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    kxxx94dr

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    94/ドラロナ(五十路、やもめ、Δ)ミニパパ
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    kxxx94dr

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    みにぱぱちゃんのお正月
    なにやらちょっと暗めですが、いつものことな気がするのでそのままにしました

    #木下親子
    #ミニパパ
    mini-dad

    夢か現か 夢を見た。そう、ここが夢だとわかっていた。あまりにも鮮やかで、あまりにも現実離れしていたから。
     眩しいくらいの真っ白な場所。それなのに極彩色の景色や建物が無秩序に並んでいる。
     そんなものがぽつんぽつんと並ぶ様はリアルさが足りなかった。建物の隙間も空もあまりにも広すぎて、今まで体験したこともない光景だったから。
     けれど心地が良くて、このままでもいいかと思えた。だって隣には大切な人がいたから。

    「キレイだなぁ」

     形のいい唇から独り言のように呟かれた。その横顔のが綺麗だと思えてしまって、つい見惚れてしまった。だから光を受けて薄く透けるまつ毛の下の瞳が、一体何を見ているかはわからなかった。

    「お前もそう思うだろ?」

     急に絡む視線に、思わず瞬く。ずっと見つめていたことにはどうやら気付いてないらしい。屈託のない笑顔で問いかけられた。
     ようやく前を向けば、目の前には富士山らしき山がある。パステルな紫にも緑にも塗りたくられていて、手を伸ばせば触れられそうなくらいに大きなものだった。
     僕の住む街からここまで大きく見えたことはないから、やっぱりこれは夢なのだ。けれど嬉しそうに目を細め綺麗だと言われたら、ただ素直に綺麗だと思えた。
     いつもならばもっと別なことも思うはずなのに、今は何も浮かばない。ふわりとした思考で、雲の中のような場所にいる。貴方と二人きり。

    「知ってるか? 富士はいいんだってさ」

     聞いたことがある。昔から変わらない言い伝え。なぜそれが良いのかは知らないのに、誰もが知っている話。
     でも貴方はそれをありがたそうに笑っていた。だからそれでいいと思えた。

    「お、大盤振る舞いだな」

     遠くから艷やかな羽の鳥が飛んでくる。嘴には黒にも似た深い紫を咥えて、羽音も何もなく目の前までやってくる。
     鋭い爪を持つのに貴方はなんでもないように腕を出し、そこに止まらせた。腕の上で大きく広げた翼は、全ての光を遮って目の前の視界を奪う。

    「富士、鷹、なすび……こいつは縁起がいいな」

     赤い羽のこいつが鷹なのかわからなかったけれど、鷹だと言われ納得する。瞳も嘴や翼の先も赤い光を放っているが、これは鷹なのだ。
     大昔から言われてきたことよりも、今ここに二人でいられることが幸せなのだ。それだけでいい。それ以上は望まない。目の前で笑う貴方を見ていられたら。
     突然はい、と手渡され、燃え盛るような鳥がひょいとこちらに飛んできた。大きな翼は傘のように頭上を覆う。

    「これがあれば大丈夫だよな」

     いつもの間にか貴方は立ち上がり、見下ろしている。屈託のない笑顔のまま。
     追いかけたいのに腕に止まる鳥の爪が食い込み、重くのしかかってきて立ち上がることもできない。地面にめり込みそうな体を動かせば、腕からは真っ赤な血が滲み白い足元を染めていく。
     痛みはない。地面にぽたりと垂れるのに、不思議と何も感じない。あぁ、ここは夢だから。

    「じゃあな」

     貴方の笑顔が光に溶け込んでいく。手を伸ばせば届きそうな距離なのに、指先は空を切る。淡い色彩が指の隙間をオーロラのように波打った。
     触れられそうなほど側にいたはずなのに、触れられない。腕が千切れそうなほど伸ばしても何も変わらず、そして変わらず痛みも何もない。
     最後に見た顔が焼き付いて、瞬きすらできない。ただ眺めているしかできなかった。
     翼の影になり真っ暗な中、赤い小さな水溜まりがやけに鮮やかだった。

    「……………………っ!」





    「ゆ、め……」

     自分の声にびくんと体を揺らし目を覚ませば、見覚えのある天井が広がっていた。窓から差し込む光が、とっくに日が高くなっているのを教えてくれた。
     汗で張り付く前髪をかきあげ、荒くなっていた息を整える。心臓が張り裂けそうなほど速く脈打っていた。
     夢から覚める直前、現実で叫んでしまったのか開きっぱなしの唇も喉の奥もカラカラだ。夢だとロールできないのが面倒なところだと思う。

    「…………痛い」

     天井に伸ばしていたらしい指先をぎゅっと握りしめると、爪が皮膚に食い込みピリッとした痛みが手のひらから落ちてくる。夢の中ではわからなかった腕の感覚はちゃんとあった。
     指先まで自由に動くし、痛みもちゃんとある。あぁ、現実だ。夢じゃない。
     じっとりとした服が気持ち悪い。不自然な汗がさっきまで見ていた夢を忘れさせてくれないようだ。
     一富士二鷹とは言うけれど、さっきのはどうなのだろう。富士も鷹も茄子も出てきた。綺麗な景色の中にいた。
     けれどこれは良かったと言ってもいいのだろうか。こんなにも疲労感の残る目覚めで、これはいい夢だったのだろうか。
     何もわからない。わからないけれど夢で良かった。あのまま終わらなくて良かった。
     とりあえず喉を潤すかとベッドを抜け出てキッチンへと向かうと、すっかり高くなった日が部屋に差し込んでいた。
     グラスを手に取ったのと同時にリビングの扉が開く。

    「起きてたのか」

     大きなあくび一つして、頭を掻きながらリビングに入ってきた。ついさっき見たばかりの顔がこちらに向けられる。

    「………………っ」

     声が出ない。カラカラの喉が張り付いて、目の前の人の名前を呼べない。
     まるで夢の続きのようで慌てて腕を伸ばした。勢いよく伸ばしたせいで、腕の付け根がみしりと小さく悲鳴をあげた。

    「わ……お、おいっ」

     力の限り抱きしめたからか、背後で高い音をあげて割れたグラスのせいか、腕の中で一度びくんと体を揺らした。
     あたたかい。力を込めれば腕に自分のものとは違う熱と弾力が伝わってくる。夢じゃない。ここは現実なのかとようやく安心できた。

    「とうさん……」

     掠れ掠れの声でそう呼んだ。夢の中で呼べなかった言葉にようやく息ができた気がした。ひゅうと喉を抜ける音が、ここは夢ではないと告げてくる。

    「どうした」

     ただ抱きしめるだけで何もないのをどうとったのか、とんとんと背中を優しく叩かれた。幼い子をあやすような振動が懐かしくて、だからこそ胸が苦しくなる。

    「なんでもない」
    「……そうか」

     絞り出すように答えると、それ以上は何も聞かれなかった。怖い夢を見た子供みたいに、ただ背中を叩かれた。
     そうだ。怖い夢を見たのだ。世間ではどう言われようと、今日の夢は怖いものだった。
     幸運の象徴をいくら手に入れたとして、本当に欲しいものがいない世界なんて、何にも意味がないものだから。そんな色のない世界なんて欲しくもない。
     だって欲しいものは一つだけだから。

    「父さん」

     けれどそれだけは手に入らない現実から、必死で目を逸らしているだけなのだ。
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