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    14februaryyy

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    14februaryyy

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    LB5 ケイアキ(※異のセンセと汎レウス)

    LB5ア…のリコレ開催記念🎉に便乗して、当時もそもそ書いてたケイアキちゃんを供養します。
    気が向いたら、レウス視点も書きたい。そっちにはいっぱいLB5関係者が出てくる予定なので。

    文章内にもありますが、異のセンセと汎レウスなので、そちらが大丈夫な方のみお読みください。また、LB5のネタバレを含みますので、そちらも大丈夫な場合のみお読みください。

    アカイユメ※汎人類史側の記憶を持つ異聞体ローンと持ってるならアポと汎人類史のみ(異聞体時の記憶はなし)のレウスが、センセの家でと同居してて、そのうち恋仲になるかもしれない現パロケイアキです。
    ※なので思いっきりLB5 アトランティスのネタバレに触れてます。
    ※異聞帯ケイローン×汎人類史アキレウスです(大事なことなので2回言う)

    ※以上が大丈夫な方のみお読みいただけますと幸いです。








    沈み行く夕陽に照されて
    白く輝いていた砂浜も
    光り煌めいていた波打ち際の泡も
    今は赤く染められている。

    あの美しかったエメラルドグリーンの海面でさえ
    空の茜色が写ったかのように
    淡く赤色が溶け込んでいて。


    目の前に広がる、赤い、朱い世界。


    その赤を背景に、弓矢にまみれた、
    長身の男が一人。



    私が見たことではない、のに。
    私は彼のことを全く知らない、のに。


    ──ああ、貴方はどうして───



    ゆっくりとさらに夕陽が沈み行く。


    地平線の彼方から広がる太陽の赤色が、
    私の視界までも朱く染め上げる。





    世界がその穏やかなアカイロになる。


    ──それはまるで哀しみを体現したかのような、
    赤い朱い、優しいアカい、夢だった。















    ***************

    締め切られたカーテンの隙間から、朝日が差し込んでいる。

    差し込む光が強いのか、それともそのカーテンの遮光性が低いのか。部屋の中は外からの光で大分明るくなっていた。

    それはきっと、閉じられた瞼の中からでも朝が来たのだと分かる程度に、容赦なく。

    既に暑苦しい夏の季節も終わり、昼よりも夜の方が少しだけ長い、大分過ごしやすい日々が到来してる筈なのだが。


    いつもよりも気持ち明るく感じることに不審に思いながらも、部屋の中央に──それなりには窓から離れた位置にある──あるベッドからゆっくりと、まだ眠りに引き摺られているかのように、ゆったりと、一人の男が起き上がる。


    電気を付けずとも分かる明るい室内は、かなり綺麗に片付いており、調度品も何もかもがきちんと揃い整えられている。
    部屋の主の性格を表すように整理整頓された部屋の真ん中で。その部屋の主である男は、上半身を起こしたそのままの状態で、虚空を見つめていた。


    まるで、今にでも、目の前にあの夢が始まると言うように。




    ──ドタン、バタバタ。ドン、ドン、バタン。


    その夢の残骸を壊すように、誰かが慌ただしく動き回る音が聞こえてくる。


    (──あの子が起きている。)


    弾けとんだ赤い夢ではなく、目の前に映る木目調のチェストを意識に入れながら、男は慌てて起き上がった。










    「珍しいよな、あんたが寝坊するなんて。」


    おはようございますと、朝食へ伸ばす箸を止めぬまま挨拶をしてきた緑髪の青年──アキレウスは、向かいの席に金髪の男が座ったのを確認して、そう声をかけた。


    「本当にすみません、アキレウス。朝の準備を何から何までしていただいて。」


    慌ただしい朝の挨拶をしながらやって来た金髪の男──ケイローンは、目の前の緑髪の青年へとしっかりと顔を向け、そう謝罪した。


    「……別に。いつもしていただいてることを返しただけだし、今日はいつもよりも早かったから時間があっただけで……」


    そう言って、アキレウスはその特徴的な前髪で視線を隠すよう横を向く。


    確かに彼の朝は早い。いつもケイローンが起き出して朝の準備をする頃には、日課のジョギングへと出掛けている。

    高校3年生という受験シーズン真っ只中でも体力が落ちないように──と、言っても、あの足では激しい運動はできないので、ジョギングとう名のウォーキングがせいぜいだが──毎朝欠かさず行い、そうしてその後に汗をシャワーで流す。

