真夜中の迷子 いつもくだらない事で突っかかってくる嫌な奴だった。
本気で腹を立てても殴ることもできず、舌を出して遠ざかって行くムカつく顔を見つめるしかできなかった。
一年の時にこの学校を逃げ出さなかったのは、あの顔を一発殴りつけてやりたいという理由も大きかった。
「なんかおかしいんだけど」
硝子に診てもらってくると言い出して、当たらないのに怪我をするわけがないだろうと、全方向に甘えたがるお坊っちゃまがとうとう同級生にまで甘えだしたのだと思って二人で入っていった部屋の扉に聞き耳を立てた。
「……、な奴が……、……つれ…る……痛くて……」
「管轄外だ。本人に言え」
性格に似合わないモソモソと聞き取れない言葉をピシャリと一括した硝子がガラッと扉を開けると、間抜けな俺と目が合い、顎で入れと示されそのまま位置を入れ替わった。
「なんだい?」
聞き耳を立てていた事を負い目と思いたくない虚勢と、硝子が入れと示したのであれば俺が聞くべき話なのだと促すが、悟は硝子が丁寧に閉めていった扉を見つめて呆然としていた。
最強に並び立つための、最近身につけた虚仮威しの口調で問い詰める。
「悟は、私に、何を言いたいんだい? 硝子にまで迷惑をかけて。私に言えないこと?」
サングラスの奥の瞳が揺れ、こちらに傾いて来ているという確信を得てからあとひと押し。座っている肩を正面から掴んで顔を覗き込んだ。
「ん?」
何を言うかは知らないが、硝子に言って俺に言えないというなら俺への不平不満か何かということかと、最強に見捨てられる覚悟まで決めて。
「……お前の……」
「うん」
「……お前がオンナ連れてると……、胸が……痛くて……」
「……うん?」