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    くまだ

    @enbun_yum

    文章のみです。主に、ぴくしぶにあげられないような、書きかけて力尽きたもの、短すぎるものを投稿します。

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    くまだ

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    モブ霊………か??

    #モブ霊
    MobRei

    ツイッターに上げてたアチョ師弟のお話。漢方薬臭い空気に紫煙を吐き出して、霊幻はそれらがゆっくりと交じり合う様子を眺めていた。
    使い古した机に頬杖をつきながら、丸窓のガラスを揺らして伝い響く、外界の喧騒に耳を傾ける。そろそろ、怪しげなネオンが街を照らし出す頃合いだ。忙しないバイクや車のエンジン音、女達の甲高い笑い声、酔客のがなり声が聞こえてくる。
    そして、それらに混じってもう一つ、足音が近づいてくる事に気が付く。暫くすれば、手荒に扉を叩く音が聞こえた。

    「どうぞ、開いてますよ」

    そう声を掛ければ、勢いよく扉が開かれる。現れた男の顔を見た霊幻は、面倒な客が来た、と思った。男の顔は青白く、頬は痩せこけ、目の下には濃い隈が刻まれていた。瞳の焦点は定まっておらず、手は震えている。

    「人づてに聞いたんだけどよ、あんた、安くクスリを売ってくれるんだって?」

    「─────何をお望みで?」

    掛けている色眼鏡を指で押し上げて、無愛想に問い返せば、男はカッと目を剥いて怒声を上げた。

    「分かるだろ!震えが止まらねえんだよ!!俺にはクスリが要るんだ、どうしてもクスリが要るんだよ!!」

    「ああ、分かった、分かったから落ち着けよ。あんたが望むものとぴったり同じとはいかねえが、それでもいいなら処方してやる」

    そう言うと、机の引き出しから折り畳んだ薬包紙を一包み取り出した。

    「お代は要りませんよ」

    「はあ?…………まさか、毒じゃねえだろうな?」

    「いいえ、まさか」

    霊幻は包みを開いて、中の粉末を指に付着させた。そして、男の目を見ながらそれを舐めとって見せると、片方の眉を上げた。

    「どうする、やめておくか?」

    男はその問いには答えず、脚をもつれさせながら霊幻の机まで駆け寄った。そして包み紙を奪い取ると、震える手で紙幣を取り出して、なんとか筒状に丸めた。荒い息で粉を飛び散らせながら、急ごしらえの筒で鼻から粉を吸引する。その途端。

    「ゲホッ、ウッ、ゲホゲホ…………!!」

    ボロボロと大量の涙を零しながら、男は咳き込んだ。血走って澱んだ目が、ぎょろりと霊幻を捉える。

    「ッ、ゲホッ、て、てめぇ……………」

    殺意を剥き出しにして机に乗り上げると、男は霊幻の衣服の立襟あたりを、乱暴に掴み上げた。

    「殺してやる!!」

    霊幻は、振り上げられた男の拳を見上げながら、視界の端で、扉が音も無く開く様子を捉えた。
    室内に足を踏み入れた青年が、静かな声で言う。

    「………………その人から手を離せ」

    まるで、部屋の温度が急激に下がったかのようだった。氷柱の切っ先のような声音に、男の身体が強張ったかと思うと、次の瞬間、男は床の上に転がっていた。見たところ、気を失っているようだった。

    「モブ」

    霊幻は襟元を直しながら、青年の名を呼んだ。

    「その力、人に向けるなっていつも言ってるだろ」

    モブと呼ばれた青年は、切り揃えられた前髪の下の瞳で、冷たく霊幻を見据えた。

    「危険な真似はしないでくださいって、僕もいつも言ってますよね、師匠」

    「不可抗力だろ」

    「挑発してただろ、アンタ」

    床に倒れたままの男を跨いで、机上にばら撒かれてしまった粉を摘み上げる。それをひと舐めすると、彼は深いため息を漏らした。

    「また塩なんか渡して」

    「"望むものとぴったり同じとはいかない"ってしっかり言ったぜ?」

    霊幻は忍び笑いを漏らすと、青年の唾液に濡れた指を取って引き寄せた。

    「俺はただの"善良な"漢方医だからな」
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    humi0312

    DONE2236、社会人になって新生活を始めたモブくんが、師匠と通話する話。
    cp感薄めだけれどモブ霊のつもりで書いています。
    シテイシティさんのお題作品です。

    故郷は、
    遠くにありて思うもの『そっちはどうだ』
     スマートフォン越しの声が抽象的にしかなりようのない質問を投げかけて、茂夫はどう答えるか考える。
    「やること多くて寝るのが遅くなってるけど、元気ですよ。生活するのって、分かってたけど大変ですね」
     笑い声とともに、そうだろうと返って来る。疲労はあれ、精神的にはまだ余裕があることが、声から伝わったのだろう。
    『飯作ってる?』
    「ごはんとお味噌汁は作りましたよ。玉ねぎと卵で。主菜は買っちゃいますけど」
    『いいじゃん、十分。あとトマトくらい切れば』
    「トマトかあ」
    『葉野菜よりか保つからさ』
     仕事が研修期間のうちに生活に慣れるよう、一人暮らしの細々としたことを教えたのは、長らくそうであったように霊幻だった。利便性と防犯面を兼ね備えた物件の見極め方に始まり、コインランドリーの活用法、面倒にならない収納の仕方。食事と清潔さは体調に直結するからと、新鮮なレタスを茎から判別する方法、野菜をたくさん採るには汁物が手軽なこと、生ゴミを出すのだけは忘れないよう習慣づけること、部屋の掃除は適当でも水回りはきちんとすべきこと、交換が簡単なボックスシーツ、スーツの手入れについては物のついでに、実にまめまめしいことこの上ない。
    1305

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