    しっかりと動いた後にシャワーを浴びてご飯を食べる──そうすると、体が目覚めた感じがして、その日1日を充実して過ごせるのだ。──と、いつだったかアキレウスは言っていた。

    だから、長めの時間を使って行われるそれを、今日はしていないことを知っている──顔を洗いに寄った洗面所で風呂場の不使用を確認してる──ケイローンは、彼に無理をさせてしまったと、気に病んだのだが。


    「ああ、すみません。朝の準備をしてくださり、ありがとうございます、アキレウス。とっても美味しい朝食ですよ」


    アキレウスのその態度で、何かに気付いたケイローンは、とても優しく微笑みながら礼を述べた。


    「ん。先生が気に入ってくれたんなら良いんだけど。」


    今度はその赤くなった顔を隠すように、アキレウスは下を向いた。それを微笑ましく眺めながら、ケイローンは目の前の食事へと目を向ける。



    アキレウスが用意した朝食は、ご飯に味噌汁、こんがりと焼けた紅鮭に、ほうれん草のおひたしとひじきの煮物。

    育ち盛りであるアキレウスには多少物足りないようで、彼のそばには既に空になった納豆の容器が転がってる。


    煮物はケイローンが作り置きしている幾つかの惣菜から出されているが、おひたしも紅鮭も、アキレウスが自分で作ったものだろう。
    味噌汁は昨日の夜の残り物ーー野菜ときのこの具材たっぷりーーに豆腐が追加されており、温めるついでに手が加えられていた。


    朝食をしっかりと摂ることは、その日1日を過ごす上で大切なことだと、そう教えているケイローンは、どんなに忙しい朝でも、きちんと用意していた。

    ただ、食べるのではなく、栄養バランスも考えて。
    アキレウスが自立した時のことも考えて、どういったものを摂れば良いのか、その日その日解説を加えながら、朝食を出すのはケイローンの日課だった。


    (──それを今日は、あの子が。)


    我が子の成長に、少しだけ誇らしく思う親の気持ちになりながら、ケイローンは彼の焼いた紅鮭へと箸を伸ばした。


    「まあでも、この鮭は少し焼きすぎですね。今度きちんとした魚の焼き方をお教えしましょう。」



     ◇ ◇ ◇



    「随分とご機嫌だな。」

    時刻は12時10分。
    秋晴れの青い空の下。教員棟のすぐ近くにあるベンチに座って弁当を広げていたケイローンは、隣でその様子を眺めている黒髪の男を一瞥する。

    「そう見えますか?」

    ふふふ、と堪えきれない笑みをこぼしながら、ケイローンはそっと慎重に弁当の蓋をあける。

    「見えるな。」

    尚も嬉しそうなその様子を眺めながら、黒髪の男は肯定の意を示す。

    「ええ、まあ、そうですね。確かに良いことはありました。」

    「なんだ、生徒の中から校則違反でもしてた奴が居たのか。」

    その儀式めいた蓋明け作業が終わったからか、ただ単に己の食事に集中しようと思ったからか、漸くケイローンから視線を外した男は、興味なさそうにそう聞いてきた。

    「あなたではないんですから、違いますよ。」

    呆れたようにケイローンは返す。

    「俺にもそんな趣味はない。」

    「ええ、そうでしたね」

    そっと手を合わせ、きれいに揃えた箸を弁当へと伸ばしてく。
    その様子を視界に入れながら男はおかずを口に入れる。今日の煮物はやや固いな、そんなことを思いながら、同僚の──この何でも器用にこなす男の──今日の献立を眺めた。

