季節外れの寒い。最近暖かくなっていたから油断していた。冬物のコートやマフラーはタンスにしまいこんだし、学校に置いてあった厚手のブランケットも昨日家に持って帰って洗ってしまっている。4月になって1週間たったというのにこの寒さ。記憶の片隅に2月並みの寒さと天気予報で言っていたのような気がする。指先は氷のように冷え切ってしまったし、きっと足先もそうだろう。冷えからくる腹痛のせいで、温かい飲み物を買いに行きたくても動くのも億劫だ。昼休みに突入した教室は騒がしく、それにすらイライラする。やってらんない。自分の机に頭を押し付けながら、少しでも腹の痛みが引くように手をお腹にあてる。それでもちっとも軽くならない痛みに、うーという呻きとほんのちょびっとの涙が出てしまう。昼休みはいつも仲のいい5人で集まって、屋上でご飯を食べるのだけれど今日は行けそうにない。連絡をしたくてもスマホを開くことさえ、辛くて八方塞がりだ。皆ごめんと思いながら、忌々しい腹の痛み呻いていた時だった。
自分の席の前に誰かが立った気配がする。へっと思って顔を上げると、心配そうな顔をしたヴォックスがいた。
「大丈夫か?いつもの場所に来ないから、心配したぞ」
「さむくて、おなかいたい…」
「ああ、今日はいつになく冷えるからな。大した防寒性はないが、俺のカーディガンでも着るといい」
差し出されたヴォックスの厚手のカーディガン。礼を言って、早速着させてもらう。さっきまで彼が着ていたためかほんのりと暖かく、ヴォックスの匂いがして彼に抱きしめられている気分になる。さっきまでの鬱々とした気持ちが、じんわりと暖まっていく。
「その調子じゃ、今日は屋上は難しそうだな」
「うう、ごめん」
「お前が悪いわけじゃないさ。急に冷え込んだから天気が悪い」
きっと青白くなっているであろう俺の頬をそっと撫でてくれる。
「お前が着替えている時に連絡したら、3人ともこっちに来るそうだ。たまには教室で食べるのも悪くないだろ」
「本当?ごめんねぇ」
俺の教室までわざわざ移動してもらうのが、申し訳ない。
「いや俺たちも今日は屋上は寒いだろうと話していたんだ。気にするな」
空いていた俺の前の席に座ったヴォックスは、俺の頭をわしゃわしゃと撫でてくる。髪の毛のセットが崩れるくらいの勢いだけど、撫でてもらうのは気持ちよかった。ヴォックスの手に甘えていると、廊下が騒がしくなった。
「ミスタ~~~~!!!」
大声で俺の名前を呼びながら教室に入ってきたのはルカ。大型犬が突進してくるように俺の近くにやってきたルカは、あるものを差し出してきた。
「これでも飲んで、あたたまって!」
差し出されたはちみつレモンのペットボトル。受け取るととても暖かく、冷えきった指先が火傷してしまいそうだ。一口飲むと、体の内側が暖かくなるのを感じる。礼を言うと、満面の笑みでPOGを送ってくれた。
「調子はどう?」
心配そうな表情をしながら、ルカの背後から顔を覗かせたアイク。
「寒すぎてどうにかなりそうだったけど、これのおかげでマシになりそう」
手に持ったはちみつレモンを振ると、アイクの表情が和らぐ。
「僕のブランケットも持ってきたから使って」
「いいの?」
「僕は背中にカイロ貼ってあるから大丈夫だよ」
差し出されたブランケットを足にかけると、感じる寒さが半減する。
「あったかい~」
へにゃっと表情が緩んでいく。そんな俺に笑った皆が、がたがたと音を立てながら俺の先の周りに座っていく。さっきまで嫌だったクラスの喧騒が気にならなくなり、気分がどんどん上がっていく。
「ありがとう」
改めてにっこり笑って感謝を伝えると、みんな笑ってどういたしましてと言ってくる。楽しい昼休みはまだまだこれからだ。