ここは楽園じゃないけれど 擦り寄ってくる猫の背を撫でながら、ナギリは背後から聞こえるペンの音に耳を澄ませていた。それは一定のリズムで狭い部屋に響く。
ナギリは神在月の部屋の窓辺にいた。夕陽は沈んだかと窓を開けたら、野良猫がするりと窓に飛び乗ってきた。この辺りでよく見かける泥みたいな色の猫だ。
猫は警戒する様子もなく窓枠を歩くと、ナギリの前に座った。撫でてもいいと言わんばかりの顔をしている。
その愛くるしさと傲慢さの混ざった態度に、ナギリは威圧的に見下ろす。だが猫はそんなナギリの脅しが本気でないとわかっているように、尻尾をふわりと振っていた。
「その猫かわいいよね」
こちらに背を向けているはずの神在月が言った。神在月は椅子に固定してあるから机からは離れられない。
2237