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    cheng_lyd

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    cheng_lyd

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    現パロside鯉登②
    杉元と鯉登が互いを一方的に認識しながら人生を生きている。途中モブが出てきます。中学生・高校生編。

    眉毛が変な男と傷が凄い男の話【side鯉登】
     
     ずっと気になっている男がいる。
    その者はいつも帽子を被っていて、身長は私よりも少し大きい。身体つきも何か運動をやっていたのか厚みもあり、ガタイもいい。
     パッと見は強面に見えるが、よく見れば男前な顔立ちをしている。誰にでも優しく、無類の可愛いもの好きでもあるようで周りからの評判も悪くない。しかし私の頭にずっと残っている理由は、そんなものなどではなく単にあの男の顔に走る大きな傷が目につくからなのだ。それしかありえない。
     
     私が初めてあの男を目にしたのは、確か私が中学生の頃だっただろうか。そう、あれは剣道の強化合宿に行っていた時だった。
     あの日は他の友人達と朝から集合し、合宿場所へ向かっていた。駅からマイクロバスで移動している途中、外を眺めている時だった。信号で停まった際に高齢のご婦人に手を貸している男が見えた。典型的な人助けをするやつもいるもんだと思いながら、なんとなくその男をじっと見つめていると、ふと被っていた帽子をあげた拍子に男の顔が見えた。
     溌溂とした笑い方をする男だと思った。その瞬間バスが動き出したので、その男のことはすぐに頭の隅に追いやられた。ただ、顔に走る大きな傷だけは酷く印象に残っていた。
     強化合宿とは言うものの、自由時間などもあり私は稽古の気晴らしに近辺をふらついていた。
     近いところに公園があったので、散歩がてらそこへ寄ることにした。そこは公園にしては割と広い場所で、息抜きをするには丁度良いところだった。
     ベンチに座って先ほどまでの反省点などを考えていると、キャラキャラと子ども達の楽しそうな笑い声が聞こえてきた。子どもが遊んでいるのかと思っていたが、どうにも子どもらしからぬ声が混ざっていることに気付き、一体どんなやつが遊んでいるのかと思わず興味本位で見てしまった。
     顔に大きな傷のある男だった。あの男は、高齢のご婦人を助けていた男によく似ていた気がしたが、そうそう見知らぬ土地で同じ人間に会うものだろうか?
     そんなことを考えていると、強い風が吹き遊んでいた一人の子どもの帽子が飛ばされてしまった。木の上にひっかかってしまったであろう帽子に、子どもは泣きそうな顔をしていた。
     「ちょっと待ってて、すぐ取ってきてあげるね」
     傷の男はそう言ったかと思うと、いとも簡単に帽子を取り子どもに返してあげたのだ。
     「お兄ちゃんすごい‼ありがとう‼」
     「これくらいなんでもないよ」
     そう言って笑う傷の男の顔は、ご婦人を助けた時と同じく溌溂とした笑顔だった。その顔に私はなんとなく既視感を覚えた気がしたのだが、それが何故かはわからなかった。わからなかったが故に、まだ傷の男を眺めていたかったが時間が許してはくれなかった。私は名残惜しくも合宿所に戻るため公園を後にした。
     合宿も最終日を残すのみとなった日の夕方、買い出しのジャンケンに負けてしまった私は外を歩いていた。
     ジャンケンで負けるなど…手合わせであれば私が負けることなどないのに。などと一人ぶつぶつ呟いていた。
     そう言えば合宿に来てから外を出歩くたび傷の男に遭遇しているな、と思考が変わったが何故こうもその男が気になるのかは自分でもよくわからなかった。傷が目立って目につくからか、何度も人を助けている姿を見たからか。
     だがまあ、いくらなんでももう見かけたりはしないだろう…。そう考えていたのに、
     ゴッ
     ガッ
     ガシャーン‼
     なんて酷く不穏な音が聞こえてきた。
     音がするのはどうやらすぐ近くの路地裏のようで、思わず顔をそちらに向けてしまった。数人の人間が倒れている中、一人だけ中心に立っている男が見えた。まさかとは思ったが、やはりそれは傷の男だった。ここまでくると運命か何かか?と思ってしまうが、そんな運命などはごめんだった。だが、そこにいた男のその顔は、今まで見ていた溌溂とした笑顔なんてものは嘘だったかのように、底冷えするほどの目をした震え上がりそうな獣の顔だった。傷の男はゆっくりとその顔をこちらに向けた、気がした。
     それからのことはあまり覚えてはいないが、友人に聞いたところ特に変わったことはなかったそうだ。帰ってきた時、私の顔色が少しだけ悪そうに見えたがそれだけだったと。
     傷の男の溌溂とした笑顔と、獣のような顔の二面性に自分の心の奥底にある何かが刺激された気がしたが、その後は合宿が終わるまで私は傷の男に会うこともなく、そのまま地元へと戻ったのだった。


