日。ノーマルなえっちをしたことがない二人にとっては特別なのは普通のことでしたとさ。
    『18日、金曜日ですよね。生憎モストロ・ラウンジの仕事も年の瀬を控えて忙しいので。当日はお伺いはできませんが、祝福しますよ、イデアさん』
     大切な後輩兼友人かつ恋人であるアズールが、いつも通りの営業スマイルでそう言ったのは先週のことだ。イデアは自室で一人、高級そうで繊細なティーカップを眺めている。青を基調とした優雅なそれは、確かにイグニハイドや、イデアの髪に近い色をしていたし、美しいとは思う。けれど、この汚部屋にリーチのかかったオタク部屋には不似合いだ。
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     購買に行く道、できるだけ人のいないところを……と、裏道を通っていると、ばったりとアズールに出会った。いやもうそれは、教科書に載せたいほど偶然に、ばったりと。
    『ああ、イデアさん。こんなところで会うなんて偶然ですね。そういえば今日、あなた 2794

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