御伽噺「鏡よ、鏡」
無惨がそう呼びかけると、壁掛けの古い鏡が不気味に光る。
「この世で一番美しく、強いのは誰だ」
「それは無惨様でございます」
「その通りだ」
誇らしげな無惨の顔が鏡に映る。この世で最も美しい容姿で人々を魅了し、そして誰よりも強い力で人々の命を踏み躙り、村を燃やし、女も子供も容赦なく殺してきた。
美しく傍若無人な王に人々は従うしかなかったのだ。
「ですが、無惨様。それは『今』の話であり、これから先は解りません」
「何を言っている」
宝石を散りばめた剣を鏡に向ける。しかし、鏡はそんな脅しに怯むことなく話を続けた。
「無惨様の美しさも強さも永遠ではありません。あと数年もすれば容色は衰え、若く優れた剣士が現れ、あっという間に無惨様の力を上回るのです」
1854