恥か勲章か恥か勲章か
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Side シンラ
「なァシンラ。最近大隊長、怪しくないか?」
ある日の夜。
ヴァルカンとの雑談でそんなことを言われた。
第8のシャワー室は、個室と脱衣所が分かれている。俺たちは今しがたシャワーの個室で各々、汗を流し終えてきた。更に言えば俺は身体を拭き終えて、黒のパンツに手を伸ばしているところだった。
「怪しい?って…」
どきっとした。
桜備大隊長との事は皆には秘密にしている。付き合い始めて半年。まだラブラブのはずの歳上の恋人の不審な点。聞き捨てがならない。
とりあえずパンツを穿いた後、眉をひそめて、ヴァルカンの方に向き直る。
「…どんな風に怪しいんだよ」
「なんか、こう?脱衣所からシャワーの個室に向かう時、後ろを隠すんだよ。今まではそんな事なかったと思うんだ」
ヴァルカンは、手にしていた支給品の薄いタオルを裸の上半身の後ろにぐるりと回した。ライン状のタトゥーの入った肩から肩甲骨までがタオルで隠れる。
その位置に、俺は先程とは別の意味でドキリとした。
「………..さぁ…な、何だろなァ?大隊長が何も言って無かったなら、特に何でもないんじゃないか?」
「それがさ、俺どうしたのかって聞いたんだよ」「聞いたのかよ。よくそんな事上官に聞けるな」
「ま俺はもともと消防官になりたくてたまらなかった訳じゃねェから怒られて追い出されても別に構わないしな…」
「そ、それもそうか」
「脱線したな。…で、大隊長にどうしたのか聞いたらさ、『背中の傷は恥、だからな』とか訳分かんない事言うんだよ。しかもドォォンとか変な効果音まで付けてさ。…なぁんか怪しくねェ?」
俺は想像の斜め上をいく桜備さんの回答に目をむいた。
桜備さん、、その誤魔化し方は色んな意味でアウトです。。
汗がじわっと滲んでくる。せっかくさっき流したばかりなのに。
「あ、あんまり上司を詮索しない方がいいんじゃね?」
「うーんまぁそれもそうだな。じゃぁ、お先。また明日」
何とかヴァルカンの意識を逸らす方法はないだろうか。しかし、ぐるぐる考えていた俺を置いて疑問提起をするだけしたヴァルカンは、さっさと服を着て廊下に出て行ってしまった。
「お、おやすみー」
た、助かったーー。
俺は廊下へのドアが閉まるなり、パンイチのまま脱衣所にしゃがみ込んだ。
俺の想定が正しければ、大隊長の広い背中にあるのは、ひっかき傷。もちろん出動現場で付いたものではない。おそらくはーー。
「お、俺のせいじゃん…」
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Side OBD
「ーーと言う事がありまして。本当に申し訳ございませんでした」
部屋に来るなり、パチパチと爪を切って、丁寧にヤスリをかけている歳下の恋人は、半べそをかいている。
先程、シャワー室で俺の背中の傷の事を聞いたらしい。
そういや、この前ヴァルカンに傷について聞かれたな。上手く誤魔化していたつもりが、シンラに変なカタチで伝わってしまったか。
「そんなに気にするなよ。もう治ったし」
「ですけど…」
肩甲骨の上の辺りの4本線。10センチ程の引っ掻かれた線と点々と半月形の爪を食い込ませた後がバラバラと付いていた。
それらは確かに最近、シンラに付けられたものだった。
この前の夜、ベッドの上で、シンラは「苦手な事がある」と告白してきた。
『俺。中を突かれてイクの苦手で』
『エ…なら、やめておこうか』
男としては技量不足を指摘されたようで、少しショックだった。しかし、大前提が男同士だし、身体は合わなければ繋がる必要までないとすら思っていたし、だから、別にーー
