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    toketu_0212

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    toketu_0212

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    あるだん産「もくめん軍パロ」の新話です。マジで進捗が滞っています。終わりは見えてる。

    余所者の処遇〈更新2〉バンッ!!!


    俺がそうこう考えていると、突然会議室の扉が勢いよく開く。
    一体何だと身構えるが、他全員はいつものかあ…と失笑している。
    マジで何……!?

    「すみません!!会議があるということを忘れて、実験の方をしていました!!おはようございます!!!」

    この声は知っている。
    というかあの黄色い奴に並ぶくらい聞きたくなかった声。
    研究実験部隊隊長、疾風である。

    「うん、おはよう。疾風さん死刑ね」

    張り付いた笑顔で疾風さんに死刑宣言をする吐血さん。

    「ええぇえっ!?!流石に刑が重すぎませんか!?減刑を!!」

    そしてそんな吐血さんに減刑をしてもらおうとする疾風。
    コレがいつもの光景なのか…。

    「まあとりあえず座って。あー…被告人だから私の正面で」

    「な、何故っ!!」

    「とりあえず会議進めるよー」

    困惑はしつつも言われた席に座る辺り、かなりの馬鹿のように見えてしまう。
    コレでもこの国の天才科学者なんだよな…?
    そんな不信感が募る時間だった。

    ーーー

    会議が無事に終わり、帰路に着く。
    そのまま部屋に入ると、そこには驚くものがあった。

    「っ…」

    今日ちょうど探していた俺の手袋が、床の上に吐き捨てられているのだ。
    泥などで汚れたであろうそれは、かなりの激臭を放っており、それ自体がボロボロになっていた。

    「…」

    取られていたんだ、勝手に。
    勝手に取られて、泥に投げ捨てられて、ここにまた返された。
    ………自分の部屋でさえ、もう安心できる場所ではないということか。

    「……っ、…」

    嫌悪感よりも不安に近い、そんなどうしようもなく背中に嫌な汗をかく感覚をハッキリと感じて、気付けば俺はその場から逃げ出していた。

    ーーー

    逃げ出した先は、情けなくもあの人の執務室。
    あの人がいつも座って仕事をしている机の中に周って、俺はそこに潜り込んだ。
    部屋の鍵は閉めたが、犯人がどこまで入ってくるかが分からない。
    ここが1番安心するとは言っても、相手の先が読めないのが1番の難所だった。

    「……はぁ、……はぁ…!…」

    兄弟と再び会うまでの、1人だった夜を思い出す。
    結局、俺はあの時となんら変わっていない。
    …俺は1人なんだ。
    誰も信用できない、誰の前でも気が許せない。
    兄弟がいたとしても、それは変わらないんだ…。

    「…」

    そこから差す月の光は、段々弱まっている。
    知っている。
    月という味方でさえも、俺のことをずっと味方はしてくれない。
    俺はそろそろ捨てられるんだ。
    兄弟に捨てられた時みたいに。
    次第に明るくなっていく空を横目に、俺は全身の震えをただひたすら、その身で耐え続けた。

    ーーー

    「…ネシさん?なんでそこにいるの…?」

    その声に思わず顔を上げる。
    俺がここにいることに困惑しているような表情だったが、そんなことも気にせず俺は相手に懇願した。

    「あにき、おれのへや…かえて……だれもしらない…わからないとこに」

    今日の月は、三日月から新月に近付いたような月だった。
    そのおかげか分からないが、俺は喋る元気すら失っていた。
    月が欠けると、俺自身の生気も失われていくのだ。

    「!……分かった。すぐ用意するよ。だけど誰も知らないのは苦しいから、幹部数人に挟まれた部屋になるけど…大丈夫?」

    「いい、なんでも…とにかく部屋を変えてほしい…」

    力ない声でそう言うと、相手は俺の肩に優しく手を添えながら頷いた。

    「…じゃあ、私の部屋を貸すから。私の部屋は角部屋だから、隣はポタキムさんとあるだんさんだよ。…何かあったかはまた今度聞くね…」

    「うん…」

    隣がアイツであろうと、最早どうでも良かった。
    とにかく、あの部屋から逃げたかった。
    ただ、その一心だった。

    「…デーモちゃん、」

    吐血さんのその一声に、赤い狭間からぴょんと何かが跳ね出る。
    吐血さんの使い魔の1匹であるデーモちゃんだ。
    デーモちゃんは、主人である吐血さんからの命令を今か今かと待っている。

    「ネシさんをポタキムさんのところに連れて行ってあげて。この紙に連絡事項は書いたから」

    そう言って、デーモちゃんに紙を渡して俺に向き直る吐血さん。

    「…ネシさん、ごめんね。私が動くのが遅かったね。ごめんね…」

    抱き締められて、相手から謝られているのは分かるが、今は何も感じない。
    ずっと起きていたことによるとてつもない眠気と、体質ゆえの倦怠感を感じる。

    「……デーモちゃん、ネシさんをよろしくね」

    「!」

    なんという擬音かは分からなかったが、元気に答えているのだけは分かる。
    そうやって応えたデーモちゃんに服の裾を引っ張られて、俺は歩き出した。
    兄弟には…感謝の1つも言えなかったが。

