エメラルドの太陽は反射して 最近、アサヒを真っ直ぐ見れない時がある。アサヒを見るとキラキラと眩しくて、愛おしさが胸の内から溢れてくるのだ。ひとつ間違えれば、この想いが言の葉となって漏れてしまうのでは無いかと思う程。この感情の名前が分からない程、自分も子どもでは無くなった。
窓の外を見やれば、グラウンドから賑やかな声とサッカーボールの行方に合わせて声援が聞こえる。その中心にいるのはたった今思い浮かべていた人物だった。仲間から繋いだボールをキープしながらゴール前までぐんぐん上がっていく。途中の妨害も難なくかわし、その長い脚でボール蹴り上げた。バシュッという爽快な音と共にボールがネットを揺らし、見事なゴールが決まった。一際大きな歓声が上がり、アサヒの周りを友人達が一気に取り囲む。仲間と肩を抱き合い、屈託のない笑顔で喜びを分かち合う様子が見えた。その屈託のない笑顔が周りを惹きつけてやまないのだ。汗すらも太陽の光に反射して健康的な印象を与える。
今だって、あの唇にキスしたらアッちゃんはどんな反応をするだろう、きっと柔らかいんだろうな、なんて考えている。こんな気持ち悪いことを考えているなんてバレたら、WITHどころか今の関係も失ってしまうかもしれない。
不意にエメラルドグリーンの瞳がこちらを捉えた。目いっぱい手を振りながら、何か叫んでいるようだった。
『コーちゃん!今の見てた!?』
声は届かなかったが、そう聞こえた。小さく頷き『見てたよ』と返す。ニカッと笑いグーサインをするアサヒをクラスメイト達がまだ授業の続いているグラウンドに引き戻していく。自分だけに注がれていた光はまた大勢の輪の中に戻っていった。
***
それは不意に訪れた。
「なあコーちゃん、最近体調でも悪い?」
「え?ううん、大丈夫俺はいつも通りだよ」
「そっか」
「うん」
「じゃあ、俺に何か隠し事してる?」
「……隠し事なんてそんな、俺はアッちゃんに隠し事なんてしないよ」
「うそ」
「嘘だなんて」
今日のアサヒは一体どうしたのだろう、自分でも気付かないうちに「好きだ」と心の声を漏らしてしまったのだろうか。この嘘だけは隠し通さなくてはならないのに。
「コーちゃんさ、俺とマジちゅーしたいって思ってるでしょ」
「えっ」
「だって、ずっーと俺の唇見てるし」
「そんなこと……」
「そんなこと、マジあるでしょ。いいよ、ちゅーしても」
「えっ?」
「俺、コーちゃんとならキスしてもいいよ」
"キス"アサヒの口からそんな単語が出るなんて。目は口ほどに物を言うとはよく言ったものだ。ますます、アサヒの顔を見れなくなる。
「コーちゃん、こっち来て」
おずおずと、アサヒの前まで近付き正座する。風呂上がりのアサヒからは自分と同じシャンプーの香りと混じってアサヒの匂いがした。
「もっと、こっち」
「アッちゃん、俺は別に……っんむ」
今からでも引き返せると説得する為に顔を上げようとした時、ふに、と唇に柔らかな物がぶつかった。勢い余ってお互いの歯がカチリと当たり、少し痛い。
俺は今、アサヒとキスをしている。
続くかも…