降り注ぐ夜の藍と「置いて、いかないで」
その丸く、真っ新な頬を透明が伝った。
世にも美しい装飾が施されたその手は、穏やかに震えていた。
初めて見た姿に、初めて聞いた言葉。
暫し、思考以外のすべてを止めてしまうくらいには、心に大きな波が立っていた。
「──、」
いつも照れ隠しにふざけてばかりで、おおよそちゃんと呼べたことのなかった彼の名前。
それは信じられないほどに甘く、彼によってすっかり傷を埋められてしまった綺麗な心にことりと落ちた。
目の前の端正な顔が、微かに微笑んだ気がした。
その頬に手を伸ばせば、白く冷たそうな印象に反して表面には熱が滞っていた。
逡巡してから、艶のある黒髪を丁寧に撫でた。
少しでも、彼に心の安寧があるように。
1043