    ーーー

    デーモちゃんが俺の先を跳ねて歩き、俺がその後ろを歩く。
    それは異様な光景に近かったが、何かと俺のことを守ってくれているらしい相手の存在は、いつも後ろにいる俺を気遣って前を歩いてくれた兄弟に似ていた。

    「…」

    今も一般兵たちに「デーモ隊長可愛い〜!」と言われながら自信満々に跳ね歩く姿は、どこか親しみがあり、どこか暖かった。


    「…あれ?ネシじゃん」

    唐突にかけられたその声に、ゆっくりと顔を上げる。
    そこには、いつもは忌まわしい相手の姿があったが、今はそれすらもどうでも良かった。

    「………」

    「あれ、ネシー?おーい」

    相手は俺の前でパタパタと手を動かすが、俺は気にもしない。
    かつ、始終無気力な目でそちらを見ているのだ。
    側から見たら、よほど不気味なことだろう。

    「…あ、デーモちゃん。ネシ、どうしたのー?」

    自分の服の裾を引っ張って主張しているデーモちゃんに気付いた相手は、デーモちゃんに目線を合わせるかのように姿勢を低くし、デーモちゃんから紙を受け取った。

    「吐血さんからでしょー?なになにー………へえ…」

    最後の声は、いつも聞く相手の言葉より低い声に感じたが、どうなのだろう。
    別にどうでもいいが。

    「…ネシ、大丈夫?」

    俺を見る目が、俺のことを本当に心配しているように見える。
    そこまで言われて、俺はようやく相手に言葉を返した。

    「……何が」

    「何がって、色々!…大変だったぽいし…」

    「………?」

    意味が分からないと言う風に構える俺に、相手は頭を掻いて、不服そうな表情でこちらに振り返った。

    「あ“ー……まあいいや。とりあえず…私はネシを部屋まで送り届ければいいんでしょ?…あ、でもによさんには何て言うかなあ…」

    そこまで言った相手に、今度はデーモちゃんがぴょんぴょんと跳ねた。

    「え、なになに。デーモちゃんが代わりに言ってくれるの?あ、この紙をによさんに見せてもらってもいーい?そうしたら分かってくれると思うから」

    デーモちゃんに紙を返す形で頼み事をした相手は、再度俺に向き直り、俺の手を取った。

    「ほら、行くよネシ」

    強引で荒っぽく見えるが、俺の手を握るその手は意外にも優しい。
    強くはあるが、痛くはない。
    そんな感じだ。

    「……」

    「…ネシ、私から離れんなよ」

    そこからは手を一定の力で引かれ続けた。
    相手に手を引かれながら、それを見てヒソヒソと話す一般兵たちに

    「何話してんの?」

    と威嚇をしたりなどしている相手の姿は意外だったが。
    それを見ても何も感じなかったが、相手なりに気遣ってはくれているんだろうなと。
    無心ながらもそれは感じ取れた。


    「…ほら、着いたよ。…ってか、部屋開いてる?」

    目的地である吐血さんの部屋に着いても手を離さない相手に、何故だろうとは思ったが特に何も聞かなかった。

    「うーん…あ、開いてる!吐血さん、開けててくれたんだ!」

    部屋の鍵は開いていたらしく、それに気付いた相手はすぐに扉を開けた。

    「ネシ!ほら、開いてるから!入って!」

    そうは言われても、引っ張られるだけで自分では入りはしない俺に観念して、相手は最終的に俺を部屋へと押し込んだ。

    「…入れーっ!!」

    「……うお、」

    押し込まれたことにより、思わず頭から部屋に突っ込んだ。
    体勢を崩してしまい、そのまま頭から床にぶち当たると思ったが、そんなことは防がれた。

    「……?」

    「…!?…ガイくん?!」

    自分のことを受け止めたのは、なんとガイくんだったらしい。
    ガイくんは、デーモちゃんと並ぶ吐血さんの使い魔だ。

    「………」

    ただ無言で俺の身体を支え、ゆっくりとその場に降ろす。
    顔は無表情のように見えた。

    「…な、なんでガイくんが…?」

    恐る恐るそう尋ねた相手を無視して、部屋にあるクッションたちを一箇所に集めて、ベッドから毛布まで持って来た。

    「……んわ…」

    そこまですると、再び俺に向き直り俺の身体を抱き上げる。
    そして、そのクッションを一箇所に集めたそこに俺の身体を降ろして、上から毛布をかけた。

    「…」

    終いにはとんとん、とお腹を優しく叩かれ、あやされる始末。
    これが一体どういう状況か理解するよりも前に、夜の間ずっと起きていた俺は眠気に負け、そのまま眠ってしまった。
    目を閉じる一瞬に合間見えたガイくんの表情は、どこか怒りのような…慈しみのような、そんな複雑なものだった。

    ーーー
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