愛情覗見光ノがリビングでひとり、タブレットで映画を見ながらリアスの帰りを待っていると、ピロンとメッセージがひとつ。
『ごめん、仕事が足止めくらってて帰るの遅くなる。先に飯食って寝ててくれ』
「あら、珍しいですね。」
いつもは忙しいと言いながらも自分とご飯を食べて一緒に眠る為に帰ってきてくれるのに。
『わかりました、お気をつけて。』
メッセージに返信をして、先にご飯を食べようかな、とデリバリーの注文画面を開いた。
「・・・あ。」
光ノは何かを思いついて、口元をニヤリとさせたのだった。
2人分の料理を注文する。
配達まで時間がかかるので先にシャワーを済ませた。
届いた料理を分けて、リアスの分にはすぐ食べられるように皿に盛り付けなおしてラップをかけておく。
モクモクと一人で食べるご飯はあまり美味しさを感じないが、映画の続きを見ながら作業的に腹を満たした。
ベッドを綺麗にしてすぐ眠れるようにセットしておく。
しかし自分はまだ眠らず、もう一度リビングへと戻った。
見ていた映画はエンドロールを迎えるがまだリアスは帰ってこないらしい。
タブレットの画面を消して、次はスマホに目を向ける。
テーブルに突っ伏して、ショート動画を意味もなく見ていると、ピロン、とメッセージが一つ。
『もうすぐ家着く。』
それを見て光ノはまたニヤリとすると、スマホ画面を消してその場で瞳を閉じた。
ガチャ。
「ただいま。」
静かに聞こえる声。きっと眠っているであろう自分に、気をつかったんだろうか。
もちろん返事はしない。
「・・・寝てるか。」
ボソリと聞こえるリアスの独り言に、なんだか胸がこそばゆくなる。
トットッ、と玄関から廊下を歩く足音。
「んぉっ、ビビった」
テーブルに突っ伏して眠っている(フリをしている)自分を見て驚いたのだろう。
緩む口元が腕で隠れていてよかった。
「・・・ただいま。」
優しい声と、そっと撫でられる頭。
すっと影が離れるとカチャカチャと聞こえるハンガーの音。
きっと上着を脱いで着替えているのだろう。
そしてまた足音がこちらに近づく。
向かいの席に座るのかと思ったら、フワッと自分の肩にブランケットがかけられる。
いつもソファで自分が使っているものだ。
そのまま食器と共に電子レンジの加熱音が部屋に響いた。
・・・普段からリアスが自分に優しいのは理解していたつもりだったが、流石に自分が眠っていたとしても、こんなに優しくしてくれるなんて。
嬉しさと恥ずかしさと愛おしさで今すぐ彼に抱きつきたくなるけど、もう少し我慢。
再加熱した夕ご飯を向かいで食べ始めるリアス。
「・・・んまぃ。」
気づいたのは、リアスは独り言が意外と多いこと。
いつも自分といる時は会話をしているので、彼の一人で居る時の様子を見るのは初めてだった。
「ッチ、ミスタの野郎・・・」
カタカタとスマホを叩く音がするので、仕事の連絡でもとっているのだろう。
しばらくすると、ご馳走さま、と食器をシンクに運び、そのまま洗い物をする音がする。
キュッと蛇口をひねる音がしてから、またこちらに歩いて来るリアス。
ガタンと向かい側に座り直すと、しばらく静寂に包まれる。
(何をしているんでしょう?)
音だけでは彼の様子は把握できない。
そのままじっとしていると、カシャ─とスマホのシャッター音が。
「・・・かわいい。」
・・・は?
今なんて言いました?
またイスがガタンと引かれると、今度はこちらに近づいてくる。
─チュ。
頬にキスを一つ。
「さて、ベッドに運ぶか。」
ヨイショ、と光ノを姫抱きに抱えようとするリアス。
「ん・・・」
寝ぼけているフリをして、彼の首に腕を回した。
ピク、と光ノを抱く指に力が入る。
やばい、バレてる?
光ノはそのまま狸寝入りを続けながら、ベッドまで運ばれる。
トサリと優しくベッドに降ろされ、そのままリアスは光ノに跨った。
「・・・いつから起きてた?」
目を閉じていても、視線が痛い。これは、完全に、バレている。
ゆっくりと瞼を開くと、大好きな彼の顔がそこに。
しかし、その表情は光ノが想像していたのとは全く違うことに驚く。
リアスは、照れたような顔でこちらを見ている。
「・・・最初から、って言ったら?」
「〜〜クソッ!」
ニヤリと笑う光ノの唇が、リアスのそれで塞がれる。
チュッ、チュ・・・─
ゆっくりと唇が離れると、視線が重なる。
「・・・おかえりなさい。」
「ただいま。」
額をくっつけて、二人で笑った。