「あ。苦手っていうのは、エッチが嫌って事じゃなくて、気持ちよ過ぎて、深くイかされるって思うと怖くて全身に力が入っちゃって、上手くイけなくなっちゃって苦しいっていうか、もっと上手くイきたいっていうか…」
「ああ。なんだ、そんな事ーー」
どうやら遠回しに褒められていたようだ。俺は自信を取り戻して、真っ赤になりながら俯いている顎をすくった。いつも開始前から最大火力で煽ってくる歳下の恋人を今晩はどうしてやろうか。「変な心配させないで」と甘いキスをしながら、ベットに乗り上げた。
「ぁ…..っ、ふっ」
シンラはいつも最初は声を抑えようとする。
「あっんん、ん。んん〜っ」
しかし優しく身体を開いて、繋げて、緩く抜き差しをしていると、段々と息は荒くなり、押し殺していた吐息に、高くて細い声が混ざり始めたら、腰の動きを早めてもオーケーの合図だ。
温めたローションを足して、脚を折り畳んで身体を密着させて動くと「あっ、あっ!」と声が一段甘くなり、イチゴ色の瞳も蕩け始める。更に穴の手前の方にあるぷっくりとした膨らみを押し潰すように出し入れすると、赤い瞳は完全にとろとろになる。
そこまでいったら奥まで腰を突き入れて、そのままズチュズチュと水音がなるほど掻き回せば、限界まで足を拡げたシンラからは、あぁ、イイっ。ん、んんぅ気持ちいぃと『良い声』が上がりだす。
ここまではいつも通りだ。
問題はこの後。
「シンラ俺の背中に手を回して。怖くて力入りそうになったら爪立てていいから」
「あっんあっ、っはい…」
背中に手が回されたのを確認してから、動きを再開する。ずるり、と引き抜くと長く繊細な絹糸のような切なげな声があがる。全部抜いてから、また入れる。小刻みに腰を進めて、奥まで突いてから、一気に抜く。「アッアッアッあ、ん、はぁ…んん!ぁーーーっ、あっハッぅあっぁーーー…」
トントン、トントンとリズムをつけて突き入れ、細かな動きを繰り返していると、組み敷いた身体はびくびくと震え始めた。
「あ、あ、あ、あ。ぉあ!!あ!い、イクっう….っ」
ズンと奥まで一気に突くとひときわ大きくビクンと震えた。その後喘ぎ声がピタッと止んで2秒くらいの沈黙。沈黙の間、とろっと瞼が落ちてきて半目になる。快感の波に呑まれてウウッと歪んでいく唇。見下ろす全てが酷く扇状的だった。
ぴゅるるっと精を吐き出してからそのままカクンと力を失ったシンラを綺麗にして寝かせてやり、自分は姿見を見に行く。「あちゃー」と、1人で言ってしまうくらいには、好きにさせてた背中は中々に、大惨事だった。
行為の最中、ちくちくと背中に痛みが走っていた。
長く伸びた線は、ずるずると屹立を引き抜いた時にできたもの、半月の爪が食い込んだ傷は細かく揺りながら突き入れた時のものだろう。
「しばらくシャワーの時は気をつけなくちゃだな…」
しかし1週間もすると傷は消えてしまった。
「そんなに削ったら深爪になっちゃうだろ」
「あ!」
俺はしつこく爪を整えている恋人からヤスリを取り上げて、ちゅっとワザとらしい音を立ててキスをした。意識的に声を低くして耳元で囁く。
「ヴァルカンにはああ言ったけど、俺は別に背中の傷は恥じてないよ。シンラを気持ち良くさせた印なんて…もっと付けて欲しいくらいだ」
途端にシンラはトマトみたいになって、あ。とか、うぅ。とか言いながら陥落していく。
「だ、だからその台詞は、色んな方面からアウトなんですってば…」
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今夜は傷を付けたくないシンラ君を逆手に取って、シンラ君のおててを縛ってスるのも刺激的でイイかもしれないですね(その場合主に私が喜びます)
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