    いつもならきれいに収められ、彩りもばっちりな弁当は、何故か今日に限ってかなりちぐはぐだった。

    「ケイローン、まさか朝から何かあったのか?」

    それはあまりにも普段とは違う、友を心配しての言葉だったのだが。

    「それも分かりますか?そうなんです、朝からとっても良いことがありまして。」

    返ってきたのは何故か弾んだ声。
    普段穏やかなこの友からは珍しいはしゃいだ声色。
    そこで男は悟る。ーこの先を聞いてはいけない。

    「そうか、そういう日もあるな。そういえば今日のお前のクラスなのだが───」

    「それよりも聞いてください。あの子がですね、」

    ああ、よりにもよって"あの子"の話題。
    今日の昼の時間はこの話で終わるな──そう諦め、男はケイローンの話に耳を傾けた。










    放課後のチャイムが鳴る。
    漸く窮屈だった机と椅子から解放されると、大喜びで教室を出て行く若者たち。

    縮こまった体を伸ばそうと部活へと駆けていく者に、帰ろうと友人と連れ立って廊下を歩く者。静かな場所を求めて図書館へと向かう者等々。皆思いに思いに放課後を謳歌する。


    生徒たちによる掃除を見届けたケイローンは、そのまま残って雑談していく一部の生徒たちに見送られながら、教室を後にした。



    下校の挨拶を次々にする少年少女たちに、笑顔で返しながら、これからどうしようかとケイローンは考える。
    今日は自身の顧問する部活動は休みであるし、ちょっと前に定期テストも終ったばかりなので、急ぎの仕事もない。
    明日の授業の準備こそあるものの、そんなに時間はかからないだろう。

    昼のお礼をしようと今日の夕飯は腕によりをかけて作りたいケイローンは、早めに上がることだけを己の中で誓って。

    取り敢えず、自身の担当する数学準備室へと足を向けた。



    ケイローンが教鞭を執っているこの私立学園は、幼稚園から大学まで存在する一貫校で、生徒数もそれなりに多く在籍している。

    のびのびとした校風が売りであるため、通う生徒も教える教師も、基本にはのびやかな人間が多く、溌剌とした雰囲気が校舎全体を包み込んでいる。

    ケイローンが主に教えるのは、中学生であるが、たまに臨時で高校生にも教えることがある。

    今、担任を受け持っているクラスは3年生だが、受験を意識しない環境なので──ほとんどがそのまま附属の高校へと進学するため──もうすぐ前期が終わる今も、生徒たちは後期始まってすぐにある文化祭の話題で持ちきりだった。

    ついこの間のホームルームでも、クラスで行う出し物の詳細を話し合う場となっていた。きっと先程の残った生徒たちの中にも、すれ違った生徒たちの中にも、これから待っている文化祭の話をしている生徒はいっぱい居るのだろう。
    そんなお祭り前の期待感やわくわく感で学校全体は大いに盛り上がっていた。

    ケイローンは微笑ましい気持ちになって校内を眺める。
    にこにこと微笑みながら、ゆっくりと廊下を進んでいく。
    ふと目にした廊下の窓から、きれいな青空が見えて。ケイローンは立ち止まって、そちらを思わず眺める。


    ──そういえば、そろそろあの子が来てから3年になるのか。


    3年前のあの日。
    ちょうど今日のような秋晴れで、澄みきった青空が広がっていて。

    洗濯物もよく乾くだろうと衣替えで役目の終わった夏服達をたくさん洗い、庭先で干している中。

    友人に連れられてやって来た一人の男の子。
    まだ成長途中の細長い手足をした少年は、ここではないどこかを見つめていて。

    さっきまでさんさんと光差していた太陽が、急に雲の合間に隠れて陰ってしまったかのように。

    その少年がゆっくりとこちらを向いた。

    二対のまっすぐな瞳が、しっかりとケイローンを捉えて───


    「ケイローン先生、どうかされましたか?」

    渡り廊下の真ん中で外の景色を眺めていたケイローンは、背後から急に掛けられた声に驚きつつ、振り向いた。

    そこには同じ学年を担当する国語教師が居て。

    この渡り廊下は狭い作りのため、人一人が通るのには十分でも、行き交う人が互いに支障なく通るためには不十分な幅しかない。通行の妨げになっていることに気付いたケイローンは慌てて体を寄せながら、同僚に謝罪を述べる。

