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    あるぱ

    一次創作のBLなどを書く

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    あるぱ

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    彼のもつ運命についての話/死のうと思ったけど髪を切ったらタイミングを逸した人の話。BL(といいはる)/書いてて長くなって飽きちゃったので駆け足/なんだかんだ2時間

    #創作BL
    creationOfBl

     通り過ぎる人たちは俺の事をまるで見えていないように振る舞うのに、肩が触れる数センチ手前で、ふ、とぶつからないように離れる。相手が避けているということは当然俺にも分かりきっているのだが、もしかしたら自分の周りに磁場があって、彼らと反発しているのではないか、などと、つまらない妄想が浮かんでしまう。
     通勤時間の駅のホームは、人でごった返していた。誰も隣に気を配ってなんてない。別に、特別俺が無視されているわけではない。
     つま先を何度か上下させ、点字ブロックの凹凸を確かめる。この先危険。それを知らせる点は、靴越しの足の裏ではあまりにも心もとない存在感に感じられた。
     微かに風を感じて、顔を上げた。ホームの入口に顔を向けると、二つ目のようにライトを光らせた電車が、駅にすべりこんでくる。伸ばしたままの前髪が、ふわふわと踊った。俺は足の裏で何度も点を確かめ、一歩前に出た。
     空気の流れが大きくなる。それに音。レールを擦るような甲高い金属音。足元を見る。あと一歩、あと一歩。
     昨日まであんなに躊躇っていたのに、今日は不思議と、まあいいかと思えた。
     俺の人生はここまでです。皆さんどうぞお元気で。
     いままで、誰にも迷惑をかけたくなかった。だから最期くらい、盛大に、知らない人間たちに迷惑をかけてやろうと思ったのだ。
     右足を持ち上げ、踏み出そうとした時誰かに腕を引かれ、俺は我に返った。制止と言うにはあまりにも控えめな力だったが、しかし俺を振り返らせるには十分だった。
     振り向いた先に、男が立っていた。すらりと背が高い、ファッションが垢抜けていて、雑誌のスナップ写真みたいだと思った。男が俺の顔を凝視して、あの、と意を決したように言った。
    「髪、切りませんか?」
     俺は瞬きをして、その顔を見返す。白い整った顔、その右目の下にあるほくろが、ひどく際立って見えた。
     電車が高く警笛を鳴らしながら俺の背後を走り込んできて、ゆっくりと停止する。扉が開くと、一斉に人が流れ出していく、俺たち二人だけを置き去りにして。


     人にシャンプーをしてもらうのなんて、何年ぶりだろう。俺は目を閉じ、指先が頭皮を指圧する、その心地良さにため息をついた。
    「痒いところ、ないですか」
     俺はうっとりとしていて、咄嗟に反応できなかったがそれで充分伝わったのか彼がそれ以上なにか尋ねることは無かった。シャワーの音がして、お湯が泡を洗い流していく。
     長い間散髪にも行っていなかった髪は、水を含むと尚更長くなったように見える。
    「なにか、希望とかありますか」
     男が、鏡越しに俺を見つめて尋ねた。
    「あ、え、」
     流されるがままに付いてきた俺に、希望などあるわけはない。しどろもどろになる俺に相手は微笑んで、
    「じゃあ、おまかせということで」
     と、ウエストポーチから引き抜いた鋏を構えた。俺はもう返事をするのは諦めて、鏡の方へ目を向けないよう顎を引いて目を落とした。
     鋏が髪の毛を断裁する音は不思議だ。あまり美容室に来たこともないからそう思うだけだろうか。髪束を切られると、頭皮がざわざわとくすぐったい様な感じがする。俺はケープの下で組んでいた手をもぞつかせた。こうして座っているだけなのは落ち着かないが、とても世間話などするような状況とも思えなかった。

