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    シャスポーが自分とそっくりな天使を拾う話。
    これからも続く予定。
    文章難しいからインプットもっとしなくては。

    #シャスポー
    kisspaw

    かけらあつめ彼は僕とよく似ている。


    天使を拾った。
    出会いはマスターの屋敷の裏庭。
    シャスポーはその日、日課になりつつあるスケッチを終え、屋敷周囲を散策していた。
    屋敷の裏に男は居た。いや、捨ててあったというべきか。ゴミ置き場で真っ白な羽や衣服を黒く汚し、丸くなって寝息を立てている。男はシャスポーが横を通り過ぎようとした瞬間、目がパチリと開けて
    「腹が減った。なにか寄越せ」
    とだけ言った。
    「なに?」
    一瞬グラースが自分をからかいに来たのかと思った。しかしこの男、顔に生気がないし、体型がグラースとは異なる気がする。どちらかと言えば自分寄りの体型だろう。それにあいつは僕を驚かすためにここまで己を犠牲にするような手の込んだ小芝居をするだろうか。
    シャスポーは男を一瞥した。気持ちが悪いくらいに自分とよく似た顔が小汚く汚れているのはなんとなく不快だ。そう思った瞬間つい応えてしまったのだ。
    知らないふりをした方がいいかもしれない、そう思った時には既に遅くニヤリと笑った男はシャスポーの前に降り立った。よく見ると男は顔だけではなく身長まで一緒だ。
    「飯をくれ」
    「嫌だと言ったら?」
    「拒否しないだろう?お前はそんな奴じゃない」
    「意味が分からないな、そもそも君は誰だ」
    「食事が先だ」
    意思疎通ができない相手と話すと疲れる。
    早々に折れたシャスポーはため息をついて男を屋敷の裏口からシャワールームに誘導した。
    「食事は?」
    なんて図々しい奴だ。シャスポーは苛立つ心を抑えながら
    「黙ってシャワーでも浴びてろ、お前の小汚い姿は見るに堪えないんだ……食事はちゃんと頼んでくるから」
    と言って一旦その場を離れた。
    シャスポーはシャワールームを出ると、人目を避けつつ厨房へ向う。
    厨房を覗き、半ば無理矢理笑顔を作ってから近くにいる使用人に軽食を依頼する。自分に対応してくれる使用人は皆よそよそしく、彼らに張り付いた笑顔はいつも嘘くさい。これはフランスではありふれた光景で、召銃パーティでシャスポーの名前を奪われ、今は現代銃ということになっている自分と関わる人間はみんな嫌な顔をする。最も既に慣れつつあるのだが。


