snbn⑧ Sonny side*
いくら歩いても思考がまとまらず、早々に自宅へついてしまった。
気が休まった時、きっと目が覚めて夜が明ければ、おそらく自分の行動に自分自身が驚き、後悔すると心のどこかでは感じ取っているはずなのに、今は全てがどうでもよくて、早く答えが知りたかった。
───いや、答えって?
何の答え? ...よく分からない。
すこぶる体調が悪いせいで、身体の奥から滲み出る額の汗をひたすら片手で拭って、よく分からず連れてきた人物のことを考える。
...きっとこの人物が、答えを知っているような、そんな気がした。
* * * * *
「えと...、僕はどうしてたら...」
まだ誰も招き入れた事のない自室のリビングの隅に、行き場がなくウロウロする猫のように目を泳がせて、困惑しきった顔でアルバーンが問いかけてきた。
町ですれ違いざまに挨拶を受けたことが幾度もある相手。
...しかし、あれだけ冷たくあしらわれても何度も何度もめげずに声を掛けてきたし、相変わらず行きつけのパン屋でも遭遇して、その度に彼の表情をジッと見つめて、涙目で顔を歪ませる姿が、何故かいつも心をざわつかせた。
今は、いつもの数十倍は考えがまとまっておらず、彼を強制的に自宅に連れ込み、リビングの隅に座らせて困らせていることなど、少しも感じ取れずにいた。
「...あの」
「なに」
広いワンルームに置かれたダブルベッドに腰かけているサニーは、アルバーンへ簡潔に問い返した。
「体調はどうですか? 道中も、今も、かなり汗を掻いてるようだから...」
「...あぁ」
今まで忘れていたが、バルコニーでの出来事から体調はまるで変っておらず、今も額から大量の汗が噴いているし、眩暈もする。
「ほ、ほんとうにごめんなさい...何でもします、何でもしますから...」
(───嫌いにならないで)
喉の奥につかえて声には出ていないが、続く言葉は、安易に想像できた。
「...まず、汗をどうにかしたい。気持ちが悪い。」
「...っ! じゃあ、えと、とりあえずタオルで...!すぐ持ってきま───
「いらないから、こっち来て」
アルバーンの必死な声を遮って、こちらへ来るよう指示する。
彼は素直に、そろりと目の前までやってきた。
「拭いて」
「...え」
「ほら。脱がせて」
「っ!? あっ、...ぇ...?」
───また、この顔。
大きくてまるで本物の猫のような大きくてまん丸い瞳が、じんわりと涙で濡れ始めた。
この表情はなかなか出来るものではない。この顔で『何でもする』と懇願して惑わせてくるのだから、大したものだ。彼の特技といってもいい。
早くしろという目線で、ジッ...と見つめると、アルバーンは俺のワイシャツのボタンを一つ一つ丁寧に外す。
本番はここからだ。ここで怖気づかれては困ると思い、後は自分で脱ぐことにした。
するとアルバーンは、今度こそ涙が零れてしまそうなほど目を潤ませて、俺の何も纏わぬ上半身姿に困惑しきっているようだった。
「ジロジロ見てないで、汗拭いて」
「...!! で、でも、拭くものが...」
「これで拭けばいいだろ」
そう言うと、俺はアルバーンのポロシャツの袖を引っ張った。
「え...っ!? そん、な...」
何をそんなに躊躇う必要があるんだろか? 俺に不満があるとは考え難い今までの言動の数々は、偽りであるはずがないと思った。
「早く」
「ぁ... は、ぃ...」
しびれを切らし少し強めに命令を下すサニーの股下に膝をついて、アルバーンはようやく自身の着ている黒地のポロシャツの袖を掴み、サニーの首周りの汗をそっ...と躊躇いがちに拭き始めた。
ポロシャツの下には何も着ていないようで、窓から差し込む月明かりが薄暗い室内と細く色白い肌を照らし、サニーの目の前で露わになる。
───ああ ...楽しいな?
個々の中で自分自身に問いかけて、愉悦の笑みがこぼれ出る。
目の前にいるのは紛れもなく男なのに、屈辱的なことをさせている自分も、顔を真っ赤にさせて素直に従っているアルバーンに対しても、ひどく興奮した。
「ひ......ぁ...っっ」
とっさに目の前の細い腰を両手で掴んでみると、予想よりも高く甘ったるい声が無音の室内に響いた。
ビクッと全身を震わせて、アルバーンの体温がみるみるうちに高くなるのを手のひらで感じる。
「なに?」
「...!? ぃゃ...ぁ、なんでも、ないで...す」
「こめかみ辺りも汗ですごい気持ち悪いから、拭いて」
「...っ、でも、その、」
言いたいことは分かっている。
首元より上の汗を拭こうとすれば、上半身が俺と同じように丸見えになる位置までシャツがめくりあがってしまう。...それを彼は気にしているのだ。
「なに? 言いなよ」
「えと... そこを拭いたら...絶対に見えちゃ...っ」
同じ男同士であるはずなのに、今この状況のどこを切り取っても興奮材料にしかならなくなっている自分も、終始慌てふためいて恥じらっているアルバーンも、おかしな状況なはずなのにもはや笑えてくる。
「...ああ。ここのこと、気にしてるの?」
彼があまりにも躊躇って先に進みそうになかったため、強引に彼のシャツに手をかけて捲し上げると同時に、甘い果実のように赤く色づいてぷるんと尖った頂を掴む。
「っひぁ...っ!? …ぁっ!」
───驚いた。
目の前に来させた時から、彼の愛らしい乳首が布越しでも分かるほど勃起していることは察していたが、まさかここまでの反応する淫乱ぶりとは。
「…ッ、……ハハッ」
もう、声に出してしまうほど愉快で、笑いが止まらない。
今もずっとありとあらゆる箇所から汗が噴き出しているし、なんなら頭もガンガンと気絶しそうな勢いで悲鳴を上げていて今にも倒れそうだというのに。
きっともう、限界をとっくに越えていた俺は、ゆっくりと口元に滴ってきた汗をペロリと舐め取り、目の前の囚われの猫に向かって、今度は静かに...けれど見せつけるように、いやらしく微笑んでみせた。
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