     死にたいと他人に行ったことは無かった。家族はもちろん、友人にも、過去に勤めていた会社の同僚にも、通っていた精神科の医師にも。だから、あの瞬間をみられてしまったということが、俺にはたまらなく恥ずかしかった。ああ、あの時腕を引かれたことなど気が付かないふりをして、飛び込んでしまえばよかったのに。
     物事にはタイミングというものがある。例えば恋に落ちる時もそうだ。落ち込んでいた時にたまたま手にした本に心が救われるとか。中にはそれを運命と呼ぶ人もいるだろう。当事者にとって最高のタイミングを、人は時々運命と呼ぶのだ。
     だから人が死ぬためにも、運命が必要なのだ。自殺志願者にとっては、それは死ねた時ということになる。
     あの瞬間はたぶん俺は死ぬ運命だったのに、不運にもこの男に遮られてしまった。この先にまた、そのチャンスを掴むことができるのだろうか。考えるとひどく暗澹とした気分になる。
     微かに小さな音が鼓膜をふるわせ、俺はきょろりと目を動かして周囲を確認した。
     連れてこられたのは、西荻窪にある小さな美容室だった。バーのようなドアを入ると、ふたつだけの大きな鏡と椅子。こっそりと入口のメニューを確認したが、今日は定休日のようだった。
     息を殺して耳をすましていると、それは歌だった。聞いたことはない、しかし、ゆったりとした明るいメロディ。それが自分の髪を切る男の鼻歌だと、俺はしばらく気が付かなかった。
     ふ、と肩の力が抜ける。目を閉じ、彼の指先が俺の髪に触れる、その感触にだけ意識を向ける。こんな風に誰かに触れられたのは、一体どれくらいぶりなんだろう。そのやさしい手つきに、ため息がこぼれた。
     男の鼻歌は、サビを繰り返している。不思議と俺はそれが終わらなければいいのにと思う。


    「前髪短いの似合いそうだけど、ちょっと抵抗あるかな? と思って長めにしてみた。後ろはすっきりしちゃったけど。セットとかしなくても大丈夫だと思うけど、余裕あるならワックスでトップだけボリュームつけてあげて」
     ブドウみたいな甘いフルーティーな匂いがする。それがワックスの匂いなのだと気がついたのは、彼の手で綺麗に髪型が形作られたあとだった。
     やさしく指先が髪束をつくり、少し持ち上げて空気を含ませる。顔を上げると、鏡には見たことがない男がいた。俺だ。
    「よければ眉毛も整えよっか?」
     鏡越しではなく顔を覗き込まれて、俺は動揺した。
    「いっ、いいです……」
     顔が熱い。
    「そう」
     男はひとつ相槌をうつと、俺の後ろに回って椅子の高さを下げた。くるりと回転させられ、数秒ぼんやりしていたが、あ、降りろってことかと、気が付いて俺は顔を伏せたまま立ち上がった。男が大きなブラシで俺の服を撫でる。それが終わると彼はぽんと俺の背中の真ん中に触れた。
    「はい、ありがとうございました」
    「あ、ありがとうございました」
     思わずオウム返ししてしまい、また意味もなく焦る。彼はにこにこと笑顔を崩さないまま、店の入り口まで先導して扉を開いた。
    「あの、お金」
    「いいよ。カットモデルしてもらっただけだから」
     男はそういうと、小さな紙片をカウンターから取り上げて俺に差し出した。
    「前髪伸びたら電話して。そうだな、二週間くらいで一回切ったほうがいいかも」
    「え、でも」
    「電話して、絶対」
     大きな声ではなかったのに、ひどく張り詰めていて俺は彼の顔を真正面からみつめた。電車で腕を引かれたときと、同じ顔だった。俺が小さな声で返事をすると、相手は心から安心したように、ため息交じりに笑った。
    「うん。待ってる」