     

     傷の男との二度目の邂逅は、高校進学のために上京を決めた時だった。剣道が強くかつ偏差値も高い高校を目指していた私にとっては、進路は上京一択しかなかった。
     上京をする上で寮に入るか一人暮らしをするかで悩んでいたが、高校生ではまだ早いと家族に断固反対をされてしまった。「平之丞が住んじょるところに一緒に住みやんせ。それなら安心できっ」と言う母の一言で、当時既に東京で暮らしていた兄の元で一緒に住むことが決まった。
     仕事で忙しくしている人だったので、一緒に住むのは邪魔にならないだろうかと少しだけ心配していたが
     「音が一緒に住んでくるっなんて嬉しゅうて仕方なか。兄さあは仕事でおらん時も多かかもしれんどん音が家んこっやってくれたや助かっど」
     と言ってくれた。まあ兄は私が言うのもなんだが、とにかく過保護で私のことが大好きだったからいらぬ心配ではあったのだが。
     
     無事高校入学を迎えた私は、充実した学校生活を過ごしていた。だがそれと同時に、上京をしたことでかつて会った傷の男のこともよく思い出すようになっていた。しかし、男に会った時に感じた心の奥底が刺激される感覚については相変わらず謎のままだった。
     『あの男に出会ったのは関東圏ではあるが、この辺りではなかったはず。ならばそう会うこともないだろうに、ここ最近頭に過ぎるのは何故だろうか』
     考え事をしながら歩いていたからか、私の不注意ですれ違う人とぶつかってしまった。
     「すまない、怪我は…「イッテェじゃねぇか何ぶつかってんだアァ?」
     ついていないことに、随分とガラの悪い男にぶつかってしまったようだった。負ける気はしなかったが、下手に面倒も起こしたくはなかった。家族に無駄な心配はかけさせたくない。
     「あんだテメェその顔は‼…いや、お前結構キレイな顔してんな。俺たちと遊んでくれんだったら許してやってもイイぜェ」
     不躾に肩に手を回し私を連れて行こうとするなど、なんだこの低俗なやつらは。穏便に済ませたいところだったが、仕方あるまい。と私が手に力を入れた時だった。
     「なにやってんの」
     声がしたと思ったら、一瞬だった。私に絡んでいた二人組の低俗な男共は、あっという間に地面に倒れていた。
     「なんだよ全然弱いじゃん」
     私を助けたのは、あの傷の男だった。
     「大丈夫ぅ?」
     この男に助けられたのが何故だかとても悔しく、私は男の顔をまともに見ることもできないまま「助かった、礼を言う」と言ってその場を去った。礼儀も何もなかったが、とにかく一刻も早くあの場から離れたかったのだ。あの男に、弱い男だと思われてしまったのかと思うと涙が出そうなほど嫌だった。
     何故あの男にそう思われるのが嫌なのかもわからず、こうも己の情緒が傷の男に掻き乱されていることがまたどうしようもなく腹立たしかった。

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    cheng_lyd

    DONE現パロside鯉登②
    杉元と鯉登が互いを一方的に認識しながら人生を生きている。途中モブが出てきます。中学生・高校生編。
    眉毛が変な男と傷が凄い男の話【side鯉登】
     
     ずっと気になっている男がいる。
    その者はいつも帽子を被っていて、身長は私よりも少し大きい。身体つきも何か運動をやっていたのか厚みもあり、ガタイもいい。
     パッと見は強面に見えるが、よく見れば男前な顔立ちをしている。誰にでも優しく、無類の可愛いもの好きでもあるようで周りからの評判も悪くない。しかし私の頭にずっと残っている理由は、そんなものなどではなく単にあの男の顔に走る大きな傷が目につくからなのだ。それしかありえない。
     
     私が初めてあの男を目にしたのは、確か私が中学生の頃だっただろうか。そう、あれは剣道の強化合宿に行っていた時だった。
     あの日は他の友人達と朝から集合し、合宿場所へ向かっていた。駅からマイクロバスで移動している途中、外を眺めている時だった。信号で停まった際に高齢のご婦人に手を貸している男が見えた。典型的な人助けをするやつもいるもんだと思いながら、なんとなくその男をじっと見つめていると、ふと被っていた帽子をあげた拍子に男の顔が見えた。
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