横顔ミスタは黙っていれば綺麗な顔をしている。白く透き通った陶器のような肌。アクアマリンのような大きな瞳と、それを守る長いまつ毛。元気に毛先が飛び跳ねている亜麻色の髪には、艶々とした天使の輪が光っている。
ダイニングテーブルで依頼の書類を広げているミスタ。騒がしい普段からは考えられないほど真剣な顔をしている。集中しているので周りが見えていないのだろう。彼を見守るように向かいの椅子に座っても、彼がそれに気づいた様子はなかった。
「ここの供述が矛盾するから…」
ブツブツと喋りながら、書類をめくったり写真を見比べる彼。ここ数日張り込みをしたり、情報屋に話をしに行ったりとせわしなく働いていた。疲れているだろうに、それを全く出さず依頼に取り組む彼はまさにプロと言えるだろう。しかし数時間飲まず食わずで証拠品と向き合っているので、そろそろ何かを食べさせたい。
「ミスタ、ミスタ。聞こえるかい?」
ひらひらと彼の目の前に手を出して振る。流石に集中していたとはいえ、目の前に手が現れれば気づいたのだろう。呆けた顔になったミスタがこちらに視線をよこした。
「お前、何を食べたい?」
「お腹空いてない」
「でもそろそろ食べないとガス欠を起こしてしまうぞ」
「う~ん、でもほんとにお腹空いてないんだよ」
集中しすぎているのか空腹感を感じていないらしいミスタは、困ったように笑った。仕事熱心なのは結構だが、これは少しいただけない。
「じゃあ作ってくるから、大人しく待っていなさい」
「はーい」
俺の言葉に大人しくうなずいたミスタは、机の上の書類はそのままにリビングに向かっていった。彼がソファに座ってTVを見始めたのを確認して、俺はキッチンに向かった。
冷蔵庫にあった食材で適当に作ったカレーライス。辛いのが苦手な彼のために、甘めにつくってある。出来たぞと声をかければ、運ぶのを手伝いにキッチンにやってきた。
「あ、ダイニングの机の上そのまんまじゃん」
「少し行儀が悪いがリビングで食べればいいだろう」
「いいの?ごめんね」
申し訳なさそうな顔をする彼の頭をわしゃわしゃと撫でてやりたいが、あいにくカレーの入った皿と水の入ったグラスで手がふさがってしまっている。
リビングの小さめのテーブルは2人分の皿とグラスでいっぱいになってしまった。ソファで2人横に並んでカレーを食べる。
「美味しいかい?」
「うん。ダディの作る料理はいつも美味しいよ」
ガツガツと男らしくカレーを口に運ぶミスタ。横に座っているので横顔を見ることしかできないが、先ほど知性を宿していたその瞳は、今はカレーに向けられており恐らく美味しさで夢中になっているのだろうキラキラと光っていた。仕事をしていた時とは全く違う表情だ。集中していた時の人形のような美しさのあるミスタももちろん好きだが、今の表情豊かで子供のような顔をするミスタも好ましい。美人は3日で飽きると言うが、いつになっても飽きることはないと思う。
「どうしたの?食べないの?」
こちらの視線に気づいたらしく、怪訝そうな顔をしながらこちらを見つめるミスタ。
「なんでもないさ。ほらちゃんと食べなさい。口元にご飯がついているぞ」
幼子のように口の端にご飯粒を付けているのが、可愛らしくて、おかしくて笑いが込み上げる。ミスタと一緒に過ごす日々は刺激的で、毎日が喜びや楽しさで満ち溢れている。願わくばこの日々がいつまでも続きますように。そんなささやかな願いを抱きながら、カレーを味わった。