Feed acolid and starve a fever「103.3°F(39.7℃)」
体温計を読上げたヴォックスは、へニャリと眉を下げ苦笑した。
目の前の薄っすら上気した頬、潤んだ青翡翠の瞳、緩く緩慢な動作、浅い呼気。久方の逢瀬に、己へ向けられた愛心だと心踊らせた結果がコレだ。
「おー。ダリぃはずだわ」
フラフラと左右に揺れながら当の本人はぽやぽやと言葉を紡ぐ。手にしたアップルジュースの入ったグラスから、パキンと氷の割れる音。
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夏も終わり、他国からの印象に違わぬ曇天と霧に沈むこの国は、ともすれば豪雨に見舞われる事も少なく無い季節に突入した。来月には、32°F近く迄気温の下がる日が増えるだろう。
ドアから滑り込んで来たミスタは、冷たい秋霖が辛うじて形を取って居ると云った形貌で、牡丹鼠色の頭から爪先までしょぼ濡れていた。
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