    「すみません。少し考え事をしてました。」

    そう言ってケイローンは微笑んだ。





     ◇ ◇ ◇





    一面に広がる赤い空と赤い海。
    足下から伸びる赤い砂浜。赤い波間。

    見渡す限りの赤い世界。

    それらはさっきまで本来の色で美しく輝いていたのに。

    あの男の生き様のように。
    力強く、 それぞれがきらめいていて。

    それなのに今では全て真っ赤な色をしている。


    ──そういえば彼はどうしたのだろうか


    私は彼の最後を見届けないといけない。
    彼の男の勇姿を、最期まで。


    目の前の赤色が一層と暗くなる。
    もうすぐ夕日が沈むのだ。そうなれば、辺りは闇に包まれて、見るのも難しくなるだろう。


    その前に、彼を。
    ──そう、振り返った先に、波間に揺れる影。

    あれは──


    ──そこにあったのは波に流されることなく佇む、
    ぼろぼろの大量の弓矢だった。










    PiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPi───


    けたたましい音を立てて、朝の合図が鳴る。

    部屋の中央にあるベッド横のこじんまりとしたチェストの上で跳ねるように時計のアラームが鳴っている。

    それを茫然と眺めながら、ケイローンは無意識のうちに手を伸ばす。意識しないまま触れたボタンによってアラームは解除されたものの、ケイローンは体を起こしたきり、虚空を眺め続けていた。

    ──そうだ、あれは───

    何かを掴もうと、何かを思い出そうとして、その虚空へと手を伸ばした瞬間。
    また、もう一度、あのけたたましいアラームが鳴る。

    その音で、弾かれたように我に返ったケイローンは慌てて、時計のボタンを押える。強めに押さないとスヌーズして延々と鳴り続けるそれを、普段は決まった時間に自然と眠りから醒めるケイローンは知らなかった。──だというのに、アラームをかけたのは、昨日の失敗があったからなのだが──。

    また鳴っては困ると、アラーム自体のスイッチをオフにして。ゆっくりとベッドから起き上がる。

    兎に角。顔でも洗ってはっきり意識を覚醒させようと、ケイローンは自室を出ることにした。




    「あれ、アキレウス。起きているのですか?」

    「おはようございます、先生」

    そう言って顔を出したアキレウスの姿は、朝練用のジャージではなく、ワイシャツにスラックスの上からエプロンを付けたものだった。

    廊下を出ると同時に、キッチンダイニングへと通ずる扉が開いて、そこからアキレウスの姿が現れた。ケイローンは驚いて思わず声をかけたのだが、アキレウスからの挨拶も返すことができずに茫然とその姿を眺めてしまう。

    開いた扉から、香ばしい匂いが廊下に流れてくる。

    見れば食卓には既にほとんど完成間近の朝食が並べられていて。
    目玉焼きにベーコン、サラダにスープ。どうやら今日は洋食らしい。チンと音がしたので、食パンをトーストしたのだろう。

    「センセ?」

    「あ、いえ。今日も準備をしてくださってありがとうございますね。──先に顔を洗ってきます」

    慌てて取り繕って、ケイローンは洗面所へと急ぎ足を向ける。不思議そうに瞬くアキレウスの瞳を見ないように顔を伏せて。そのそばを通り過ぎた。




     ◇ ◇ ◇





    「不服そうだな。」

    無言で弁当箱を見つめるケイローンに男はそう声をかける。

    「今日もあの子が作ったんだろう。昨日のように喜ばないのか。」

    「普段ならそんな事ないんです。生徒が自主的に──それこそ、私ではなく別の方に教えを乞うでも、私の教え以上に何かを学ぶことはとても素敵なことだと思います。──でも、あの子が私以外の誰かから学んでいることに耐えられないのです。あの子に、あの子が生きるための何かは私が教えたい。」


