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    エリンギ猫

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    君の温もりが1番の癒し | エリンギ猫 #pixiv https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=17237814
    起きたディルックの短いお話

    少しだけ続きあれ、とディルックは夢見心地で違和感を覚えた。瞼は閉じたまま手をさ迷わせ、確かに隣にあった温もりを探す。しかし目当ての温もりはとうになく、ゆっくりと瞼を押し上げた。ぼやける視界のピントを合わせように何度か瞬きを繰り返して、首を持ち上げた。サイドチェストの上に置かれた小振りな時計を見れば、とっくに9時を過ぎていてディルックは慌てて飛び起きた。

    「やってしまった…!」

    今頃ワイナリーではもぬけの殻となったディルックの部屋でアデリンが仁王立ちをしている事だろう。闇夜の英雄業に勤しんだ帰りだったのもあって、当然ながらメモも何も残してきていない。
    ベッドの上で頭を抱えたディルックは溜息を吐き出して、ポスンと枕へ倒れ込んだ。
    ふわりと香るガイアの匂いに、一瞬、眠気が訪れそうになったが流石に二度寝は出来ないと顔を上げる。

    ディルックが昨夜脱ぎ散らかした衣服達がきっちりと畳まれ、机の上に置かれているのが目に入った。服の上にちょこんと置かれた神の目に、いくら疲れていたとは言え神の目すら放り出すのは如何なものかと自分相手に思う。

    やれやれ、と肩を竦めてディルックの服を拾い集めるガイアの姿が目に浮かんで、胸の中が温かいもので満たされた。

    なんとも几帳面な男なのだ。ディルックの服など布団の上にでも置いておけばいいのに。

    緩んだ口元を締めることもせずベッドから降りて畳まれた服を手早く身に付け、これまたきっちりと揃えられていたブーツを履いた。数日間悩まされていた頭痛も治まり、比較的軽くなった身体をググッと伸ばして肩を回す。

    ガイアは朝起きた時に隣に居たディルックを見てどう思ったのだろうか。放置されたと思うべきなのか、ゆっくり寝かせてくれたのだと思うべきなのか、少しだけ考えて都合よく後者として受け取っておく。

    名残惜しく思いながら寝室を抜けるとダイニングテーブルの上に何やら皿が置かれている。カバーをしてあるそれを覗き込むとトーストが1枚だけ置かれていて、思い出したかのようにディルックの腹が鳴った。

    「…わざわざ作ってくれたのか」

    妙にむず痒く思いながら、軽く焼き直してトーストへ齧り付く。伸びるチーズを零さぬよう気を付けながら黙々と胃袋へ収めた。
    机の上に置かれていた珈琲を1つ頂いて、眠気を吹き飛ばす。相も変わらず美味しくない。

    帰ってきてから洗うつもりなのか、シンクに置かれたまま食器を、せめてもの礼に纏めて洗って水切りカゴの中へ入れて置いた。

    そして、同じくテーブルの上に置かれていたメモと合鍵と思わしきものを手に取って、少しだけ乱雑に書かれた『鍵は植木の下』という素っ気ない文をじっと見つめた。本当に律儀な男だ。
    そもそもディルックは不法侵入なのだから、丁寧に服を畳む必要も朝食を用意しておく必要も無い。

    なんとも可愛らしいな、と胸の中で独り言ちる。
    ガイアの走り書きの下に『ご馳走様』とだけ書き連ねて、机の上に置いておく。

    少しだけ後ろ髪を引かれながらゆっくりと扉を開け、周りに人がいないことを確認して素早く鍵を閉めた。伝言通りに植木の下へ鍵を隠して人通りの少ない道を選びながら歩き出す。

    ガイアの仕事が少しでも早く落ち着くことを祈りながら、何だかんだディルックへ甘いあの男の為に秘蔵のワインを出してやろうと考えた。きっともうそろそろ落ち着くはずだ。

    抱き寄せた身体の温もりが未だ忘れられず、ディルックは小さく笑い声を洩らして、ワイナリーへの道を急いだ。

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