Please call me 私にとってはなんてことない『死』が、彼の上に降り注いだということ。
絶体絶命
だったのだ。
それはある晩、月が登ってすぐの頃。
エコバックを手に買い出しをしようと、人影もまばらな街並みの中を並んで歩いていた時に。高層ビルの外壁にかけられた工事の足場の横を、鼻歌交じりに通り過ぎたあとのこと。
ちょうど、小さな子どもを連れた母親が道の向こう側から歩いてきて、私達と交差したあとに同じく工事現場の横を通り過ぎようとしていたのだ、たぶん。
曖昧な理由は、私は彼女らにさほど興味がなく、振り返りすらしなかったから。だから私は、彼女たちがどんな行動をしたのかは知らない。ただきっと、急くように小走りになっていた子どもが、親の手から離れて先に工事現場の下へと足を踏み入れたのだと思う。
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