    ──あの子が私の元に来た日に願った彼が彼の成りたい姿を叶えさせるために教えを授けたあの時から、あの子の教師は私だけでありたい。


    胸のうちから、そんな心の声も聞こえてくる。


    「まるで嫉妬だな、それは」

    誰かにあの子を取られたくない、そう聞こえる──そう言って、男は自身の弁当から玉子焼きを箸で掴んで食べた。

    巻きが甘くて、外側が崩れていたが、玉子焼きはしっかりと出汁の味が効いていて美味しいと男は思った。以前は殻まで入っていたことを考えれば随分と進歩した……そう感慨に耽っていたが、難しい顔をしながら弁当を食べ続けるケイローンが男の視界に入り。

    仕方なく箸を置き、少し前から気になっていたことを尋ねた。

    「でもあと半年もしたら出ていくのだろう。お前はいいのか? それで」















    「そういえばアキレウス、あなたどうするのですか?」

    夕食後、食器の片付けをしながら、横に立つアキレウスにケイローンはそう尋ねた。布巾を持って洗った食器を拭いていたアキレウスは、その質問にきょとんとまばたきを一つして見せた。


    高校3年生のアキレウスがその後、どういう進路をとるのか、ケイローンは全く知らなかった。

    そもそもアキレウスを預かるのも、彼が高校を卒業するまでである。
    卒業し、大学へ進学するのか、専門へ通うのか、就職し働くのか、そこから先はアキレウスが決めることだ。その進む先で実家に戻るのか、一人暮らしをするのかも、彼の結論次第だ。

    ただ、結局、母親とのわだかまりはあまり解消されてないようだから、どれを選ぶにしろ、実家には戻らないのだろう。
    そうすると、彼が成人するまで、面倒を見てほしいとも言われた身からすれば、まだこの家に居てほしい気持ちはあるが。


    『お前は良いのか? それで』

    昼間、友人から言われた言葉を思い出す。

    いや、アキレウスの成長を望むのであれば、確かに、一人で自立したいと懇願されれば、それを受け入れ見守るのが、正しい保護者なのだろう。

    だが──


    「そこら辺含めて、今度の休み時間がほしいんだ。」

    ちょうど俺が来て3年目だし、先生に色々お礼も兼ねてしたいから、さ──と、アキレウスは少し照れ臭そうに笑った。

    カレンダーを見て気付く。
    今度の休みは、アキレウスが来たあの日だった。





     ◇ ◇ ◇





    赤い夕日を背景に、その男は仁王立ちしていた。
    まるでその先は通さないというように。

    たくさんの弓矢を体に浴びて。それでも堂々と立ち塞がっていた。

    ──彼は、何故。


    さっきまで豪快に振るっていた槍も今は動くことなく砂に突き刺さったままで。


    飲み込んだあの男の記録から流れ込んで来た極東の英雄のように。

    威風堂々と。
    その存在は真の英雄であるように。

    未だ消えることなく、立っているその男を見据える。


    もう動かなくなってしまった彼を──どんなに射ぬいても止まることのなかったのに止まってしまった彼を──放ってしまえば良いのに。

    気付いたら彼の目の前まで来ていて。

    どうしてもその存在に惹かれている自分が居て。

    堂々と立ちながらも、俯いたその顔がどんな表情をしているのか。最期の瞬間の、彼の顔。それがどうしても気になって、伺おうとそっと前髪に手を触れ。


    持ち上げた先に見たもの、は。


    満足そうに微笑む男の──アキレウスの顔がそこにはあった。










    「……セン…、………生、朝…すよ……、先生………………ケイローン!!!!!」

    急に耳元で大声が聞こえ、ケイローンは慌てて目を覚ました。
    カーテンの開けられた明るい部屋の中で、ベッドの横に立つアキレウスが心配そうにケイローンを見つめている。アキレウスが自室に居ることに、或いは急に入り込んできたまぶしさに、ケイローンは思わず目を細めてしまう。何度か瞬いて、この状況を把握しようとするが。
    その様子を、二対の緑色の瞳が真剣にこちらを見据えており。

    「ケイローン先生?」

    ──一瞬、アキレウスの顔と体に、夢のあの男が重なって見えた。まっすぐなまなざしが、まるであの男と同じ鋭さを秘めているように感じてしまい。慌てて頭を振ってその影を追い払う。このアキレウスは、あのアキレウスとは違う。だって彼は───

