「臣さんって酷いよね。」
「あ?」
金曜日、20時。
情事の後、身を清められ、明日は学校も休みだしもうこのまま寝てしまおう、2人して布団に潜り込んだ。そこで、頭が疲労と睡魔で船を漕いでいる中、臣さんに思ったことを告げれば甘さも何も無いいつもの声で凄まれた。
部活後に漫画を読みに臣さんに今日は父さんと母さんがいないからうちで食べてけば?なんて白々しく誘ってみれば、そんなことを見透かしているような顔で臣さんは了承した。
こんな遠回りにしか誘えないことなんて、臣さんにはお見通しで。
夕食後は何も言わないで勝手知ったる顔でシャワーを浴びに行くし、俺もそれを止めない。部屋のクローゼットの中には臣さんのスペースができてしまっている。
2人ともシャワーを終えたあとは、いつものようになし崩しで、俺は臣さんにされるがままだ。
キスをして、髪をかき混ぜられて解かれて。
腰、背骨、肩甲骨、項。日頃俺を引っ張る力からは信じられないくらい優しく触られて。
つむじからつま先まで、今までの行為の中でキスされたところはないんじゃないかと言うくらい口付けられる。
挿れてからもそうだ。全身を強くかき抱かれて、俺の顔を見ながら。絶対に自分本位にはしない。
その間、俺は自分の体を制御出来なくてされるがままで、喉からは意味をなさない音が溢れ出る。
手の甲で必死に抑えようとしてもその手すらからめとられて、声を呑み込むように深く口付けられる。
そして何よりも言葉だ。あの伸びの良い歌声を奏でるあの口が紡ぐのだ。可愛い、好きだ、綺麗、愛してる。どこを見ているのか、何回も臣さんの目は節穴なのかと疑った。
甘い、臣さんとの行為はとにかく甘いのだ。こんなに甘かったら過剰摂取で死んでしまう。離れることなんかできそうにない。この男はそれをわかってやっているのか。
これは劇薬だ。最悪の。
「おい、酷いってどういうことだよ。」
「別に、寝言。」
「しっかり起きてんじゃねーか。」
後ろから抱きしめられていた腕に少し力が入れられる。
「おい、侃。」
自分の思い通りにならないと気が済まない男が耳元で囁く。今は部屋に2人しか居ないからこの響きはこんな時にしか聴くことができない。
この男は俺が結局逆らえないことを知っているのだ。
「臣さんは酷いよ。これ以上俺を離れられないようにしてどうする気?」
「あ?……ふーん。」
声を聞かなくてもわかる。これは策略が上手くいった時に浮かべる表情をしている。きっと今にも鼻歌を歌い出しそうな顔だ。
「安心しろよ、ちゃーんと責任取ってやるから。」
結局、俺は臣さんの手のひらの上で転がされているに過ぎないのだ。まぁ、もう少し、もうちょっとだけならこの手のひらの上に乗ってやっていてもいいかもしれない。
ここは居心地がいいから。
睡魔のせいにして返事を有耶無耶にしていても、それすらもきっと臣さんにはお見通しで。
優しく項にキスをされ、夜は静かに更けていく。