    シャスポーが部屋からワイシャツとズボンを持ってシャワールームに戻ると男は所なさげに周囲を見回していた。
    「服を準備してやったからこれを着ろ」
    男に服を渡すと、バサりと音を立てて羽を折りたたみ、一瞬のうちに光と共に消え去ってしまった。
    「羽、しまえたのか……」
    「まぁね」
    しばらくして着替え終わった男の手を引き、使用人に見られないよう自分の部屋に向かう。部屋に入ってすぐにノックの音が聞こえた。
    「グラース様、お食事をお持ちしました」
    「ありがとう」
    シャスポーはドアを少しだけ開き、室内が見えないように対応する。他人と顔を合わせ言葉を発する時はなるべく優しく、微笑むように心がけていた。貴族社会のフランスでは貴銃士の一挙一動がマスターの印象を左右するのだ。中でもマスターの立ち位置は屋敷内でも首の皮一枚の状態だ。余計な所でマスターの印象を悪くしたくない。
    使用人の若い女性はシャスポーと目が合うと微笑みを浮かべた。安心したのもつかの間、彼女から差し出されたプレートを受け取ると、食器の擦れる音こそしないが彼女の指先は震えてる事に気づいてしまう。
    「……手間をかけたね、すまない」
    「いっ、いえ!こちらこそすみません!失礼します!」
    彼女は会釈をするとそそくさと去って行った。
    シャスポーはため息を着くと室内に向き直る。
    「あの子、お前のこと好きなんだな」
    ドアを閉じると早々に男が口を開いた。
    「なぜ?」
    「対応がたどたどしいし赤い顔してただろ?意外とモテるんだな、お前」
    ドアを閉めると男が近づいてきてお盆の上のサンドイッチを手に取りながら言った。
    本当はグラースなんじゃないか、こいつは。とシャスポーの中で忘れかけていた思考が浮上すると同時に怒りも湧いてくる。
    「聞き捨てならないな!たどたどしいのは屋敷の人達皆だ!しかもモテる訳なんてないだろう?!今の僕は現代銃だぞ?!」
    シャスポーが一息に抗議をすると男は目を見開いた。
    「現代銃?」
    彼は少し考え込むような姿勢を取り「現代銃、か」ともう一度呟いた。
    「……まさか、君はフランスに居ながらにしてそんな事も知らないのか?!」
    シャスポーは畳み掛けるように言葉を発する。
    「───知らないね。興味もない」
    シャスポーは男の態度に呆れ果てていた。
    ちらりと男の方を見ると彼はサンドイッチを咀嚼しながら時折考え込むように俯いている。
    自分と同じ顔をしているくせに何も知らないなんて幸せな奴だ。今までどうやって生きてきたのだろうか。シャスポーは邪念を払うように咳払いをしてから目の前の男に問いかけた。
    「もう十分食べただろ。そろそろ君の名前を教えてくれ」
    二人の間に再び沈黙が訪れた。
    「───思い出せない。僕には記憶がないみたいなんだ」
    シャスポーは言葉を失ってしまった。
    「記憶が無いなんて……ありえない。こんなに、僕と似ているのに」
    同じ容姿をしていながら今まで無神経に、辛い事もなく生きてきたのか。そう思うと自分の中で無性に怒りが込み上げてくる。
    「僕を馬鹿にしているのか?!」そんな言葉がシャスポーの口を付いて出て怒りに任せて立ちあがる。対して目の前の男はサンドイッチを皿に戻して悠然と立ち上がり、シャスポーに近づいてくる。シャスポーが気がついた時にはお互いに手が届く距離だった。
    男はシャスポーの混沌とした感情を受け入れる様に笑みを浮かべて頬をなぞりあげる。
    僕は肌同士の慣れない接触に、ぞわりと不快な感覚を覚えた。
    「───似ているか?お前と」
    真っ直ぐに見つめ、問いかけてくる彼の瞳に目が奪われる。彼の瞳には驚いた顔をした僕が映っていた。
    「とても、似ているんだ。僕にも……弟にも」
    吸い込まれそうな程深い瞳に飲み込まれるように誘導されるように言葉を紡ぐ。
    答えている内に現実と夢の境目が曖昧になり、僕の体は浮遊感に包まれていく。心地よい感覚に酔いそうになる。
    「弟?」
    彼は小首をかしげた。不思議と彼から目を離すことができない。
    「───弟は現代銃で、今は僕の名前を騙って生きている……でも、でもそれは仕方がないことなんだけれど」
    僕は初対面の男に何を話しているんだろう。
    ぼんやりと立ち尽くすシャスポーとシャスポーの肩に手を当てたまま男がブツブツと呪文のような言葉を呟いている。そこには異様な空間が広がっていた。
    「──────僕は君かもしれない、君の名前を教えて?」
    僕の、名前?僕は二度も自分の名前を盗られるのか?
    シャスポーは微睡む中でそんな事を思った。
    ぼんやりする意識の中で彼に自分の名前を教えてはいけない気がしていた。
    シャスポーが断ろうと決めた瞬間、目眩と重力が同時に襲いかかって来て、現実世界に引き戻される。
    「それは駄目だ」
    シャスポーは耳鳴りが酷くなる一方の頭を抱えながら後ろにふらつきつつ男から離れてそう言った。
    「───まぁいっか」
    彼はつまらなさそうに言うと
    「じゃあ、君の弟の名前を教えて?君の弟になってあげるよ。弟の名前は?」
    たじろぐシャスポーを一瞥すると、男は再び問うてきた。
    答えないと永遠に聞かれる気がする。そう判断したシャスポーは半ば投げやりに弟の名前を口にした。
    「グラースだ」
    「グラース?そういえば君がさっき呼ばれていた名前だね」
    「そうだけど!本当は違う。僕の名は……いや、今はいい、か。兎に角、本当の僕はフランスの古銃で貴銃士なんだ」
    シャスポーは召銃パーティーでの困惑と屈辱を思い出して拳を握った。あの場でグラースとなったのはマスターの事を考えると良かったのかもしれないがやはり自身の中で咀嚼しきれていない事だった。
    そんな僕を尻目に男は椅子に腰掛けると差程興味も無さそうに紅茶を飲み始めた。
    「ふぅん。じゃあ僕のことはグラースと呼んでくれ」
    「はぁ?」
    「名前があった方が何かと便利だろうからね」
    男は鼻で笑うとカップに入っている紅茶を啜った。
    「違和感はあるけど、まぁそれもそうだよな」
    と妙に納得してしまった自分が悔しい。
    「そうでしょ?ほら、呼んでみて?」
    「ぐっ………グラース」
    「ん?なんだい」
    爽やかな笑顔がどことなく本物の弟に似ている気がして腹立たしい。
    僕は怒りを抑えようと深呼吸をしてからこれからのことを考えてため息をついた。
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