    「センセ、やっぱり調子悪い? それなら休んだ方が良いんじゃねえか?」

    体を少しだけケイローンへと近付けながら、気遣うようにアキレウスがそう声をかけてくる。

    「いえ、そういう訳では──」

    そう言って、体を起こそうとするものの、急に眩暈が起きたケイローンはふらついてしまう。咄嗟に手を付こうとするが、それよりも早くアキレウスがその体を支える。血の気の引いた青い顔をしたケイローンは、誰が見ても明らかに体調が悪そうであった。

    「センセ、今日は研究日だろ? 家のことは俺がやっとくから休んでなよ」

    じっとこちらを見つめるその目は、幼い頃、自分に何かあった時に見せた瞳とそっくりで。動揺しているのにも関わらず、それを必死に隠して気丈に振る舞って。泣くのを我慢していたそんな幼かったあの子のままで。──そんな彼は知らない筈なのに、何故かこの時ケイローンは知っているとそう思った。

    「本当に大丈夫ですよ。でもそうですね、少しだけ休むことにします」

    泣くのを必死に我慢する幼子を慰めるよう、優しくそう伝えて。
    ケイローンは少しばかり休息を取ることにした。

























    静寂が広がる赤い世界。
    ──ああ、また此処ですか。誰もいないその場所で一人納得する。

    さっきまでの喧騒が嘘のように、凪いだ無音の世界。
    波の音さえも全く聞こえてこない、音のない世界。

    ただ、夕陽によって作られた赤色だけが存在する世界。
    よりいっそ輝くその光に照らされて目に写るすべてのものが、輪郭すら失って、赤と同化する。


    彼が消えてから幾度なく思い出した光景。
    太陽が沈みきり、真っ暗になったその中で、記憶に──記録に──焼き付けるように何度も何度も反芻した。

    私の中の記録が叫ぶ。
    ───いや、誇らしく笑う。


    その感情が理解できなかった。その感傷が分からなかった。ただ、疑問だけがこだまして。何度も何度も問いかけた。


    ──ああ、貴方はどうして。どうしてそうなってまで駆け抜けられるのか───


    霊核は破壊した。心臓も潰した。
    弱点である踵はとうに射ぬかれた後で。

    殺せる筈なのに。殺した筈なのに。
    この手で終わらした筈なのに。


    ──とうとう最後まで勝てなかった。彼は最後まで立ち上がり、槍を構えていた。
    死して尚、立ち向かい続けた。


    分からない。どうして、そう立ち上がれたのか。
    どうしてそう戦えたのか。


    彼の体は神によって守られていた。
    だから、傷付けることができたのは私だけで。
    唯一加護がかかっていないあの部分を射ぬけるのも私だけで。

    だから、私が。私だけが彼を倒せたはずなのに。


    記録の私が笑う。
    ───だからこそ、だと。


    その声を忌々しく思う。
    その影を鬱陶しく思う。

    私であって、私ではない、その記録を見るために取り込んだ──飲み込んだ──もう一人の私の、その存在が。

    鬱陶しくて仕方なかった。
    忌々しくて仕方なかった。

    見ないように目を背ける。
    逃げるように目を閉じる。

    汎人類史に刻まれた私。
    異聞帯の私とは異なった道筋を歩んだ私。

    あの時は特に感慨もなかった。感傷もなかった。
    もう一人の私の記録なんて──記憶なんて──、ただの情報でしかなかった。汎人類史を打倒する為の手掛かりでしかなかった。

