見たい映画があるんだ、と許可を出してもいないのに、当たり前のように端末を操作し始めている。自分の部屋で見ろと赤茶の頭を小突くが、ボスの部屋の方がモニタがおっきいだろと言って笑うだけだった。見ないという選択肢は恐らく初めから用意していないんだろう。
カインの方がそのつもりでも本来の持ち主はブラッドリーだ。拒否する権利はあるというのに、そのあたりは全く計算に入れていないらしい。舐められているというより甘えられているのだと、わかっているから癪だった。
モニタに映像が流れ出し、はしゃいだ様子でカインがブラッドリーの隣に腰を下ろした。弾んだ声で告げられたタイトルは、なるほど確かにカインの好みそうなジャンルだ。昔から続く有名なシリーズの最新作らしい。三年ぶりなんだ、二作目に出てきた奴がまた出てくるらしい、と矢継ぎ早に飛び出ていた言葉は、開始から二十分も経てばすっかり無くなった。機嫌よく動いていた頭が静止して、随分集中しているようだと手を伸ばした。
肩を抱くが、視線はモニタから離れない。思わず口角が上がる。今日のブラッドリーは、大人しく映画鑑賞してやるような気分ではない。
肩の手を滑らせて、肩甲骨をなぞる。小さく体を跳ねさせて一瞬目が合うが、何も言わずに反らされた。モニタの上では、二人の男がさも深刻そうな顔をして膝を突き合わせていた。ストーリーに関わる重大シーンというやつなのだろう。そんなものはブラッドリーには関係ないが。
肩甲骨から背骨を伝って腰まで辿り着いた。前のめりに画面にかじりついているおかげで、ソファの背もたれに邪魔されることもない。小さく漏れた声をなだめるように腰を撫でる。
「っ、ブラッド…!」
「いいだろ、ただのスキンシップだぜ」
こっちはほっとかれてんだからよ、と言えば、カインも自覚はあるのか言葉を飲み込む。それでも指から逃げるように距離をとろうとするので、それ以上に近づいた。咎めるような視線に笑って、いいのかとモニタを指さす。
カインは不審そうな顔をして、それでもやはり映画が気になるのだろう。ブラッドリーを警戒しながらも前に向き直った。
固くなった体が自然とほどけるまで待つか、それともブラッドリー自身の手でぐずぐずにしてしまうか。どちらもそれなりに楽しめるが、今回は前者を選んだ。エンドロールまでまだ時間はある。すぐに終わらせてしまうのもつまらない。
腰を抱いたまま、カインのように映画に目を向ける。そのまましばらく何もしないでいれば、ほっとしたようにカインが肩の力を抜いた。気づいたが、すぐに動くのは悪手だとわかっている。そのまま、映画のシーンが切り替わるまで待った。運のいいことに、次の場面は中盤の見せ場らしい。派手なカーチェイスを横目に、指を動かした。
あくまで弱くやさしく、だが確実にカインの弱いところを狙い撃つ。強く触れるのは五回に一回だけ、それ以外は気のせいに出来るレベルに押さえておく。それだけで腕の中の体が段々と熱くなっていくのが愉快だった。カインの方も意地になっているのか、耳まで赤くなっているのにモニタから目を離そうとしなかった。それはそれで悪くない。勿論、手加減してやるつもりはないが。
胸元を撫で、芯を持った部分を軽くひっかく。すぐに離れて、腹を辿る。
小さく声を漏らしたカインが、ようやく振り向いた。ボス、と甘ったるい声が縋る。
「どうした?」
白々しく問えば、欲のともった目が伏せられた。戸惑う指先が、服の裾を捲る。
「…ちゃんと、さわってほしい」
「映画はいいのか?」
いじわる、と頬が膨らんだ。