雨の夜に部屋の灯を落として窓を開ける。外は小雨が降りしきっていた。
(今日は……来ないか)
今日は満月の筈だったが、垂れ込める雨雲に遮られその姿は確認できない。
吸血鬼は流れる水を渡れないというが、雨がどれほど影響するのか瀬戸内は知らない。
けれど、きっと得意ではないのだろうし、飢えより面倒臭いが勝ってしまうような怠惰を極めた人外が、それを押してまで訪ねてくるとは思い難かった。
「待つ義理がある訳じゃないし…―」
もう寝よう、と窓を閉めかけた、その時―
べちゃ。
瀬戸内の顔面に、濡れそぼった何かが張り付いてきた。
「貴様というやつは……っ」
飛び込んできた物体Xはデカ目の蝙蝠。
その正体は満月ごとに瀬戸内に血を無心にくる、迷惑な吸血鬼の仮の姿であった。
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