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    mayooh07Z

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    mayooh07Z

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    しおさんへ
    旅館若旦那たんじろとお客さん善の出会いです…

    温泉宿ナンパ物語 「竈門屋」について、近所の人々は口を揃えて「良いお宿だ」と言う。伝統ある佇まいは風情があるし、いつも隅々まで綺麗にしていて気持ちが良い旅館である。料理も美味しいし、とりわけ米がとても旨いのだという。泊まって行った客は皆笑顔で帰っていく。温泉とともに、日頃の疲れやら何やらを流し落として、すっきりできるというのだ。

     評判も良いこの温泉宿は、じわじわとこの情報化社会での重要な情報源であるインターネットでも口コミを集めていた。「温泉が気持ち良い、飯が美味しい、静かで居心地が良い」となれば、多少山間の交通不便なところであったとしても客が途切れることはない。繁忙期には、キャンセル待ちの客が出るほどであった。

     それでもやはり、シーズン外の平日というのは客足が遠のくものだ。炭治郎は昨日から泊まっていた最後の客を見送り、深く下げた頭をゆっくりと戻した。さて、今日はあと、三組のチェックインがある。まずは家族客が四名、内二人は小さい子だそうなのでプレゼントのおもちゃを準備したい。もう一組は女性二人組だ、電話で予約を承ったときは炭治郎の祖母くらいのような歳の頃だった。友人とご旅行だろうか。そして最後は、男性一人客。ゆっくりされたいのだろう、珍しく一週間という長宿だった。

    「よし、まずは湯の調子から見るか」
     竈門屋は温泉旅館である。温泉が一番の売りだ。そのため湯の温度を調節したり、風呂場を綺麗に保ったりすることは大変重要な仕事だった。炭治郎の父炭十郎はとりわけ湯の温度を調節することに長けていて、ここら一体の旅行業協会の面々から「神の手をもつ男」だなんてあだ名を付けられていた。温泉を触ると、もうすぐ下がってしまうから湯量を増やそう、なんて推測できるというのだ。
     炭治郎はそこまで正確な調整はできない。しかし、父から学んだ温泉管理は確かなものだった。炭治郎はまだ高校を卒業したばかりの未成年だが、それでもこの旅館の跡取りとしての自負があった。ここの温泉に浸かる全ての人を満足させたい。その一心だ。

    「ああ若旦那、良いんですよそんな!掃除なんか私たちがしますから」
    「いや、やらせてください!俺もお手伝いします!」
     デッキブラシで洗い場を擦っていると、風呂管理の番頭に声をかけられた。こじんまりとした旅館だが、他にも従業員は六名ほどいる。あとは家族の手伝いだが、父は経営中心で大抵事務所におり、母は用事があり一時的に実家に帰っていた。兄弟たちはまだ学生なので学校に行っている。炭治郎は、自分がしっかり働かなければと気張っていた。
    「若旦那は次のお客様のお出迎えの準備があるでしょう」
    「まだ二時間もあります」
    「それでも、気を抜いてはいけません。ほら、ここは私たちに任せて」
     炭治郎はしぶしぶ、ブラシを番頭に渡した。若旦那、と呼ばれるのはまだ慣れない。

     高校を卒業し学生の身分ではなくなった炭治郎は、父のいる事務所に呼ばれた。
    「本当に、この竈門屋を継ぐ気があるか」
    「あります」
     いつも穏和な父が真剣な目で問うてきて、炭治郎は唾を飲み込んだ。父は頷くと「俺も、炭治郎が継いでくれると嬉しい」と言った。
    「しかし、家族だから、息子だからというだけの理由でこの竈門屋を任せるつもりはない。炭治郎、お前がこの旅館の後継になるために努力してきたことは知っている。だが、これからはそれ以上に頑張らなければいけない」
     炭治郎は大きく頷いた。今までは学生だったから、アルバイトのように家業を手伝っていただけだった。これからは違う、この竈門屋に就職をするのだ。
    「従業員の皆さんに慕われる人になりなさい。一生懸命やれば、きっと皆付いてきてくれる。これからお前は、ここでは若旦那と呼ばれる。その言葉の重みを、正しく感じなさい」
     炭治郎はその言葉を胸に、今日も働いている。

     しかし、炭治郎はどうにもやる気が空回りしているようで仕方がなかった。色々な仕事を手伝おうと頑張るが「ここは良いから、若旦那は若旦那の仕事を」と言われてしまう。確かに客の相手をするのが自分の仕事だ、あとは湯の世話と、板前の手伝いが少し。
     なかなかすぐには上手くできないなあと、炭治郎は難しい顔をしながら玄関へ向かった。今までは学校帰りや土日に手伝うだけだったから、知らなかったことや気付かなかった仕事が沢山ある。その中で自分の仕事を見付けていくというのは難しいことだ。
     一つ一つ、覚えていかないとと頷いて顔を上げる。開いた玄関から見えるのは、整った日本庭園だ。こじんまりしているが、腕の良い植木職人に頼んでいるのでなかなか風情がある、自慢の庭だ。今は初夏らしく花菖蒲がまとまって咲いていた。その紫色にひょこりと、見慣れぬ黄色が覗いていたものだから、炭治郎は首を傾げた。何か、黄色い花でも咲いたのだろうか。
    「あのう、すみません」
    「……えっ!?」
     花だと思っていたものは人の頭だった。ふわりと風に吹かれた金髪を手で押さえて、その人は遠慮がちに玄関に立った。
    「すみません、竈門屋さん……ですよね?早く着いちゃったんですけど……やっぱりまだ、入れませんよね?」
     炭治郎は草履を履いて慌てて走り寄った。
    「いらっしゃいませ!ようこそ竈門屋へ!」
     金髪のその人は、炭治郎の勢いに驚いて目を見開いた後、おかしそうに小さく笑った。
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    mayooh07Z

    MOURNINGワンライお題「月下」で書きたかったものです…きりの良いところまできたので供養します🙏
    ここから、枝で切った怪我を優しく治療してもらえた善逸は炭治郎に惹かれ、炭治郎もかっこよくギャップのある善逸のことが気になり、交流が続きます
    月下の出会い 強い風が吹いて、咄嗟に目を閉じる。瞼の裏で夜の闇が濃くなったのを感じ、それはすぐに月を隠している人物がいるからだと分かった。
     空高く跳び上がり、空を仰ぐ炭治郎と月の間に浮かんでいるのは──月下の美しい剣士だった。


    「炭治郎ちゃん、今日はもういいよ。それを片付けたら戻って休みな」
    「ありがとう叔母さん。でも、あと少しだから」
     目の前に広がる稲穂を抱え、鎌を入れる。今日はもうどれだけの稲を収穫しただろう。こうして稲作を営む縁戚の家に炭治郎が手伝いに来るのは、毎年の恒例だった。
    「そうかい?そうしたら、暗くならないうちに戻るんだよ」
    「うん、分かってる」
     炭治郎の家は、裕福ではない。父の炭焼きの技術は一級品だが、それでもそれだけで家族六人が食べていくにはぎりぎりだった。こうして炭治郎が、知り合いの家や親戚の家に手伝いに行き、小金を稼ぎだしたのは十を過ぎた頃からだろうか。数日間だけだが、泊まっている間はご飯も食べさせてもらえる。農家の繁忙期には猫の手も借りたい。そんなときに炭治郎は猫の手ならぬ虎の手並みの働きを見せ「炭治郎は働き者で素直で良い子だ」と、親戚中でも評判だった。
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