    それなのに。

    あの男の最期を見送った辺りから。
    もう一人の私が存在を持って私の中に現れ始めた。

    記録を──記憶を──参照した訳じゃないのに、私の中で勝手にもう一人の、汎人類史の私が語りかけてくる。話しかけてくる。

    あの子のことを私に伝えるように。
    どれだけあの男が英雄であるかと誇るように。


    それらが。
    どれだけ羨ましかったか。


    私には理解できないあの男の生き様を、その行為の意味を。
    私には分かると、そう告げるように語りかけて笑って。

    羨ましかった。理解できる私が。誇らしそうに微笑む私が。

    だから考えないように耳を塞いで。
    見ないように目を閉じて。

    でも。

    目を閉じたって。“私”が消える訳じゃない。
    もう一人の私。汎人類史の貴方。

    もう既に、私の中の記録で記憶でしかない“私”は優しく微笑んで。ゆっくりと、こちらに問いかけてくる。

    ──私があの子のことを語るのは嫌だ、と。

    「そうですね。私はきっとあの子が取られるのが嫌なのだと思います。それがたとえ、もう一人の自分だったとしても」

    私は貴方とは違う。
    あの子を育てたのは貴方であって、私ではない。
    あの子の最期をいつも見られなかったのも貴方であって、私ではない。

    ──それでも。

    いや、だからこそ。


    あの子の生きる様を駆け抜けるその先を、最後まで見届けるのは他の誰でもない、私だけのもの。
    あの子の隣で。ずっとずっと。


    それは、貴方にだって譲れない。
    彼の最期を見届けた私だけの特権。


    閉じていた瞼を開けて、暗闇に包まれた辺りを見渡す。
    彼はもういない。ボロボロの弓矢もない。

    その光景をもう一度焼き付けるように瞼の中に閉じ込めて。
    踵を返し、私は歩き出した。











    チチチチチ───と、鳥のさえずりが聞こえてくる。
    まだ陽が登ったばかりなのか、カーテンからかすかに漏れる光によって、うっすらと明るくなった室内でケイローンは目を覚ます。

    久し振りにきちんと目醒めることができた、そんな感覚があり。ゆったりと体を起こす。

    しっかりと休養を取ったからだろうか。
    昨日まであった倦怠感も焦燥感も、きれいさっぱりなくなったいた。


    たとえアキレウスがどんな答えを出そうとも。
    その彼をそばで見つめ続けるケイローンは、自分しかいないのだ。
    もう記録で記憶として残っていた私はもういない。ならば。

    それならば、あの子の一番近くで見守り続ける存在も私だけでありたい。
    あの子の親には申し訳ないけれども、どうしてもあの子の一番そばに居ることを、譲れなかった。譲りたくなかった。

    あの日、目の前にまた現れたその時から。
    きっとケイローンは思い出したのだ。惹かれた彼が今、目の前に居るのだと。

    もう不安はなかった。
    一番身近で、一番そばの位置に、あの子が頼れる存在として居続ければ良い。それは今と何も変わらないこと。であるならば。もっともっとそばにいる口実を作れば良い、それだけだった。

    少しだけ楽しくなって微笑む。
    カーテンを開ければ、そこには透き通るような薄い青色をした、雲一つないきれいな空が広がっていて。

    「今日も一日、良い日でありますように」

    そう願って、ケイローンは優しく微笑んだ。












    雑な捕捉

    センセ
    異聞帯ケイローン。ずっと汎人類史ケイローンの幻影に囚われてて、その彼の生き方をトレースしてる部分がある。教師やってるのもその影響だし、レウスのパパと仲良しなのもその影響。
    アキレウスのことは普通に預かってたお子さんだったけど、異聞帯時の執着を思い出して徐々に歪む。囲ったりはしないけど、親以上に親であろうとするみたいな執着は見せる。多分。
    センセがその気にならないとくっつかない気もするけど、手放す気もなさそうで……レウスが出てくって言ってもそれは尊重してくれそう。どうなるかはレウスの頑張り次第。

    レウス
    汎人類史アキレウス。異聞帯の記憶はないので、センセはセンセだと思ってる。自分は記憶持ちだけど、センセからそういう雰囲気がないのでそこら辺は気にしてない。
    因みに、既に踵を怪我していて走れなくなってるアキレウス。中三の時に怪我してて、それで色々あって(まあ大体は母親関係)ケイローンの家に居候することになった。
    レウスはセンセ好きだけど、かなりの年の差だし、きっと子どもとかしか見てくれてないから、告白する気も付き合いたいなっていう感情もない。ただ隣にいたい。問題は行きたい大学が遠いかつ、成人間近で、この家(ケイローンセンセの家)出なきゃいけないかもなので、少々複雑。その事を級友(黒のライダー)にしたら、「じゃあ、自炊できるアピールしたら?」とか言われたので、それで積極的に朝ご飯とかお弁当作り始めた。それって一人立ちできるアピールじゃん?方向性違くないか?とか多分、ホムンクルスだったマスター(こちらも級友)が首を傾げてる。

