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    ヒロ・ポン

    支部ないです。ここに全部ある。

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    ヒロ・ポン

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    ばくさんは子供を二人育てています

    これが僕らの子育てマルコを動物園に連れて来た。
    ちょっとした勝負の後、「俺は寝てるからいっておいで」とばくさんがお小遣いもくれたのだ。
    ばくさんにも一人になりたい時くらいあるよね、とお小遣いを受け取り、伽羅さんにばくさんをお願いして、マルコとホテルを出た。
    なんとなく気分を出そうと道中にあったスーパーの衣料品売り場でナップサックを買い、中にお菓子を詰め、マルコに背負わせた。
    サイズ感がどうにもおかしく、六年生くらいの時にいた背が伸びすぎた同級生を思い出す。
    無理に背負わなくてもいいとは言ったが、「これマルコの?マルコの?」と喜んでいたのでそのままにした。

    「あれは…ダチョウ!」
    いくら平日でも客がいる。マルコに「小さい子が優先ね」とだけ言い聞かせて幼稚園児の集団に交じってアフリカゾーンを眺める。
    「ダチョウ…あんなに脚が細いのにはやいのよ…頭もちいさい…キリンは…首で戦う…!」
    そういえばそんな内容の番組をこないだ見てたな?と思い当たる。
    大人になって久しく忘れていた感覚だが、確かにダチョウやキリンというのは奇妙なバランスの生き物だな、と思う。

    人間が上から飼育場を見下ろすように作られているので、マルコは柵の前にしゃがみ込んでその隙間からじっと動物たちを見ている。
    ばくさんが寝ていたら、と思って伽羅さんのほうに動物園に到着した旨のメールを入れる。
    案外すぐ返ってきた空メールに「認印かよ」とちょっと笑ってしまった。
    ちょっと目を離したすきに幼稚園児に囲まれていたマルコを回収し、そのままカバやシカなどのを順路に従って見ていく。

    「生きてる!」
    新しい動物が目に入るたびにマルコが指さしながらそういう。
    「生きてるよ~」
    僕も動物園に来た記憶はほとんどない。学校行事で来たくらいだろうか。
    現代人にとって犬猫以外の動物を見る機会というのはほとんどが動物園な気がするが、廃ビルから出てまたビル群の中で暮らしているマルコには
    とにかく全部が新鮮で仕方がないらしい。
    脚が長いね、首が長いね、強そうね、と言うマルコに相槌を打つ。
    生返事ではないが、集中して見ているとこうなる。

    ひとしきり見て回って芝生の公園で持ってきたコンビニ弁当を開く。
    氷を入れて来たのよく冷えてしまっていたがマルコは気にしないらしい。
    マルコ含めて視界にある景色はどれも穏やかで、昨日まで腕をちょっと火に炙られたり七千万が口座に振り込まれていたりしたとは思えない。
    「こ、これはなに…」
    つけあわせのピンク色の漬物を警戒しているマルコも面白い。ピンク色の食べ物、確かに暮らしの中にはそうそうにない。
    食べてごらんよと口に運んでやるとそ~っと噛みしめ、白米と交互に食べ始めた。警戒するのはやめたらしい。

    おやつまでをたいらげたマルコが芝生の上を転がっていく。
    メールセンターのアイコンに気づき、手動受信したのはばくさんからのメールだった。
    『よっ やってる?』とだけ書かれたメールにマルコを撮影した写メを返した。

    日が暮れ始めた。マルコのリクエストでもう一周して、土産物を見て、人の流れに任せて動物園の出口に向かう。
    離れそうになったマルコの手を咄嗟に掴んだら、拳の血の塊のかさつきに触った。
    「あ、ごめん。痛くなかった?」
    結構雑に触ってしまったからとマルコの手を取ってかさぶたをひっかけていないかを確認する。
    マルコが首をかしげ、チュロスをかじり、「へいきよ?」と僕を怪訝そうに見てくる。
    「…今日の夕飯なんだろうね」
    「きのうはお肉だったから、お肉がいいのよ」
    「ずっと肉じゃん!も~…」
    入って来た門のすぐそばまで来て、なんとなくマルコと手を繋ぐ。男同士でとか、大人同士で、とかは思わなかった。
    人と手を繋いで歩いた事なんか、人生でいくらもないから本当になんとなくだった。
    「カジ、今度はばく兄ちゃんとも来ようね」
    うん、うん、と頷いて、声でも返事をする。
    家族連れが駐車場に吸い込まれて行くのと反対方向に歩いて、大きな道路でタクシーを拾う。

    眠ってしまったマルコをどうにもタクシーから出せなくて、結局伽羅さんにホテル前まで降りてきてもらった。
    舌打ちの一つくらいもらうかと思ったけど全然聞こえてこなくて、マルコを背負った伽羅さんとスイート宿泊客専用エレベーターに乗り込んだ。

    「おかえり~…ふふっ、マー君爆睡じゃん!」
    爆笑するばくさんの前を通り過ぎ、伽羅さんはベッドにマルコを投げに行った。
    「どう?楽しかった?」
    「はい。マルコなんか幼稚園児に混ざってもうガン見ですよ…僕も動物園とかあんまり行かなかったので結構楽しかったです」
    「そっかそっか…」
    マルコを無事布団に埋めたらしい伽羅さんがマルコが背負っていたナップサックを手に戻って来たから、ばくさんがまた噴き出した。
    「背負って!背負って!」というリクエストは無視されていた。
    「でもなんで急に動物園に?」
    動物園に行って帰ってくるだけでは多すぎる小遣いを財布ごと返しながら、ずっと抱えていた素朴な疑問を尋ねてみる。
    うーん?と首をかしげたばくさんは、伽羅さんのほうをちらりと見る。
    伽羅さんは今度子を舌打ちをして、離れている方のソファーにドカっと座って黙った。

    「まあ、綺麗な物見たりとか楽しい事やったりとかも、しないとさ。情操教育ってやつ。」
    ああ、マルコはそういう経験ないからな、と合点がいった。
    僕たち子育てしてるんですか?と笑うと、「そうかも」とばくさんも笑ってくれた。

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    MOURNING一度は書いてみたかった門梶♀信号が赤から青に切り替わったのを機に、止めていたハンドルを動かす。時刻はすでに終電を迎える頃だった。遅くまでかかった残業を思うとはらわたが煮え繰り返る。同僚の立会人のせいで事後処理が遅れたのだ。必ず、この恨みは後日に晴らすとして。
    『門倉さん?』
    「聞こえていますよ。大丈夫です」
    『なんだか、機嫌悪くないですか?』
    「そりゃあ、どっかのバカのせいで仕事する羽目になりましたからね。せっかくの半休が台無しです」
    スピーカーホンにしたスマホから漏れる彼女のの乾いた笑い声がした。おそらく梶の脳裏には急務の報せを受けて凶相になった私を思い浮かべたかもしれない。
    『本当に、お疲れ様です…。門倉さんにしか出来ないことだから、仕方ないですよ』
    梶の宥めるような声がささくれ立った私を落ち着かせてくれる。
    「梶、眠くないん?」
    『んん…、もう少しだけ』
    「また薄着のままでいたら、あかんよ」
    『でも、かどくらさんとはなして、いたい…』
    どこか力が入らなくなってきてる彼女の声に眉をひそめる。共に過ごせなかった半日を名残惜しむのはいいが、前科があることを忘れてはいまいか。
    「明日、無理やり休みもぎ取ったから、い 1173