今までも、これからも制服を身に包んで、代わり映えのない毎日が今日も始まる。
ヴォックスはポリポリと頭をかきながら猫背でだらしなく登校する。
校門を過ぎてくぁ、と欠伸をすると、後ろから声がかかる。
「こら、また猫背になってるよ」
「─アイク。」
彼は毎日、いやそれ以上に顔を合わせるたびに毎回自分の姿勢を正せと口うるさく注意してくる。
煩いなぁ、と指を耳にさして聞こえないフリをするがその顔は笑顔である。
アイクはヴォックスにとって唯一の友人と呼べる間柄だと自分は思っている。
いつものように昼食は二人だけで屋上に集合する。
偏食の彼は毎日自分の食べられるモノだけ入っているサンドイッチを食べている。
もうすぐ始まるテストの内容や、つまらない学校生活の些細な面白い話など、学生ならではの会話をぽつりぽつりと交わす。
そんな彼と過ごす時間がヴォックスは幸せに感じていた。
サンドイッチを食べ終えたアイクはすくっと立ち上がり、カシャンとフェンスにもたれて青い空を見上げた。
つられて見上げた空は雲ひとつない快晴。
「ねぇヴォックス。」
少し低い声で自分の名前を呼ばれる。
その声色は少し寂しそうで。
「なんだ、アイク。」
すかさず返事をする。
「─君に会えて良かった。」
泣きそうな顔でこちらを見る彼は、なんだか今すぐ消えてなくなってしまいそうで。
どうしてその言葉を今自分に伝えたのかわからない。
胸が締め付けられる。
行かないで。俺の側にいろ。
伸ばした手は、真っ白な空間に包まれて、何も掴めなかった。
「─っ!」
目の前には伸びた自分の腕、と見知った寝室の天井。
柄にもなく心臓が跳ねている。
軽く目を閉じて深呼吸をひとつ。
ベッドの横を見ると猫のように身体を小さく折りたたみすやすやと眠る愛しい人。
サラ、と前髪をよけて頬を撫でると身じろぎする。
ちゅ。
閉じられた瞼に軽くキスをして、キッチンへと向かう。
彼の食べられる具材を使ってサンドイッチを作る。
今日はなんだか彼を甘やかしたい気持ちなので、特別に朝からエナジードリンクも振る舞ってやろう。
「わぁ、どうしたのヴォックス。今日は何かの記念日だったっけ?」
起きてきた愛しい人は嬉しそうに両手を重ねて笑う。
ヴォックスは朝食をテーブルに並べると、彼が席に着く前にぎゅっと抱きしめる。
「・・・ヴォックス?」
いつもと違う自分の雰囲気に少し驚いているようだ。
「すまない。珍しく夢を見てな。」
思ったより弱々しい声が漏れる。
それを聞いて、耳元でふふ、と微笑みが聞こえるとぎゅっと抱きしめ返される。
「僕はここにいるよ。居なくなったりしない。」
その言葉に不安がストンと落ちて、安心感に包まれる。
「・・・ありがとう。さぁ、朝食を食べよう。」
身体を離し、テーブルに座る。
「いただきます。」
二人で朝食に手を出す。
「・・・そういえばヴォックス、いつの間にか猫背治ったよね」
アイクの言葉に動きを止めたヴォックス。
ポトリ、とフォークに刺したウインナーが皿に落ちる。
目の前の彼を見ると、その表情は、夢の中の彼と重なった。