     それからあの美容室から駅まで、一体どの道を通ってきたのか。俺は気が付いたら西荻窪の駅にいて、歩きスマホの女子高生がボンと肩にぶつかってきて、ようやく我に返った。
     謝ることなく通り過ぎて行った少女の背中をしばらく眺めたあと、俺は駅の改札を抜けホームに降りる。途中エキナカのパン屋の前を通った時、鏡に自分の顔が映って、思わず立ち止まってまじまじと見つめあってしまった。髪型で雰囲気は変わるものだとは思うが、我ながら変わりすぎだとう。
     彼の整えてくれた頭のてっぺんふわふわしたところに触れてみたいと思ったが、あまりにもナルシスト的に見えそうでぐっとこらえた。
     ポケットを探って渡された名刺を取り出す。
     美容室 filo(フィーロ?)
     裏面には料金が明記されていた、俺はその値段にぐっと息を飲んだ。ヘアカット、七千円……?いま三千円しか財布に入っていないのに……。
     二週間後電話するという約束を思い出し、気分がずんと沈む。ホームをおりると、ちょうど電車がやってきたところだった。開いた扉に、人が流れ込んでいく。俺はその流れに流され車両に乗り込む。
     死にたい、そう思う気持ちは変わらず俺の心の中心の大部分を占めている。もしも可能なら、明日にだって死んでしまいたい。ドアの窓にうつる自分の顔を見る。髪型が変わっただけの、変わらずに陰気に無表情の俺だ。
     しかし、それでも、もしも二週間後がやってきたら、あの名刺の番号に電話しようと思う。せめて一言、もう店には行けないことを彼に告げよう。
     電車が動き出すと、慣性の法則でぐぐっと進行方向とは逆に引っ張られる。俺はふらついて隣のサラリーマンにぶつかり、体を小さくして謝る。


    おしまい

    お題
    1:駅のホーム
    2:鋏
    3:みつめる
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    あるぱ

    DONE三題噺のお題ガチャでひとつ/宇宙かぶりしてしまったな……/創作小説さようなら、ユニバース



     ハロー、地球の人たち。
     元気ですか?
     私は目下GN-z11銀河系内を浮遊中。あ、遠くでバチッと光ったやつは恒星の赤ちゃん。ここでは毎日そんな光景が見られます。星が生まれ、死に絶えていく。美しいけど見慣れてしまうとなんてことはありません。私はフライパンでポップコーンを作るところを想像します。ぽんぽん弾けて生まれて、時々できそこないのコーンが底に残ってるの。
     ハロー、ハロー。
     ここは地球から134億光年彼方。いまごろみんなはなにをしてるかな?


     モニターを閉じる。背もたれによりかかり、ひとつ息をついた。茶番だと君は思うだろうか。そうだ、茶番だ。そうでなければ私の脆弱な理性など、あの星が遠くで光って一度瞬く間に砕け散ってしまう。
     君のことを思うけれどもう顔はよく思い出せない。この狭いコクピットにはいって、どれだけの時間が経ったのだろうか。疑問はいつも私にとっての地雷だ。それを深追いすればきっと、私の脳みそは壊れてしまう。コツは、追いかけないこと。浮かんで思ったことは、そのまま流す。窓の外、漆黒の背景に転々と浮かぶ光の群れのなか。宇宙に。
     ハロー 1598

    あるぱ

    DONE三題噺で一本/創作BL/新入生と先輩の初恋と宇宙(偏愛とは???) 恋は彗星のように

     光の白色、シリウス、ヘイロー、定常宇宙論。

     四月だと言うのに、妙に暑い日だった。ぼくは心臓が激しく脈打つことを意識しないように、好きな言葉で頭の隙間を埋める。
     ボイジャー、シドニア・メンサエ、ダークフロー、重力レンズ。
     言葉はぼくの血管に乗って身体中に回る。不思議と少しずつ脈拍は落ち着きを見せ、胸に何か詰まるような感覚は消える。後ろから、真新しい制服の人たちがぼくを追い越して、高い声で笑った。もつれ合う三人はそれでもまっすぐ進んでいて、ぼくはなんとなく、子猫がじゃれ合う様を思い浮かべる。また心臓が急ごうとするので、ぼくは立ち止まって深呼吸した。
     目を閉じると、ふ、と視点が浮かぶような感覚になる。見えるのはぼくの後頭部、道行くぴかぴかの生徒たち、さらにぐぐっと視点が浮上して、学校の校舎が見え、自宅が見え、遥か向こうの街並みの際が、緩やかに歪曲している地平線まで見える。上昇していくと、晴れ晴れとしていたのにそこには実は薄雲が張っているのだと分かる。対流圏を越え、成層圏に及ぶと次第に空の青色は群青へ、さらには夜のような黒色へうつり変わっていく。これが宇宙の色 2162

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