    ケイローンの同僚
    異聞帯の仮面の人。ケイローンの親友で、ちょくちょく彼の悩み相談乗ってくれてる。お昼はいつも一緒に中庭で食べてるので、生徒の間でも仲良いことが知れ渡ってる。記憶があるかは不明。
    因みに、彼の弁当を作ってるのは某キュケーオンの人。特に彼女とかでないけど仲が良い友達。多分。何で弁当作ってもらってるのか、本人も良く分かってない。

    アキレウスの愉快な仲間たち
    級友に黒のライダーとそのマスターが居たり、彼のバイト先に例の因縁相手(弟の方)が居たりと、前世、アポ関係者がちらほら居る。
    因みに、アキレウスの相談相手筆頭はヘクおじだったりする。近所のお兄ちゃんで、槍投げ教えてもらってた(そこそこ有名な人)。レウスがセンセ宅にお世話になってる経緯とかも知ってる。ヘクおじは異聞帯の記憶もある。
    あと、彼のバイト先であるバーは、レウスくん自身は知らないけど、異聞帯繋がりで集まった人ばっかりだったりする。ほぼ異聞帯記録保持者。レウスくん視点の話には出てくる予定。


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    👏👏👏💖💖
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    14februaryyy

    DOODLE響伊
    着物セする響伊ちゃんの導入話
    (※着物セはしません)

    だらだら書いてたら長くなったので、とりまここだけ放出しときます。これの話の先に以前投げた制約付けた話が来ます。
    今回はセッシーンはないです。今後投げるかは未定です。
    『伊織って女王様みたいなとこあるよね』
     そう榊が言っていたのは何時のことだったのか。あまり記憶にないが。確か何かの個展で灰島と組む機会があって、その際によくそうこぼしていた筈だ。
     卒業してしばらく経つが、榊も榊なりに色々なアーティストと組んでいたから、『一級品な皇帝様と組めるなんてラッキー』なんて、最初こそは喜んでいたが。個展の準備が終わる頃には大分げっそりとしていて。なかなかの見物だった。普段はのらりくらりと、どんな相手にも適度な距離感を保ち、余裕綽々を地で行く男でも。灰島伊織という男は鬼門であると知って。──少しだけホッとしたのを覚えている。榊程の男でも振り回されるなら、俺が振り回されるのも仕方がないということだ。……別に、俺が人とうまく関係を構築できないのが原因ってわけじゃない。あいつが規格外なだけだ。そう自分に言い聞かせることが出来るわけだし。──そうだ、俺は悪くない。全部あいつのせいだ。そうやって責任を押しつけて、逃げられる。──そう思っていた。
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    14februaryyy

    MAIKING土斎
    スペース組ネタ
    ※スペ土×斎ではないです
    ※冒頭のみ

    土さん誕生日お祝いに置いときます🎂
    本当は年末にペーパーになる予定だった残骸です。
    これの続きというかオチはあるのですが、間がないので取り敢えずここまで。どっかで形にしたいな~~とは思ってます。
     一瞬、何が起こったのか分からなかった。僕はさっきまで目の前のスマートフォンをいじってた筈で。それ以上でもそれ以下でもなく。ただ目を開けたら、世界が一変していた。それだけで。現代社会に居た筈なのに、気付いたら知らない別世界に居る、とか。そんな小説じゃないんだから。
    「いや、ほんと。どういうこと?」
     眼前に広がる光景に、ただ目を丸くする。

     スマホが光った先で、異世界転生、なんて。とても洒落にはならないんだけど。



     それは本当にいきなりだった。
     特に変わったことがあった訳でもない。例えばこういう場合に(もちろん現実ではなく物語の中での話だが)よくありがちな、スマホ画面に何か変わった表示があったとか、余所見をしていて轢かれそうになったからとか、そういう事象が直前に起こった訳でもなく。ただただ目の前のスマホをいじっていた、それだけだったのに。
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