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    支部にあげたやつ

    卒i業i宮i高

    雪風とオレと。徒桜とあなた。――ありがとう。この世がこんなに美しいと思えたのはきっとあなたのおかげ。あの日々をこんなに愛おしく懐かしむことが出来るのも貴方のおかげ。


    『雪風とオレと。徒桜とあなた。』

    ――オレの心はずっと遠くに置き去りになっている。
    高一の三月。ロッカールーム。冷え切った鉄の板で仕切られた個人スペース。名札の抜かれた右隣。鍵が掛けられていてまるで無かった事のようにされてしまっているその空間。そこにはオレとあなたの何もかもが詰まっている。

    ――回想。
    オレのロッカーは不良品だった。鍵はスムーズに通らないし、開くと軋んだ。さらに、中にはオレよりずっと上の先輩方からのメッセージが至るところに油性ペンで書いてある始末。オマケに右隣の先輩は怖い。
    けれど俺はこのロッカーが好きだった。部活前、制服を脱いで仕舞おうとする時に必ず目に入る最奥に書かれた、がんばれ の四文字。部活後に着替える時扉の内側を見ると必ず目に入る、おつかれ の四文字。この計八文字が好きだった。
    右隣の先輩は怖いには変わりないが、案外話があったりして、部活後ダラダラ話したりした。聞けば右隣の先輩――宮地サンも一年生の時オレが今使っているロッカーを使っていたそうで、鍵を上手く通すコツ、開く時極力音を抑えるコツ、実は変なメッセージがある、とか色々教えてくれる。宮地サンは自分のロッカーの中は見せないくせにオレのロッカーをよく覗いた。そして、
    「トレカだぁ? 関係ないもの持ち込むな! 轢くぞ!」
    と叱ってきたり、
    「シーブリーズ、パインの香りなんてあるのか。 」
    と新発見したりしていた。オレはそんな宮地サンの言動と横顔が密かに好きだった。ううん、言動や横顔に限らず宮地サンが好きだった。
    ――けれどオレらは男同士だし、恋愛にかまけていられるような部活じゃないので自分の胸に秘めておこう、と誓った。


    ――だというのに。
    「これ、だもんなあ。」

    ――回想 終。


    ――つい先ほど卒業式が終わり、放課後の体育館で部活を引退したあなたを見掛けた。何故か周りを見計らってロッカールームに入るあなた。蜂蜜色の髪がふわふわしていた。しばらく遠目で見ていると、いそいそとロッカールームから出てきて、オレを見るなり気まずそうに走って行ってしまった。オレはあなたの表情を抱えたまま、ロッカールームにとぼとぼ入った。
    ロッカールームには宮地サンの残り香を感じた。それをすぅ、と吸い込み、足を踏み入れる。
    ――チャリ。
    何かを踏んだ音がした。足元を見るとぐにゃぐにゃに曲がった……

    「んだこれ、ヘアピン?」
    ヘアピンだったもの。なんでこんなものがと思いつつ、オレはいつも通り自分のロッカーに手をかける。右隣には誰もいない。何も残っていない。たったその事実がオレをまた、ここにいたあなたに縛り付ける。オレは感傷的になりつつも、ようやくロッカーを開けた。いつも通りの四文字、の横には、

    「あれ、なんだこれ、傷?」
    覚えの無い何か。
    目を凝らして見るとそこにはたった三文字。

    『オレも。』

    認知した途端、目頭が熱くなる。頬が緩んでしまった。そしてぼろぼろと涙が新緑のように息吹いた。なんでそんな大事なコトをここに書いていくんだアンタは。きっとオレはこれからアンタの事を考えながら、卒業まで、ここを使うんだ。そして、オレが引退する時に、念入りに拭き取るんだ、誰にもみられないように。ごしごしと。
    ――かつてアンタがしたみたいに。

    「気づいてたなら、言えばいいのに。」
    ――オレが実はアンタのロッカーにメッセージを書いたこと。
    見よう見まねで女子みたいな文字を練習して、こっそり、『好きです。』って書いたこと。大掃除の時、一点を念入りに拭いてるアンタを見てちょっと優越感に浸ったこと。
    大体オレも。ってなんだよ。馬鹿。大体オレ、アンタのメアド知らないし。この感情をどこにぶつけろって言うんだよ。
    アンタの進学先も知らないオレに。あんまりじゃねえか。
    「まあ、アンタらしいと言えばアンタらしい、か。」
    けれど。


    ――さようなら。悲しいけれど、さようなら。徒桜に呑まれて、あなたは居なくなってしまった。
    ああ、なんて! 今日は快晴。


    ――ご卒業、おめでとうございます。


    「宮地サン。」
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